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記事一覧

こんな夢を見た。I had a dream like this.

 もうすぐ長い長い休憩時間が終わり、社会復帰としての再就職が始まります。マンションの管理人という未知なる仕事で、不安と期待と、感謝と達観と、そこをあえて、気楽に気楽にと考えています。
 先日こんな夢を見ました。3棟あって、それぞれ11階建で、473戸のマンションで管理人をしている自分。定時になって帰ろうとするけれど、出口が見つからない。迷宮。夜が更けてくる。パニックになり目が覚める。
 夢判断は得

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野茂は自立主義者だ。Nomo is an INDIVIDUALISTS.

 雑誌はほとんど読みませんが、特集記事によっては、ときどき読む雑誌があります。『Sports Graphic Number』です。2020年8月20日発売の1009号の特集は【<メジャー挑戦25周年 完全保存版>こんな夜に野茂英雄が読みたい。】でした。ところで、こんな夜とは?
 野茂英雄ファンの私としては無視できない特集です。近鉄時代は藤井寺球場で、メジャー挑戦後はNHKのTVで応援していました(

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文は人なり。The sentence is a person.

 先日、「ひみつのしつもん」(岸本佐知子著・筑摩書房刊)を読了しました。著者は翻訳家ですが、エッセイがとても面白いです。過去に講談社エッセイ大賞を受賞しています。どのエッセイも丁度良い長さ(短さ)なので、何かの合間にも読むことができます。でも結局、面白すぎて一気読みしてしまいます。
 タイトルにもなっているエッセイが秀逸です。著者はログインのときに、身元確認のための「秘密の質問」に答えを入力するの

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210日 210 days

 夏目漱石の作品に『二百十日』があります。漱石作品の中では超マイナーですが(台風時期ということで)一読をおすすめします。主な登場人物は阿蘇山に登ろうとする、圭さんと碌さんの二人。ビールはないが恵比寿がある、という女中さんとの会話は、案外、有名かもしれません。二人は悪天候(台風?)のせいで登れませんが。
 作品のとしての評価はともかく、漱石の同時代批判が随所に見られる作品です。特に圭さんの口から語ら

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デジタルでも他者と共に在ることを実感できるか? Can you really feel that you are with others even digitally?

 先日、『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために―』(ドミニク・チェン著/新潮社刊)を読了しました。この本は新潮社のWebマガジン「考える人」での連載『未来を思い出すために』をもとにしています(『未来を思い出すために』というタイトルが個人的に好きです)。情報学者の著者が、ますますグローバル化+デジタル化していくコミュニケーションの未来を、著者自身のエピソードを紹介しながら、前向きに語ってい

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悠々として急げ。Festina lente.

 先日、『悠々として急げ 開高健対談集』(開高健著・日本交通公社刊・1977年初版)を読みました。書店社員から学者、デザイナー、酒造主人、作家など、12人との対談が収録されています。12人目の対談相手は作家の開高健(タカシ)です。開高健(ケン)が健(タカシ)と対談するという趣向になっています。
 第1回の対談の前書きに「悠々として急げ」の由来が書かれています。「ある王様の治政の座右の銘だったと伝え

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ダンス・ダンス・ダンス Dance dance dance

 村上春樹さんのファン(村上主義者)としては『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』は好きな作品群です。その先にあるのが『ダンス・ダンス・ダンス』です。未読の方のために多くは語りませんが、単独で読んでも充分興味深い作品です。
 個人的には、主人公の「僕」と同じようなライター稼業をしていた、当時の私にとっては「文化的な雪かき」という意味合いは他人事ではありませんでした。全体の印象

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練馬ナンバーの黒塗りのタクシーの運転手の正体とは? What is the true identity of a black taxi driver with a Nerima license plate?

 村上春樹さんの初期の短編集に『カンガルー日和』(刊・単行本=平凡社 文庫本=講談社/絵・佐々木マキ)があります。どの短編も春樹ワールドが楽しめますが、今回は「タクシーに乗った吸血鬼」を取り上げます。
 渋滞した道路上でタクシーの車内に閉じ込められる僕と運転手の会話で構成される短編です。私は単行本(1983年)で読み、後に文庫本(1986年)で読んでいます。単行本で読んだ時は大学生で、文庫本で読ん

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「語ることができないことについては、沈黙するしかない」が、語るべきことは語ろう。We have no choice but to silence what we cannot say. But we will tell you what to say.

 先日『世界は贈与でできている』(近内悠太著・ニューズピックス刊)を読了しました。教育者で哲学研究者(専門はウィトゲンシュタイン哲学)である著者のデビュー作です。副題は「資本主義の『すきま』を埋める倫理学」となっています。
 私自身がベーシンク・インカムや利他主義などに興味があり、さらに「贈与」「倫理学」「ウィトゲンシュタイン哲学」というキーワードに引かれたので、この本を読んでみることにしました。

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1961年6月25日、日曜日。Sunday, June 25, 1961.

 ビル・エヴァンスは私の好きなジャズ・ピアニストの一人です。私にジャズを教えてくれた大人たちのほとんどは、もっとハードで哲学的なジャズが好みであったようで、エヴァンスに対しては、ただのBGMだとか、家具みたいな音楽だとか、とにかく甘いだとか、どちらかといえば否定的でした。
 実際に自分で聴き始めてみて、数十年経ちますが、家具のように、ただそこにある、甘いBGMであるにしても、それも一つのジャズであ

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納屋は焼かれたのか? Was the barn burned?

 ときどき読み返す大切な本が私にはあります。その中の一冊が『螢・納屋を焼く・その他の短編』(村上春樹著・新潮社刊)です。
 収録作品の「螢」は、のちのベストセラー「ノルウェイの森」の原型で、哀愁溢れる短編です。最後の螢が消えていくシーンは、夏の終わりであり、青春の背中を見送るような心持ちになります。
 一方、収録作品の「納屋を焼く」は、かなり奇妙な短編です。この短編集の中では、この作品が最も好きで

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生と死をめぐる対話。A dialogue about life and death.

 以前私は『死を生きた人びと』(小堀鷗一郎著・みすず書房刊)を紹介する記事の中で、以下のように予告していました。
【小堀さんの新刊『死を受け入れること---生と死をめぐる対話----』(小堀鷗一郎著/養老孟司著・祥伝社刊)も読んでみようと思っています(養老さんとの対談ですから興味津々)。読後には、また記事を書きます。】
 本日、ついさっき『死を受け入れること---生と死をめぐる対話----』を読了

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『高瀬舟』で「安楽死」はわからないが再読する夏の夜。No one knows "euthanasia" when reading "Takase Bune", but I reread it on a summer night.

いろいろなストレスで鬱病になると死にたくなる
でも今も生きていると死なずに良かったと思う
仕事が決まらずに今ゴクツブシのように寝食
生きる価値などないと徐々に思えてきても
それでも今は生きていきたいと思うのに
世の中では今の私を必要としていない
死にたくないけれど死んだ方がいい
そんなふうに私が私に囁きかける
それでもまだ生きたいと願う私
もう充分だとため息をつく私
一体どちらの私が本当の私
私の

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8つの切り口で世界を堪能。 Please enjoy the world in 8 cut.

 『一人称単数』(村上春樹著・文藝春秋刊)読了しました。単行本になる前に初出で読んだものが殆どですが、改めて読んでも、今回も充分に村上ワールドを楽しめました。もちろん、これからも何度も繰り返し読みます。何度読んでも新しい発見がありそうな予感がします。以下に、8つの短編について短い感想を記します。

ご注意! ネタバレになるかもしれませんので『一人称単数』を読了後に、以下を読むことをお薦めします。

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