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「一見さんの6つのルール」

繁盛している飲食店には、必ず店を愛してくれている常連さんが存在する。
店を愛し、スタッフとも気心が知れて、家族ぐるみの仲、なんて関係もあるだろう。
店が満席になると進んで席を空けてくれるようなスタッフ的な気配りができる、そんな縁の下の力持ち的存在、それが常連さんだ。
だが、どんなに家族のような親しい常連さんも、初めはみんな「一見さん」なのである。

私の店にも常連さんは存在している。
20年以上も店をしていると、常連さんの年功序列が出てくるのも面白い現象であるが、今日の話したいことは少しちがう。

初見のお客さん、つまり一見さんのルールについてだ。
私の肌感覚のルールはこうだ。

1.無礼な振る舞いをしない
2.泥酔で来店しない
3.初めての店では激しく酔わない
4.ある程度の素性を明らかにする
5.他の客に対し下品に馴れ馴れしく話さない
6.ショットで一気するなどのパーティー乗りはしない

これは、かなり常識的な感覚だと思う。
私は、このルールを守れない一見さんは、店に対して失礼だと思っている。
そんな客には、常連さんになってもらいたくないし、愛してもらっても困るのである。

今はとくにコロナ対策によって、素性の知れない一見さんの来店をお断りしている店も少なくない。
こういうお客は、どの店からやって来て、どの店に行くのかも判らず、店側は警戒しなくてはならない。
店側の対応も、あまりお客さんを刺激するような言動を慎んだり、煽りあうような振る舞いは避けねばならない。

もし、一見さんがルールに引っかかった場合、どのような対応をしなければならないのかも、店側は覚悟しておかなければならない。
なにも、クレーマーはお客側ばかりではないのである。
店側も、店にそぐわないお客が来た時、不本意ながらも伝えなければならないことがある。
しかも相手はシラフではなく、しっかり酒の入ったお客だから、感情が激しくなっているのは間違いない。

まず、彼らの作っている空気(悪ノリの楽しい空気)なら、それを壊します。
喧嘩ノリになる前に受け入れられない店側の実力不足を謝罪する。
それから、なぜ受け入れられないのか、事情をハッキリと説明させてもらう。
さきほどの6つのルールだ。
その時の店の空気は凍りついたように、シーンと静まりかえり、店内のBGMだけが虚しく流れている雰囲気だ。
他のお客や常連さんは、固唾を飲んで私の対応を注視しているのが解る。
私は怯むことなく、お会計を出し、宜しければまたのご来店を待つと伝える。
十中八九、再来店はない。

中には稀有な存在もいる。
1ヶ月ほど経った後、1本のモルトウィスキーを持参して、謝罪してくれたお客さんがいた。
そのお客さんは、今や17年の大常連だ。
トラブルは、どこにでも起こるものだ。
だが、このトラブルを、ただのトラブル回避くらいに考えるのではなく、毅然とした対応をして、再来店を待つくらいの気構えがないといけない、私は思うのである。

さて、昨夜やらかしてくれた、二人の一見さん。
「明日また来ます!」
と豪語していたが、果たして来店してくれるだろうか。

私は、覚悟を持って彼ら二人を待つことにする。



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