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破裂

電気ポットの湯が沸きたって、スイッチの音とともに空気はカチッと弾けた。地下鉄から地上へ向かう足が軽くなり、エスカレーターを追い越して地を蹴った。駅内移動には6分かかると、乗換案内は表示する。課せられた移動を全うする。人の間を掻い潜り、ときには人を盾にしてパーソナルスペースを絶対的に我がものにする。同じ方向を進む赤の他人に背中を任せ、一体となって一歩を踏む。

早足が地と擦れる音を遠ざけて、丈の長いコートを揺らす。黒い影が陽炎のように震えている。ひどく不安定な厚い雲を知りながら、安全な装置に再び乗り込もうとしている。どこまでも無責任でごめん。

目に映る全てが悲しく笑うなら目を瞑ればいい。

人混みよりも静かな高架下で止まる。捨てたくなるような薄暗い夢を見た。結んだ歩行路を折り返そうとする。下るとその道は4分だった。陽炎はいなくなっていた。

自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。