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社会科学

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記事一覧

『大砲からみた幕末・明治:近代化と鋳造技術』中江秀雄著、法政大学出版局、2016

たたらは日本古来の製鉄法。われわれの祖先が営々として築き上げた日本独自の製鉄法で、千年以上の歴史をもつ。たたら操業には日本刀などの鋼を造る鍛押しと、鉄鋳物の原料である銑鉄を造る鉧(けら)押しがある。
この写真のたたらは日刀保たたらで、現代の刀工にその原料である玉鋼を供給することを目的に操業されている。したがって、もちろん、鉧押しである。鉧押しでは三日三晩操業した後にたたら炉を取り壊して、その中から

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『現代戦略論:大国間競争時代の安全保障』高橋杉雄著、並木書房、2023


はじめに2022年は歴史に残る年となった。2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、ロシア・ウクライナ戦争が始まったのである。これは、戦域の広さ、参加兵力の大きさ、国際社会の関わりなど、多くの点で、21世紀や冷戦終結後どころか、第二次世界大戦後最大級の戦争となっている。

特に現代の問題を扱う安全保障の専門家にとって、同時代史は必須の知識であり、「20XX年には何があったか?」と問われれば何かしら

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『最貧困シングルマザー』鈴木大介著、朝日新聞出版、2015


プロローグ2009年ほどメディア上でシングルマザーの経済的窮状が報じられたことはなかったように思う。4月に自公政権下で廃止された生活保護の「母子加算」。これを復活させるかの論議に加え、緊急経済支援であった「子育て応援特別手当」の執行停止も論議を呼んだ(母子加算は09年12月に復活)。だがそんなニュースを、僕は寒々とした思いで聞いていた。

僕の前著は、親元や児童養護施設などを長期間にわたって飛び

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『ハワード・ヒューズ:ヒコーキ物語』藤田勝啓著、イカロス出版、2005


はじめにハワード・ロバード・ヒューズ・ジュニア(一九〇五~一九七六)という男がいた。彼は資産が一〇億ドルを超える、アメリカで有数の大富豪だった。父の遺産を受け継ぎ、若くして百万長者の仲間入りをしたヒューズは、様々な事業に手を出したが、情熱を注いだのは映画と航空機だった。

映画の製作に乗り出したヒューズは、三作目がアカデミー賞(監督が喜劇部門の最優秀監督賞を獲得)に輝き、超のそのあと大作「地獄の

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『通史 アメリカ軍用機メーカー』青木謙知著、コーエーテクモゲームス、1998


前書き1996年12月3日、新旅客機ボーイング777の取材でシアトルにいたときのこと。広担当者が昼前にビッグ・ニュースの記者会見がある、と知らせてくれた。もちろん会見には出席できないのだが、ボーイング社では電話回線を使って会見の模様を誰でも聞くことができるシステムを採っており、さっそく広報の事務所でその電話を聞かせてもらうことにした。

その時の会見の内容は、ボーイングとマクドネル・ダグラス社が

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『福祉資本主義の三つの世界』イエスタ・エスピン=アンデルセン著、1990. 引用参考文献

引用参考文献*()つき数字は邦訳あり。 また、本書公刊時に近刊が予告されており、その後出版年度、タイトルに変更があったものは、改めてある。 255、256頁参照

Aaron, H. and Burtless, G. (eds) 1984: Retirement and Economic Behavior, Washington, DC: The Brookings Institute.

Alb

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『福祉資本主義の三つの世界』イエスタ・エスピン=アンデルセン著、1990


日本語版への序文日本型福祉国家の特殊性

本書を英語で出版して以降、多くの批判を受けてきた。最も手厳しかったのは、(本書があまりにもジェンダーについて無知であるとする)フェミニストからのものと(特定の福祉国家を分類する方法について異議を表明する)各国研究の専門家からのものであった。これらは正当な批判であり、私は、分析基準を再考したり、分析枠組みに必ずしもうまく当てはまらない国についてはより慎重に

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『福祉国家と平等 : 公共支出の構造的・イデオロギー的起源』ハロルド・L・ウィレンスキー著、1975


感想全体

1段落が長すぎる…

番号付き箇条書きを使い過ぎで、重要度の順番付けが分からない…

日本語版への序文

全体的に日本の情報に通じてないように感じる。日本なんかは非西欧国で非常に興味深い事例だと思うのだが…

確かに日本の産業化はドイツ・スウェーデンに比べたら遅いが、年金制度の開始のように50年かそれ以上離れていることはない。

日本の場合は、従来は親との同居が多かったが、戦後の都市

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『社会福祉学』平岡公一/杉野昭博/所道彦/鎮目真人著、有斐閣、2011

社会福祉学とは何か第1部 ソーシャルワークの展開第2部 福祉国家の形成と展開5章 福祉国家の形成社会福祉制度はきわめて複雑で巨大な国家システムの一部を形成している。「福祉国家」という語を聞いたことのある人も多いであろう。しかし、このシステムは、突然整備されたわけではなく、社会的・経済的背景から構築されてきたものである。この章では、イギリスの例を中心に、国による個人の生活ニードを充足するための役割が

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『長篠合戦の世界史:ヨーロッパ軍事革命の衝撃1500~1800』読書感想文


この本の原題は"The military revolution : military innovation and the rise of the west, 1500-1800"なので、タイトルの「意訳」が過ぎるように思われるかもしれない。しかし、「軍事革命」の1つがマスケット銃の普及と、それを使う斉射戦術であり、なんとその斉射戦術が欧州で導入されたのが1590年代なのである。日本史に詳しい人

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『中国の論理:歴史から解き明かす』岡本隆司著、中公新書2392、2016。感想

基本的なメッセージは「むすび」に纏められている。

著者は書いていないが、1億人いると言われる中国共産党員が「士」になるのだろうか。

ただ、尻切れ感がぬぐえないのは、史学の立場から「士」「庶」の現実のあり様を書いてきたと同時に、いかにそれを儒教が表現してきたか、あるいは儒教が思考の枠組みを制約してきたかという点も本書の眼目であり、それが20世紀の「近代化」で終わったかのような説明で終わっている(

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『脱税の世界史』大村大次郎著、宝島社新書、2019

はじめに ~国家とは税金である~

歴史上、「税金のない国」というのは、存在したためしがありません。

現代のサウジアラビアなどは、国家財政のほとんどを石油の収入で賄っているので「税 「金がない」ともいわれています。が、実際には少額ではありますが税金は課せられていま すし、まず何より石油の収入を国が独占しているということ自体、間接的に国民から 徴収していることになります。

また初期の古代ローマは

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『愛国の起源──パトリオティズムはなぜ保守思想となったのか』将基面貴巳著、ちくま新書1658、2022

はじめに「愛国」のイメージ

みなさんは、「愛国」や「愛国心」という言葉にどのようなイメージを持っていますか?

日本の美しい四季や自然への愛着でしょうか。あるいは、日本のスポーツ選手が世界大会で活躍するのを応援することでしょうか。

人によっては、日本の優れたものづくりの伝統や、独自の歴史や文化を誇りに思うこと だと考えるかもしれません。さらに、そのような意味で国を愛することは当然だと思う人が多

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『戦争の経済学』 ポール・ポースト著、バジリコ、2007

第1部 戦争の経済効果第1章 戦争経済の理論1.1 はじめに

1.2 戦争の鉄則

コラム1.1 歴史的に見てみると――世界大戦に見る1人当たりGDPと勝敗

戦争の経済的な影響の見通しを図る重要な指標は、戦争前の1人当たりGDPの水準だ。 20世紀 世界大戦での主要交戦国の様子を見てみよう。

他の国に比べて1人当たりGDPが高いと、いくつ か有利な点がある。まず、基本的な生存に必要なもの を

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