マガジンのカバー画像

北海道のことば

18
北海道弁や、日常のことばについて
運営しているクリエイター

#北海道弁

【エッセイ】ける

【エッセイ】ける

 近所のおじさんが運転する白いセダンで出かけた。助手席に私、後ろに姉と叔母さん。
 数日前に多めに降った雪が残っている。アスファルト以外の地面はほとんど分厚い雪の下だ。天気が良くて、道路の雪はきれいに溶けていた。気温は低い。
 廃屋が雪の重みに耐えかねてつぶけている。珍しくもない風景だけど、なんとも言えない気持ちになる。

 ちょっと感傷に浸りそうになり、あわてて思考を少し巻き戻す。
 あれ、つぶ

もっとみる
【エッセイ】いずい

【エッセイ】いずい

 職場の偉いひとたちが打ち合わせをしている。腕を組んで、まじめな話をしている。
「そうすると、こうなる。それじゃあいずいべよ」
「うーん。いずいですね」
「したら、こっちのほうが良いんでないか。予算も足ささるし」
 彼らはまじめな話をしているのに、はたで聞いている私は下を向いてニヤニヤしてしまう。マスクをしていて良かった。
 方言丸出しの打ち合わせは間もなく終わった。私は結論を聞き逃した。方言が気

もっとみる
【エッセイ】どら、

【エッセイ】どら、

「どら、貸してみれ」
 なんて言うおじさん連中も、このごろは少なくなった。
 このままでも意味は通じると思うけど、標準語だと「どれ、貸してみな」ってところかな。

「けさ、ヤッと出かけるべと思ったっけ、ガラスしばれっちゃって車出せないもんだもん」
「あれだもの」

 夕暮れどき、近所のうちの洗濯物が外に干ささっていて心配になる。雪も降りだしそうだ。
 きっと忙しくて、取り込むのを忘れてるんだろう。

もっとみる

【エッセイ】こわいを知った日

 子どものころ、母や祖母が「あーこわい」「やーこわい」と言うのを不思議に思っていた。
 こわいには、疲れたとかしんどいとかだるいという意味がある。でも、言葉としては知っていても感覚がよくわからない。疲れたは疲れただし、だるいはだるい。だから、自分ではこわいと言うことはなかった。

 それから月日は流れ、大人になった。
 丈夫がとりえのわたしも、しばらく体調がすぐれない期間があった。
 病院に行くほ

もっとみる
言葉の備忘録 2

言葉の備忘録 2

チビタンコ
 大正生まれの祖父は軽トラのことをチビタンとかチビタンコとか言っていた。わたしたちも小さいころはそう呼んでいたが、祖父がいなくなってから、すっかりその言葉を忘れていた。
 祖父が運転するチビタンコの荷台に乗って、山に行く。沢を下りてみたり、木立の中に分け入ってみたり、祖父がスコップや鎌を使ってやる作業を眺めたりした。
 姉は植物や動物に詳しく、クワの実やコクワの実やマタタビをとって遊ん

もっとみる
言葉の備忘録

言葉の備忘録

 どって? こって。

  どうやって? こうやって。

 なして? なんでも。

  どうして? どうしても。

 もう、ナスはあれ以上おがらないな。

  もう、ナスはあれ以上大きくならないな。

 お茶まかした!

  お茶こぼした!

 みそ汁かやしちゃった。

  みそ汁ひっくり返しちゃった。

【エッセイ】北海道弁

【エッセイ】北海道弁

 ねこばちょしてたっけ、かっちゃかれたさ

 とか、

 あったら山の中だら、熊いたっておかしくないべ

 というのが北海道弁であるという自覚はある。ふだんから使っている言葉だ。
 しかし、北海道弁でしゃべってみて、などと言われると、とっさには出てこないものである。
 北海道弁といっても地方によって方言があったりするし、もしかしたら我が家だけで使っている言葉や言い回しもあるかもしれない。
 年配の

もっとみる