見出し画像

2. ヒッチハイク前編

ニュージーランドの旅の続きだ。

通称「キウイ」と呼ばれるニュージーランド人は、お隣オーストラリア人の付き合いやすさに北欧風の奥ゆかしさをまぶして、仕上げにタイ人の微笑みを回しかけたような気質を持っている。町を歩いていても、目が合うと誰もが大抵ニッコリと笑いかけて「ハロー」とあいさつをしてくれるようなお国柄だ。見慣れぬ旅人に嬉しそうにハニカミスマイルを投げてくれる小さな子どもたちのことは今でも忘れられない。僕たちは、まるで散歩道で出会う野の花みたいな彼らのことがすぐに大好きになった。そして今にして思えば、それが油断の始まりだった。

入国してから一気に南島へと移動した僕たちは、手始めに東側を海沿いに南下することにした。移動手段は相棒Eさんの希望でヒッチハイク。2人なら心強いし、おまけに旅費まで浮くのだから反対する理由はない。さっそく翌朝から決行することにして、意気揚々と宿の共同キッチンへ向かった。腹が減っては戦ができぬと景気良くイワシの缶詰を開け、トマトやタマネギと一緒に炒めたおかずを大盛りのご飯に乗っけてテーブルに着く。周りのバックパッカーに「匂いはまあまあだけど見た目は残飯だ」とイジられながらモリモリ食べて、ぐっすりと眠った。

翌朝、早めに宿を出た僕たちは、教わったヒッチハイクのポイントへと向かった。前にも後ろにも、ライバルのような仲間のような微妙な距離を空けて、同じように車を待つ旅人の姿が見える。ヒッチハイクというと車に向かって親指を立てるのが定石だが、ここニュージーランドやオーストラリアでは、車道を指差しながら車を背にしてどんどん歩くというやり方もあるらしい。実際、はるか前方にも旅慣れた風体のバックパッカーがのんびりと歩いているのが見えた。それもかっこいいなと思ったが、1日歩き通した挙句に人里離れた田舎道で日暮れを迎えるなんて耐えられそうにない僕たちは、腰を据えて臨む作戦を選んだ。

初めてのヒッチハイクは、晴れがましさと照れくささがごちゃ混ぜになって、変なニヤニヤが止まらなかった。「こんな感じ?」とポーズを決めて写真を撮り合ったりしながら、交代で道端に立つ。時間にして約15分、10数台が僕たちの横を素通りして、ほんのり不安な気持ちが湧きあがった頃、Eさんの親指に1台の車がヒットした。駆け寄るEさん。遅れて僕。運転席には、クリスマスの度にトラブルに巻き込まれていた頃のブルース・ウィリスみたいなおじさんが座っていた。祈るように目的の町を告げる。ブルース(仮名)は言った。「オーケイ、乗れよ」 。顔はニューヨーク市警のタフガイだが、話す言葉はバリバリのニュージーランド訛りだった。

続きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?