記事一覧
「存在しない女たち」キャロライン・クリアド = ペレス
※2020年頃に書いたものです。
中学生の頃の話だ。ある晩、母親が「500円あげるから食器洗いをしてくれない?」と言った。
それほど大仕事でもないし、別に疲れるわけでもない洗い物が時折ものすごく面倒になることは、たかだかひとり分の茶碗と皿で済む今の僕にもよくわかる。それでも普段からコツコツと家事をこなしていた母が、「たかが食器洗い」に(我が家のお小遣い事情からすると
ホーキング博士と口下手な僕
昨年、ホーキング博士が亡くなった。76歳だったそうだ。映画「博士と彼女のセオリー」の中で、病気(ALS)を発症した学生時代に、あと数年しか生きられないと言われていたと知った時には驚いた。電動の車椅子で歩き、合成された人工の声で話したホーキング博士。本人が「このせいでサングラスやカツラをしてもバレてしまう」とネタにした、異形とも思えるその姿が僕は好きだった。世界でも指折りの英知を守るための特別な待遇
もっとみる4. ヒッチハイク完結編
悠然とホームに滑り込んでくる新幹線みたいな迫力で、それは僕たちの前に現れた。
からりと晴れた秋の始まりの日、相変わらずヒッチハイクで旅を続けていた僕とEさんは、軋む音を立てて目の前に停車した巨大な鉄の塊を前に、互いの顔を見合わせていた。タイヤだけでも30個くらいある冗談みたいな代物が、プシュー、プシューと音を立てて身震いしている。自分で停めておいて文句を言うのもなんだがちょっと怖い。貧乏旅の足に