マガジンのカバー画像

バックパッカーズゲストハウス

70
二〇〇九年、二十七歳の時に、秋葉原にあるゲストハウスへ四ヶ月滞在したときの旅行記です。 著者の記憶違い、主観が多分に含まれています。また、主に登場人物に関して名前や設定を故意に…
運営しているクリエイター

2020年12月の記事一覧

バックパッカーズゲストハウス③「高速バス」

 仕事柄、稼ぎに浮き沈みはあるが、出費は常に多かった龍の懐事情に合わせて、送ってくるのが飛行機代かバス代か、その時によって違った。バスで東京を離れるときはいつも、
「もし、この街にもっと長いこと滞在したらどうなるのかな」と思いながら車窓を眺めた。

 東京、愛媛間をバスで移動するのはつらい。肉体的なことだけではない。私は酔うので、バスでも電車でも本を読めない。精神的に、何時間もただ座って、目を閉じ

もっとみる
バックパッカーズ・ゲストハウス④「旅の計画」

バックパッカーズ・ゲストハウス④「旅の計画」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 それからしばらくし、前記したように風来坊になろうと思い立った。行き先は東京。風来坊なので定住はしない。かといって余りにも短いとただの旅行と変わらない。バイトでもなんでも大体三ヶ月したら飽きてくる。でも飽きてから先に見えるものがある。職場でいえば、誰々と誰々は本当は仲が悪いとか、あいつと

もっとみる
バックパッカーズ・ゲストハウス⑤「荷物を担ぐ」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑤「荷物を担ぐ」

 前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 フリーターなりのマナーとして、リタイヤを宣言してから一ヶ月ほど消化試合をこなした後、日雇い派遣の会社に登録した。当時、日雇い派遣は、「登録制バイト」と呼び方を少しマイルドに変えて、爽やかな印象のテレビCMを流す会社がいくつかあった。これは金貸しが明るいCMを流したがるのと同じ、悪いも

もっとみる

バックパッカーズ・ゲストハウス⑥「トラックドライバーとラジオ」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 繁忙期の引っ越し作業は、朝六時集合で夜十時とか十一時まで仕事ということがざらだった。ヤバいことに社員は、十一時に我々派遣が帰った後もまだ、次の現場に向っていた。

 よく派遣されていた、引っ越しも請け負う運送屋に、「津川さん」という五十代のドライバーが居た。この業界の人としては珍しく、

もっとみる
バックパッカーズ・ゲストハウス⑦「パンになった男」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑦「パンになった男」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 自分でシフトを組める環境下で、二日続けて十五、六時間の肉体労働をこなすほど変態ではなかったので、私は一勤一休のペースで働いた。本業の人には到底敵わないが、よく働いた方じゃないかと思う。時間1,000円だか1,100円だか貰えて地方都市としては上等な時給だった。それでも、どういう分けか引

もっとみる
バックパッカーズ・ゲストハウス⑧「モヒカンの誘惑」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑧「モヒカンの誘惑」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 時間を切り売りする以外にも、なにか金を作る方法はないかと考えたが、私に出来ることは競輪の予想ぐらいだった。競輪の予想には、映写機を回すよりも専門的な知識がいる。そのスキルを頼りに、たまに入る日雇いで得た金を元手に競輪場に通った。しかし、手っ取り早く路銀を用意したいという思いに引っ張られ

もっとみる
バックパッカーズ・ゲストハウス⑨「モヒカンの弊害」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑨「モヒカンの弊害」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

「モヒカンのコンテストで世界チャンピオンになった」と龍が嘘くさい紹介をした美容師に刈ってもらった。自分で言うと信憑性に欠けるが似合っていた。愛媛に帰ると、お世辞なんて言うはずのない弟に、「今まで見たモヒカンの中で一番格好いいと」と褒められた。はたして弟がどれほどのモヒカンを見たことがある

もっとみる
バックパッカーズ・ゲストハウス⑩「旅立つ前に」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑩「旅立つ前に」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 私が雇われた立ち飲み屋は、元々野球中継を流し、おでんを出すような店だったのを、不良のイスラエル人が買い取り、自分好みにDIYした結果、昭和とサイケデリックが混在する空間になっていた。狭くてL字型のカウンターに八人並べば満席の店だが、大通りに面した路面店なのと、三百円から飲めること、同じ

もっとみる