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ニュージーランドの旅の話

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ニュージーランドの旅の話です。
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記事一覧

4. ヒッチハイク完結編

悠然とホームに滑り込んでくる新幹線みたいな迫力で、それは僕たちの前に現れた。 からりと晴れた秋の始まりの日、相変わらずヒッチハイクで旅を続けていた僕とEさんは、軋む音を立てて目の前に停車した巨大な鉄の塊を前に、互いの顔を見合わせていた。タイヤだけでも30個くらいある冗談みたいな代物が、プシュー、プシューと音を立てて身震いしている。自分で停めておいて文句を言うのもなんだがちょっと怖い。貧乏旅の足にするにはあまりにオーバースペックすぎる気はしたが、何はともあれ僕たちはずーっと先

3. ヒッチハイク中編

思いがけずあっさりとヒッチハイクに成功した僕たちは、喜び勇んでブルース(仮名)の車に乗り込んだ。 実は、僕たちが簡単に車を捕まえられたのには、単なるビギナーズラックだけではない理由があった。ブルースが言うには、カップルのヒッチハイカーは乗せる方も安心なので停まってもらいやすいのだそうだ。僕たちはいわゆるカップルではなかったけれど、童顔の東洋人の中にいても若く見られるルックスはいかにも人畜無害、「どこでも生きていけそう選手権」優勝候補のむさくるしいベテランバックパッカーを愛車

2. ヒッチハイク前編

ニュージーランドの旅の続きだ。 通称「キウイ」と呼ばれるニュージーランド人は、お隣オーストラリア人の付き合いやすさに北欧風の奥ゆかしさをまぶして、仕上げにタイ人の微笑みを回しかけたような気質を持っている。町を歩いていても、目が合うと誰もが大抵ニッコリと笑いかけて「ハロー」とあいさつをしてくれるようなお国柄だ。見慣れぬ旅人に嬉しそうにハニカミスマイルを投げてくれる小さな子どもたちのことは今でも忘れられない。僕たちは、まるで散歩道で出会う野の花みたいな彼らのことがすぐに大好きに

1. 出発編

ニュージーランドの旅の話だ。 北海道と短い本州のような形をしたこの国は、日本で言えば本州側にあたる南島に見所が多い。フィヨルドがあり、アルプスの山並みがあり、ハイジが駆けてきそうな景色の中に水色の絵の具を溶いたような可憐な湖が現れ、「世界一美しい散歩道」と称えられるトレイルが世界中のハイカーを虜にする。旅の途中、地理を学ぶドイツ人の学生が「ここではヨーロッパのあらゆる地形が一度に見られるんだよ」と教えてくれたが、たしかに僕もこの国で、昨日はスイス、今日はノルウェーというよう