死ぬことすら出来ない辛さ　17 〜重度訪問介護初日〜

訪問看護は9時まで。
それまでに繋いだ痛み止めの点滴を外し、胃の薬を注入する。
ゴミは医療廃棄物のため、流しの下にまとめておく。
往診で来た時に持って行ってもらうようだ。

『 退院して久しぶりの実家はどうでした？よく眠れました？ 』

「 病院よりは良いけど、やっぱり痛くて長くは寝ていられないよ。横で夫が寝ているけどちょこちょこ起こすのも悪いし 」

『 痛み止めの座薬は使いました？ 』

「 夜の10時過ぎくらいと、朝方4時くらいかな。使っても痛みはなくならないよ 」

『 座薬入れてもそれほど効果はないのですね 』

『 痛みの閾値ってのがありまして、痛みに対して強いか弱いか、痛みを感じやすいかってことなんですけど、眠れていなかったりストレスがかかっていると痛みを感じやすくなるので少しの痛みでも痛くなるんですよね 』

『 病院に長く居て、久しぶりに家に帰って来たことも環境が変わったことでストレスに感じているかも知れませんね 』


家がストレスな訳ないでしょ。あなたがストレスよ。早く帰ってよ。って、言いたいけど我慢するわ

・・・これもストレスね。

「 もう帰って良いわよ 」

『 時間までもう少しありますが？ 』

「 夫がいるから大丈夫よ。終わったならもう大丈夫よ 」

『 分かりました。では、またお昼に伺います。失礼します 』

「 はい。ご苦労様 」

これでストレスが減れば痛みに強くなるのかな。

看護師は夫に報告して家を出た。

【 看護師の心の声がダダ漏れタイム 】
『 好かれてないのは分かりますが、1時間居るのはしんどいですね。会話が続かないし、初日から色々聞くのも気が引けるし。
朝昼夕の1日3回は精神的にきついかも知れない。
早く帰らせてもらえて良かった。
あぁ、お昼はどうなるのかな。不安でしかたない 』

9時近くになるとチャイムが鳴った。

やはり夫は出迎えない。

挨拶と共に訪問介護員（ ヘルパーさん ）が入って来る。

過去にも訪問介護は利用していたが、今回からはヘルパーさんは来たら夜まで居てくれる。

重度訪問介護といって、市区町村に申請すると月に何時間訪問介護を使って良いと決定が下る。

私の場合は、自分で身体を動かすことができないので1200時間以上となった。

1日は24時間
30日（ 1か月 ）で720時間

1200時間って多すぎるよね。

実はこれには意味があって、ヘルパー1人なら1200時間。常に2人来てもらうなら1200時間割る2で600時間となるようだ。

昼間だけでなく夜中も居てもらえる。

私には夫がいるけど、一人暮らしだと夜間付き添ってもらわないと何もできないからね。
もちろん、家族が介護から離れて休むために利用するのも大丈夫のようだ。

家族の介護疲れは何かと問題になりやすいから疲労回復や逃避は重要よね。

夫が負担と感じた時には夜来てもらおうと思っているの。

私が施設に入れば良いじゃないかって？

冗談じゃないわ！

施設なんか入らないわ！

一泊二日のショートステイ（ 短期のお泊まり ）だってゴメンだわ。
私は家に居たいし、私に慣れてる人にやってもらいたい。
だから、夜間ヘルパーに来てもらって、夫がどこかのホテルに泊まる。

ビジネスホテルでも旅館でも好きな所で寛いでもらいたい。

美味しい食事、温泉、起こされることのない夜間

たまには自分にご褒美をあげるべきだと思うの。

まぁ、まずはこのヘルパーさんが私に慣れてくれるかどうかによるけどね。

ヘルパーさんにやってもらいたいことはたくさんあるの。

まずはお顔のお手入れからやってもらうわ。

「 洗面所にお顔のお手入れグッズが入ったカゴがあるから持って来て 」

化粧水、乳液、クリームなどがぎっしりと詰まっている。

「 ベッドをやりやすい高さに上げていいわよ 」

コントローラーで自分の身長に合わせて高さを調節する。

「 じゃあ、まずはフェイシャルトリートメント。
白っぽい容器のやつ 」

どのくらい取ればよろしいですか？

「 つけ過ぎる分には良いから、手のひらに適当に出して顔に満遍なく塗って 」

手のひらにとり、顔につけ始める。

「 全体に塗ってね 」

「 次はジェノプティクスウルトオーラ。少し小さな容器のやつ 」

これも同じ量で良いですか？

「 満遍なく塗ってくれればいいわ 」

あの、この化粧水とかってものすごく良いやつじゃないですか？

「 え？そんなことないわよ 」

「 最後は赤い容器のスキンパワークリームね。つけたらしばらく手で温めるようにして浸透させて 」

わかりました。

こんな感じですかね。

「 うん。いいわ。
これを毎日お願いね。
お手入れグッズはまた元の場所に置いといて 」

はい。

あぁ、病院ではやってもらえなかったけど、自宅でならこういうこともやってもらえるのよね。

やっぱり自宅が一番良いわ。