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雪柳 あうこ
2024年3月17日 20:26
朧月よく見れば 半分光は輪郭を溶かし実は半分であることをさりげなく誤魔化しながら夜毎ふくらむ 花を誘う もう半分はどこへやったの?欠けたの? 亡くしたの?それともこれから造るの?朧月よく見れば 半分夜毎ふくらむ花のひとひらよく見れば 月・・・・・・見上げた月が,ちょうど半月の朧月でした。思わずシャッターを切りました。月に誘われコブシも咲き出し、すっかり春
2023年4月2日 16:21
赤青鉛筆で日記を書く。赤で下書きし、青でなぞれば、少し黒っぽい紫色の一日が仕上がる。「今日は楽しかった」、そういうことにしておきたい、あかいことば。「今日は楽しかった」、辿りながら少しはみ出してしまう、あおいことば。赤いわたしは青い私に塗り込められて、陽炎になる。不器用さのせいで重なり合えないはらいの先は、二つの色に分たれたまま、互いの影を見つめて震えている。赤青鉛筆を擱けば、少し黒っ
2023年2月6日 06:30
長患いに瘦せ細った祖父は、死ぬ前風呂に入れれば、その湯が服を着せれば、その衣がおもたい、――おもたい、と呻くように呟いていた五体満足に生きていたら気にすることもないものたちの、重みを亡くなった後故人の服を捨てようと集めてまとめて袋に入れれば一枚二枚では感じなかった衣の重みがずっしりと袋を持ち上げる指に引きちぎれんばかりに、食い込むいつだって身軽でいたいけれど人生は
2022年10月3日 07:00
サンダルの隙間から太陽を跳ね返していた金銀のジェルネイルは急な冷え込みに慄いた 秋雨に縮む靴の中爪先に残っていた夏はばらばらに壊れ、剥がれて落ちた 現れたのは、随分息を塞がれて少し白っぽくなって筋張った久しぶりの生爪 雨を洗い流した風呂の中で眺める足先の生白さ柔らかく頼りないわたしの魂はこの身の隅々から不意に現れる いつもより丁寧に体を拭いて生まれたてのような爪
2022年8月15日 09:04
花の名前はどのように決まりどう受け継がれてきたのだろう曽祖母も祖母もなぜあんなにたくさん花の名前を知っていたのだろうあれはなにおしろいばなのうぜんかずらさるすべりきれいかねぇ手を引かれ歩いた細い道夕方の太陽の色をした実をあるいは道端にこっそりと色づく赤紫の丸い点々を指さしては首を傾げたあれはなにからすうりへびいちごたべれると?たべれんとよあれはわたし
2022年8月8日 08:15
しずかな日曜日の午後夕方に差し掛かるころインターフォンが鳴る届けられたのは化粧箱に入ったひとつかみの 心とどけもの、受け取りました。早速、風にさらして水に活けて、日の当たる窓辺に、飾りました。獣を飼うのも植物を育てるのも全く得意ではないのですが、せっかくとどけて下さったから、このまましばしお預かりします。―――――――季節の変わり目どうぞご自愛を受領の報せは書いたものの宛先
2022年2月6日 23:02
神様が留守にすると秋は、素知らぬ顔でその不在を誤魔化そうとする金木犀を心地よく香らせ、萩の小さな唇を色づかせ、月に綺麗な化粧を施すので秋風の手を取れば目眩ばかり神様がさぁ、留守なんだってさ (ちゃんとお留守番できる?)あの日、棚の中からくすねたわたしという名の小さなドロップス愛を与え 罰を与えるため神様は作られたけれどこの世界に記録され続けるわたしたちは