ものづくりで起業しグッドデザイン賞を受賞するまでにやったこと
こんにちは!作業療法士のハルです。
「ものづくりで起業したい!」という熱い想いはあるけれど、
「本当にやりはじめて大丈夫だろうか…?」
「自分のお金をつぎ込んででもやるべきなのだろうか…?」
そんな不安をもつ方は多いのではないでしょうか?
かくいう私自身も、将来作業療法士の立場から、自助具や福祉用具といったものづくりに関わりたいと思っている一人です。
この記事では、ものづくりで起業し、約半年という短期間でグッドデザイン賞を受賞したケアウィルの代表・笈沼を直撃取材!
ものづくり起業で成功するまでに実際に行ったことを、起業についてはまったくの初心者の立場から、解説します!
※「ものづくり起業についてもっと詳しく聞きたい!」という方向けに、「デザイン×ものづくり×起業」をテーマにしたオンラインセッションも開催されます。詳細は記事最後の「おしらせ」をご覧ください。
1、ケアウィルはこんなスタートアップ企業です
何の会社?
ケアウィルは、あなたの「着たい、選びたい、着て人と会いたい」という意思を第一に尊重した服づくりを目指す、「ケア衣料(※)」の専門ブランドです。まだ駆け出しのスタートアップ企業で、2022年9月から創業4期目に入ります。
私たちは、ケアを必要とする人々の人生に永く寄り添うことを目指し、服づくりを通じて、社会にある境界線をにじませることに挑戦したいという理念を掲げています。
代表はこんな人!
【代表取締役】笈沼 清紀(おいぬま きよのり)
【略歴】1981年生まれ。ITコンサルティング、M&Aアドバイザリー、経営企画や事業開発、Eコマース戦略立案・実行などに、複数の会社を経ながら従事。その傍ら、認知症の父親の介護・闘病の日々を過ごす中で提供された 商品やサービスに違和感を抱き、父の死後、デザインと機能を兼ね備えたケア衣料の開発を、服飾講師である母と開始。2019年9月(株)ケアウィルを創業。(詳しいプロフィールはこちら)
つくっている商品
現在は、以下の3商品を販売しています。
今回は、「アームスリングケープ」(上図:右)が2021年度のグッドデザイン賞を受賞するまでを振り返りながら、「ケアウィルではどうしたの?」という問いかけとともに解説していきます。
2、起業したいと思ったら最初にやること
ケアウィルのこのものづくりの進め方は、「リーンスタートアップ」と呼ばれる手法のひとつです。
リーンスタートアップの手法は、以下の手順が必要になります。
①仮説構築
:アイデアから仮説を構築して形にし、なるべくコストや時間をかけることなく製品(MVP;Minimum Viable Product)を開発する。
②計測・実験
:仮説構築に基づいて作成されたMVPに対し、少人数の顧客の反応をみる。
③学習
:計測の結果をもとに、MVPを改善していく。この時点で顧客の反応が悪い場合やうまくいかなった箇所は、その原因を突き止め、改善方法を模索する。
④再構築
:大幅に変更する必要性が生じる場合に行う。一旦戻って①~③のサイクルを繰り返す。ピボットとも呼ばれる。
より詳しく知りたい方には、代表・笈沼も熟読しているというこちらの書籍がおすすめです!
3、創業とものづくりを同時に進める
まずは全体の流れからみてみましょう。ケアウィルの起業からグッドデザイン賞を受賞するまでの流れは、以下のようになっています。
現実的に起業を検討し始めてから創業(株式会社ケアウィルの設立)までは、約4か月。量産用の製品としてはじめたアームスリングケープは、構想から完成まで約1年、さらに販売を開始したのはその5か月後です。
ここで注目したいのは、起業や製品化と同時に、ビジネスコンテストやクラウドファンディングといった、創業のための外部支援を得る準備も同時に進めていたこと。特に補助金やビジネスコンテストといった期日が絡んでくるものは、申し込み期間や締切日を調べ、うまく活用したいですね。
4、リサーチの徹底と自分なりのアウトプット
自分のアイデアに新規性があるかを確認する
まずは、自分のアイデアに新規性(客観的に新しいこと)があるかを調べましょう。特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で検索できます。その際、すでに知的財産権が取得されていた場合は権利の侵害になってしまうため、再検討が必要です。
新規性は特許を取得するうえでも重要です。新しく開発したものであっても、出願前に製品を販売したり、インターネット上に公開すると守秘義務のない人に知られることになってしまうため、新規性がないと判断されます。その結果、そのアイデアについては原則、知的財産権を取得できなくなってしまうので注意しましょう。
顧客が何を求めているかを知る
いわゆる「市場分析」です。小規模事業者持続化補助金の事業計画書やものづくり補助金の書類にも、想定する市場の動向や期待される効果について書く項目があります。
市場分析には、「顧客ニーズ」、「市場規模」、「市場・業界動向」、「競合調査」が必要です。
①顧客ニーズ
アンケート調査、インタビュー調査、インターネット調査があります。調査会社に依頼することもできます。ケアウィルでは、エヴァンジェリストユーザー(自身が課題を抱えており、課題を解決する製品開発に協力できるユーザー)へのインタビュー調査を実施しています。
②市場規模
最も一般的な方法は、「総務省家計消費統計」を利用する方法です。自社製品の世帯(人口)当たりの消費額を、自社の商圏の世帯(人口)数にかけると、おおよその市場規模を算出することができます。
この家計消費統計や地域の人口・世帯数などの調査データは、国の統計ポータルサイト「e-Stat」などから手に入れることができます。
③市場・業界動向
調査方法には、J-Net21の「市場調査データ」と「業種別開業ガイド」や、先に紹介した国の統計ポータルサイト「e-Stat」も使えます。
④競合調査
同分野の製品を取り扱っている企業を調べます。調査項目は主に、価格、品質、品ぞろえ、コミュニケーション、客層です。店舗をもつのであれば、立地や営業時間、駐車場、売場レイアウト、通路幅等についても調べましょう。
5、現実的に可能か、一度立ち止まって考える
「ものを作り始める」ことの目標が定まったら、まずは自分の日々の生活や5~10年後の人生設計とのバランスがとれるのか、できる限り具体的に考え、試算し、実行計画を立てることが大切です。
自分の今の仕事を続けながらやるのか、本当にそれは可能なのか、家庭とのバランスは取れるのか、会社を辞めたら生活費は賄えるのか、など至って現実的な話です。
コンテストや補助金は、あくまでもその実行計画を実現する手段でしかありません。たとえ行政の事業に採択されても、その多くは助成金ではなく”補助金”なので、資金は自己資金か、調達する必要があります。
6、製品づくりのパートナーを探す
具体的な実行計画が立てられたら、製品づくりのパートナーを探していきます。外注するデザイナーや工場、コネクションが既にある場合はそちらにあたってみましょう。
もしコネクションがない場合は、各都道府県の中小企業振興機関が窓口になってくれます。販路開拓や、外注先開拓、デザイナーとのマッチング等のほか、助成金や経営相談にも乗ってくれます。
7、世間に知ってもらう方法を考える
ものづくりをする人にとって、デザインアワードへの応募は、自分のつくったものに対し、第三者からの評価を受けられるチャンスでもあり、多くの人に知ってもらう機会にもなります。
その中でも代表的な「グッドデザイン賞」にケアウィルも応募しました。
グッドデザイン賞について、2022年度のスケジュールを例に見てみます。
応募方法
対象は「形のあるもの、無いものを問わず、あらゆる”デザイン”されたもの」とされています。1企業からの応募数にも上限はありません。
毎年4月にウェブサイトを通じて、その年度の応募ルールなどが発表されます。応募受付期間中に「エントリーサイト」から行いましょう。その際、アカウント登録が必要です。
応募から審査までのスケジュール
2022年度の受賞発表までのスケジュールは、以下のようになっています。
グッドデザイン賞のロゴを使用できるのは受賞発表後となるため、製品発表は10月中旬以降に合わせると、より多くの人の目に留めてもらうことができるでしょう。
費用
気になる費用は、合計157,300円です。内訳は以下のようになっています。
加えて受賞した際には、希望者のみの利用で、Gマーク使用料(年間220,000円~)が必要となります。公的機関は無料、中小企業は50%割引などの制度もあります。ただし、10月7日発表後~11月6日(2022年度の例)の間は無料で使用可能です。この間に、商品の周知をしっかりと図っていきましょう。
審査の視点
グッドデザイン賞の審査は、以下の4つの視点に基づいて行われます。
これらの視点を踏まえ、ケアウィルが提出した一次審査の書類がこちらです。
実際に公表されたページはこちらから見られますので、気になる方は比較してみてください。特に、ビジュアル写真については、大きく変化しました。
これだけでも、同じ製品で印象が異なることがわかると思います。
グッドデザイン賞のサイトからは、過去の受賞対象を検索することもできます。自分の製品と似た分類の過去の受賞対象を探し、文章や写真の魅せ方を学ぶのも参考になりますよ。
8、売り方を考える
賞を取って世間の認知度が高まると、販売の加速につながる可能性が高くなります。その時のためにも、以下のことは考えておきましょう。
グッドデザイン賞の応募条件にも、応募年度末(3月31日)までに販売できることという条件があります。
価格設定
販売価格の基本は、「販売価格ー原価=利益」になるということです。
「原価」とは、仕入れ価格や材料費、配送費、梱包材代、人件費など、商品を作るのにかかった費用の合計のことを指します。さらに加工をする場合は、加工にかかった費用も原価にふくめて計算します。また、他社サイトを経由して販売する場合は、手数料やサービス利用料も必要となります。
「原価率」は、売り上げに占める原価の割合をいい、「原価÷売上×100」で算出できます。ちなみに、アパレル業界の原価率の平均はおおよそ25%前後です。
販売価格の計算方法には、原価率や利益率をもとに計算するといった方法があります。
計算して出た価格と、製品のターゲット層やブランディングと見合っているか、顧客が本当にその価格で買うかといった視点も考慮しましょう。
在庫の考え方
在庫が過剰になると、商品の品質劣化、不良在庫の発生、商品回転率の低下、保管費の増大といったリスクが挙げられます。コストを減らしながら、利益を最大化するには、適正在庫を維持することが大切です。
「適正在庫」とは、欠品を出さない最小限の在庫数をいいます。「安全在庫+サイクル在庫」で算出します。
また、適正在庫は継続的にチェックしていくことが大切です。
適正在庫数が保てているかの判断には、在庫回転率と在庫回転期間が使われます。つまり回転率の数値が大きく、回転期間の数値が小さいほど在庫が適正であるといえます。
…と、ここまでは在庫の考え方の理論ですが、ここまで在庫を意識しなければいけなくなるのは、一定量の売上が安定的に見込めるようになってから。最初の仕入れや売上が安定的に見込めるまでの暫らくは「少量を仕入れて、確実に売り切る」を地道に続けましょう。売れるかどうかわからない製品をつくり、さらにたくさん仕入れてしまったら事業は持続できなくなってしまいます。
どこで売るか
BtoC製品(一般消費者向け)であれば、この時代、インターネットは運用費もかからず簡単にショップを開けるので必須でしょう。
一方、BtoB(法人販売)の方が適している製品であれば、違った売り方を考えることになります。
ただそれらは、リーンスタートアップでいう” Product Market Fit(顧客の課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態)”の前までの工程を終えている前提です。それを飛ばしてしまうと、売れないものを売れない先にとどけるためのチャネルにお金を投じることになるため、注意が必要です。
9、知的財産権を取得する
知的財産権取得のメリットは、権利の対象となる発明やデザインの生産、使用、販売などを独占でき、権利侵害者に対して差し止めや損害賠償も請求できるため、作った製品を自分の財産として保護することにあります。
ケアウィルでは現在、以下の知的財産権を取得しています。(これ以外にも出願中の権利が多数あります。)
手続きが難しいイメージのある知財申請ですが、中小企業向けの無料相談できる窓口もあるので、そちらを利用してみるのもよいでしょう。
申請のタイミング
知的財産権の取得において注意したいのは、申請のタイミングです。
特許法では、特許法上の発明(保護対象)を定義しており、かつ
・産業上利用できるか
・新規性があるか
・容易に思いつくものでないか(進歩性)
・先に出願されていないか
・公序良俗等を反しないか
・明細書等の記載は規定通りか、
といった一定の要件が満たされる発明についてのみ、特許が付与されると規定しています。意匠権も同様に、新規性が必要です。
グッドデザイン賞のようなコンテストに応募することは、すなわち”多くの人の目に触れる”ことになるため、新規性は失われます。知財の取得も検討している場合には、申請のタイミングに注意しましょう。
知的財産権とは
知的財産権は、知的財産基本法において、以下のように定義されています。
知的財産は、その目的によって、下の図の二つに分類されます。普段よく耳にする”特許権”や”商標権”といった権利も、この知的財産に入っています。権利期間は、種類によって異なり、出願から10年~25年です。
特許審査の流れ
出願前には、4、でも述べたように、すでに特許取得されているものでないか先行技術調査が大切です。調査が終わったら特許願を作成し、書類(窓口/郵送)またはインターネットで出願します。
出願後の流れは、以下のようになっています。
費用
取得する知的財産権の種類や数によって、費用は変わってきます。今回は「特許権」を例にみてみます。出願から登録までに、最低でも約17万円必要となり、登録後も権利の維持のために特許料の納付が必要で、これは年数を重ねるごとに費用も高くなります。
特許・実用新案・意匠・商標に関する料金については、特許庁のHPに手続料金計算システムもあるので、詳しく知りたい方は活用するのも良いでしょう。出願審査請求料、特許料については減免措置もあります。
取得に要する期間
通常だと、特許出願から審査請求までに2~3年かかるため、特許取得までには合計で4~5年かかってしまうことも。
早く特許の取得をしたい場合には、出願から3年以内に「出願審査請求書」を特許庁に送付して審査請求を行います。費用はかかりますが、通常より早く審査の順番待ちに入れます。
ただし出願と同時に審査請求をしたとしても、取得までには1~2年はかかるので、余裕を持ってスケジューリングしましょう。
不安な場合は弁理士に依頼する
知的財産権の手続きは、弁理士に依頼することもできます。その場合、出願から登録までにかかる費用は、約40万~60万円です。登録後は、登録料の納付代行手数料として数千円~かかります。日本弁理士会では無料相談も受け付けているので、まずは相談してみるのも良いでしょう。
10.ものづくり起業で大切なこと
最後に、「ものづくり起業で大切なこと」について、聞いてみました!
ものづくりで起業することで、「自分が作りたいもの」へ焦点が当たりすぎて方向性が変わってしまわないよう、注意が必要ということですね。熱い想いももちろん大切ですが、リサーチや試作品、資金のやり繰りといった冷静な判断ができる必要性も感じました。
ケアウィルは、これからも同じようにものづくりで起業したい皆さんを応援します!ものづくり起業について、「ここのところ、もっと知りたい!」という声がありましたら、ぜひコメントにもお寄せください。
----おしらせ----
現在Makuakeにて実施中である、「洗濯ネットバッグ」のクラウドファンディング 目標達成を祝しまして、2022年10月初旬から代表・笈沼がものづくり起業についてお話するオンラインセッション(全5回を予定)の実施が決まりました!
オンラインセッションは、代表・笈沼のtwitterアカウント(@NoriOinuma)より、twitterのスペースにて実施します。
テーマ等の詳細は、代表・笈沼並びにケアウィル公式アカウント(@carewill_PR)より流しますので、気になる方はぜひフォローをお願い致します!
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