借景


全ての予定を済ませて、やっとの思いで帰ってきた勢いでぐったりと倒れ込む。
ピンとしわを伸ばして張り切って綺麗ぶってた靴下も、つま先にくしゅくしゅとまとめて、勢いよく足を振る。今日はたまたま、ゴミ箱の四角に引っかかって干されたようにそこにもたれている。

スマホの充電コードを鞄に入れて旅に連れ回してきたせいで、断裂目前。手を洗う前にサラッとハンガーにかけたジャケットは右に重心を傾けて、今にも肩を落とそうとこちらの様子を窺っている。

片付けは、毎日続けられるほどの優等生キャラでもなければ、義務感も清潔感も身の丈に合ってない。机の上には、読みかけのファッション誌と、マックブックの充電器がそのまま置きっぱなしになって、3冊の積読が段になっている。AKIRAのポスターがこちらを鋭い目で牽制するけれど、ゆとりと怠慢のこの空間は力では支配できないと悟っている。

嘘ではないけれど、衝動任せで家に招いたドライフラワー。枯れないとはいえ、彩りは当初ほどの鮮明さはなくて、背景の白に近づいている。

春の到来を感じる日中は家にいないのに、帰ってくる頃にはマフラーと手袋をつける。

部屋の角にまとまったジャケットは、いつまで日常に住み着いてくれるんだろう。

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。