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詩など

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自作の詩,詩のようなことばをまとめています。
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#自由詩

【詩】半月  (#シロクマ文芸部参加作品)

【詩】半月  (#シロクマ文芸部参加作品)

朧月
よく見れば 半分

光は輪郭を溶かし
実は半分であることを
さりげなく誤魔化しながら
夜毎ふくらむ 花を誘う 

もう半分はどこへやったの?
欠けたの? 亡くしたの?
それとも
これから造るの?

朧月
よく見れば 半分

夜毎ふくらむ花のひとひら
よく見れば 月

・・・・・・
見上げた月が,ちょうど半月の朧月でした。
思わずシャッターを切りました。
月に誘われコブシも咲き出し、すっかり春

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【掌編】夕暮れ日記【散文詩】

赤青鉛筆で日記を書く。赤で下書きし、青でなぞれば、少し黒っぽい紫色の一日が仕上がる。

「今日は楽しかった」、そういうことにしておきたい、あかいことば。「今日は楽しかった」、辿りながら少しはみ出してしまう、あおいことば。

赤いわたしは青い私に塗り込められて、陽炎になる。不器用さのせいで重なり合えないはらいの先は、二つの色に分たれたまま、互いの影を見つめて震えている。

赤青鉛筆を擱けば、少し黒っ

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【詩】おもたい

【詩】おもたい

長患いに瘦せ細った祖父は、死ぬ前
風呂に入れれば、その湯が
服を着せれば、その衣が
おもたい、――おもたい、と
呻くように呟いていた
五体満足に生きていたら
気にすることもないものたちの、重みを

亡くなった後
故人の服を捨てようと
集めてまとめて袋に入れれば
一枚二枚では感じなかった
衣の重みがずっしりと
袋を持ち上げる指に
引きちぎれんばかりに、食い込む

いつだって身軽でいたい
けれど人生は

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【詩】生爪

【詩】生爪

サンダルの隙間から太陽を跳ね返していた
金銀のジェルネイルは
急な冷え込みに慄いた

秋雨に縮む靴の中
爪先に残っていた夏は
ばらばらに壊れ、剥がれて落ちた

現れたのは、随分息を塞がれて
少し白っぽくなって筋張った
久しぶりの生爪

雨を洗い流した風呂の中で
眺める足先の生白さ
柔らかく頼りないわたしの魂は
この身の隅々から不意に現れる

いつもより丁寧に体を拭いて
生まれたてのような爪

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【詩】平和のように

【詩】平和のように

花の名前はどのように決まり
どう受け継がれてきたのだろう
曽祖母も祖母も
なぜあんなにたくさん
花の名前を知っていたのだろう

あれはなに
おしろいばな
のうぜんかずら
さるすべり
きれいかねぇ

手を引かれ歩いた細い道
夕方の太陽の色をした実を
あるいは道端にこっそりと色づく
赤紫の丸い点々を
指さしては首を傾げた

あれはなに
からすうり
へびいちご
たべれると?
たべれんとよ

あれはわたし

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【詩】とどけもの【掌編】

【詩】とどけもの【掌編】

しずかな日曜日の午後
夕方に差し掛かるころ
インターフォンが鳴る

届けられたのは
化粧箱に入った
ひとつかみの 心

とどけもの、受け取りました。早速、風にさらして水に活けて、日の当たる窓辺に、飾りました。獣を飼うのも植物を育てるのも全く得意ではないのですが、せっかくとどけて下さったから、このまましばしお預かりします。
―――――――季節の変わり目どうぞご自愛を

受領の報せは書いたものの
宛先

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【詩】神無月の野

【詩】神無月の野

神様が留守にすると
秋は、素知らぬ顔で
その不在を誤魔化そうとする

金木犀を心地よく香らせ、
萩の小さな唇を色づかせ、
月に綺麗な化粧を施すので

秋風の手を取れば
目眩ばかり

神様がさぁ、留守なんだってさ  
 (ちゃんとお留守番できる?)

あの日、棚の中からくすねた
わたしという名の小さなドロップス

愛を与え 罰を与えるため
神様は作られたけれど
この世界に記録され続ける
わたしたちは

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