コンフォートゾーン編:『コンシャス・ユー〜自らの物語の主人公になる』翻訳出版記念・特別ワークショップ
本記事は、邦訳出版に向けて準備中の書籍『Conscious You:Become the Hero of Your Own Story』の著者ナーディア(Nadja)こと、ナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)を招いた特別オンラインプログラムの第1回コンフォートゾーン編についてレポートしたものです。
ピーター・カーニック氏(Peter Koenig)が提唱したソース原理(Source Principle)、マネーワーク(Money Work)のスペシャリストであり、心理学修士号を修めたコーチとして活動するナーディア(Nadja)。
彼女は今年3〜4月にかけての初来日の間、パートナーのオルガ(Olga Taranczewski)と全国各地を巡りながら各地の日本人ホスティングメンバーと共にさまざまなプログラムを実施し、彼女の知恵をわかちあってくれました。
後日、『すべては一人から始まる』(英治出版)翻訳者の一人である青野英明さんが主導で開催された振り返り会でも、ナーディアは日本滞在中の出会いや交流についてのビデオメッセージを送ってくれるなど、再来日にも強い意欲を示してくれていました。(当日の動画は以下からご覧いただけます)
上記のような流れを汲んで企画された今回のプログラムは、4月に開催した京都プログラムのホスティングチームを担った特定非営利活動法人場とつながりラボhome's vi /ティール組織ラボ主催で開催されました。
全4回、オンラインで開催される本プログラムは、『Conscious You:Become the Hero of Your Own Story』の全11章のうちの4章、厳選された4つのテーマについて各回ごとに探求し、深めていくものです。(各回参加も可能です)
第1回に当たる今回はその中でも、第1章の内容に相当するコンフォートゾーン(Comfort Zone)について扱いました。
当日はプログラム全体の背景や意図の紹介を嘉村賢州さん、進行を山本彩代さん、テクニカルサポートを浅井葉月さんに務めていただき、ナーディアには後半部の質疑応答を、芦田奈緒さんにナーディアの通訳を担当いただきました。
以下、当日の内容について関連する情報にも簡単に触れつつ、まとめていきたいと思います。
当日、参加された方はプログラム中に受け取ったもの・深めたことの振り返りに、今回の記事をきっかけにプログラムについて知られた方は、当日の空気感やエッセンスに触れることにご活用いただけると幸いです。
本企画の背景と主催団体について
場とつながりラボhome's viとは?
特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viは『未来のあたりまえを今ここに』をパーパスとして掲げ、社会の一人ひとりが幸せになれる組織づくり・仕組みづくり・コミュニティづくりに挑戦する、場づくりの専門集団です。
2008年に設立されたhome's viはこれまで、国内外のさまざまなファシリテーション技法やコミュニケーション技法の調査研究と2014年以降の継続的な連続講座シリーズの実施、そして、これらの手法を用いたまちづくり活動、大学での講義、企業研修、組織変革といった活動に取り組んできました。
home's viの代表理事を務める嘉村賢州さんは、集団から大規模組織に至るまで、まちづくりや教育などの非営利分野から営利組織における組織開発やイノベーション支援に至るまで、規模の大小や分野を問わず、年に100回以上のワークショップを実施するファシリテーターとしての活動を積み重ねてきた、国内のファシリテーション実践の先駆者でもあります。
また、home's viのメンバー一人ひとりも独自の専門性を探求する経験豊かなファシリテーターであり、多くのメンバーが以下のような書籍に事例やファシリテーション手法に関する寄稿を行い、一人ひとりが本当にその人らしい個性を発揮し、活かしあいながら化学反応を起こしていくためのアイデアを紹介されています。
以上のように、年に100回以上の対話の場づくりを行ってきた賢州さんですが、ある時から「折角いい対話が生まれても次に繋がらない」「働いている人の本当に多様な個性を生かせていない」と、感じるようになったと言います。
そして賢州さんは、以下のような問いに突き当たりました。
このような中で賢州さんが出会ったコンセプトが「組織の問い直し」であり、フレデリック・ラルー氏の著した『Reinventing Organizations(組織の再発明)』でした。
2018年に邦訳出版された『ティール組織』(英治出版)は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞、2019年にはフレデリック・ラルー氏の来日イベントも開催されました。
また、ラルー氏が来日時に組織における役割の一つとしてソース(Source)について言及されたことをきっかけに、ソース原理の探求も始まり、賢州さんは山田裕嗣さん、青野英明さんと共に『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』の翻訳に携わることとなりました。
home's viは2022年8月に京都で開催されたトム・ニクソン氏の招聘イベントを主催した他、今年4月に開催されたナーディア招聘プログラムのホスティングチームを関西の有志と共に務めたことがご縁となり、今回のプログラム開催に繋がりました。
ティール組織ラボとは?
『ティール組織』(英治出版)は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。
フレデリック・ラルー氏の組織の再発明(Reinventing Organizations)というコンセプトや、現在、世界中で現れつつある新しい組織の形に関していち早く情報をキャッチした賢州さんは、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に参加しました。
ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスの報告会は、2016年10月に東京・京都で開催され、国内における『Teal組織』の探求・実践を活発化させる契機となりました。
2018年1月のフレデリック・ラルー著『ティール組織』出版以降、国内では新しい働き方・組織運営のあり方に関するムーブメントが巻き起こり、『ティール組織』をはじめとする様々な情報が積極的に発信されるようになると同時に、実際に書籍などの情報をもとに実践する企業・団体が多く現れました。
そして、2024年現在。国内における『ティール組織』の概念の急速な広がりや実践の増加によって生じたさまざまな状況について、落ち着いて振り返る時期が訪れつつあります。
さまざまな状況の例としては、以下のようなものが挙げられます。
一方で、海外に目を向けてみると、まだまだ日本では一般的になっていない『ティール組織』に関するウェブサイトや、企業における豊富な実践事例が多数存在しています。
このような背景のもと、国内の状況にもったいなさを感じていた賢州さんはフレデリック・ラルー氏に『ティール組織』に関する国内外の情報を統合して閲覧できるメディアづくりについて提案し、ラルー氏もこの提案に賛同されたことから、ポータルサイトづくりが始まったとのことです。
そして、2023年12月、『ティール組織ラボ』というティール組織(Reinventng Organizations)をはじめとする進化型組織の情報ポータルサイトが公開されました。
なお、『ティール組織ラボ』とは、情報ポータルサイトの名称でもあると同時に、ティール組織やソース原理などの新しいパラダイムに基づいて運営される組織・コミュニティのあり方を研究する有志団体の名称でもあります。
有志の研究団体としての『ティール組織ラボ』は、2020年頃からティール組織に関する講座作り・実施や、国内外の情報を集めるポータルサイトのオープン・情報発信を行ってきました。
また、今年からは定期的な読書会や月に一回のラジオ番組なども実施されており、こちらのリンク先で最新情報が確認できるほか、現在は以下のようなイベントも公開されています。
ナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)
ナーディア(Nadja)ことナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)は、心理学修士号、国際コーチ連盟(ICF)のマスター認定コーチ資格を持つ、『Conscious You: Become The Hero of Your Own Story』の著者です。
また、自身の組織であるConsciousUにて、パートナーであるオルガ・タランチェフスキ氏(Olga Taranczewski)らと共に世界中のCEO、創業者、コーチ、ファシリテーターをサポートし、組織やコミュニティにConscious Tribe(コンシャス・トライブ)を広げる活動に取り組んでいます。
ソース原理に関連しては、ナーディアは2014年にピーター・カーニック氏の提唱した概念を初めて論文(Whose Idea Was it Anyway? The Role of Source in Organizations)として紹介した人物でもあります。
人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威と影響力、創造的なコラボレーションに関する知見であるソース原理(Source Principle)は、お金に対する一人ひとりの価値観・投影(projection)ついて診断・介入できるシステムであるマネーワークの発明を機に生まれており、これらはいずれもイギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱されたものです。
ピーターには『すべては一人から始まる』著者のトム・ニクソン氏や、現在、邦訳準備中のソース原理関連書籍『A little red book about Source』著者のステファン・メルケルバッハ氏など、世界各地にソース原理、マネーワークを学び、独自に発展させているお弟子さんに当たる人々がいますが、ナーディアもまたその一人です。
ConsciousUのYouTubeでは、ナーディアとピーターによるお金に関する対話の動画がYouTube上でも公開されており、以下のようなテーマも対話の中で扱われています。
また、ナーディア来日時の京都プログラムの模様については、以下も参考までにご覧ください。
当日のプログラムについて
プログラム構成と4つのテーマ
当日のプログラムは大きく2部構成で実施されました。
前半の45分は、ナーディアから提供いただいたビデオによるインプットと内省、参加者の皆さんで小グループに分かれての対話。
後半45分は、ナーディアへの質疑応答です。
今回のオンラインプログラムは、ナーディアの書籍『Conscious You:Become the Hero of Your Own Story』の内容のうち、厳選した4つのテーマについて各回ごとに深めていける構成となっています。
ナーディア曰く、ConsciousUでは本書の内容をカバーし、学んでいける各種のプログラムを準備しており、今回はその中でもCU*becomeで活用している動画を今回のプログラム用にカスタマイズし、提供してくださっているとのことでした。
また、全4回で扱う4つのテーマ『コンフォートゾーン』『学習のはしご』『トランスフォーメーション・マップ』『氷山モデルと奥にあるニーズ』はいずれもシンプルであるものの奥深く、探求の入り口としても使えるほか、これらのテーマをきっかけに自己の探求を深めていくことができる、ということをお話しいただきました。
なお、今回のプログラムで好評いただけた場合、CU*becomeのすべてを日本語で紹介したいので、その際は賢州さんにリクエストしてくださいね、とも付け加えられていました。
4つのテーマに関して賢州さんからは、ぜひ自分自身や自分の組織に引き寄せて考え、内面の探求を進めてみてくださいとの促しもありました。
コンフォートゾーン
今回、扱ったテーマはコンフォートゾーン(Comfort Zone)です。
人は誰しも自分自身が快適に感じる環境や状況、状態があります。そのこと自体は健康的であり、自然なことでもあります。
一方で、コンフォートゾーンに留まり続ける限り、新しいものや革新的な洞察に出会うことはありません。
また、コンフォートゾーンの外に身を置くことは不快に感じることであり、コンフォートゾーンの中にいるような、安心安全、快適な状態ではありません。その場所はディスコンフォートゾーン(Discomfort Zone)と言えます。
一方で、このディスコンフォートゾーンは学習ゾーン(Learning Zone)とも呼べる場所であり、新しいもの・未知のものに対峙し、恐れに立ち向かう勇気を持って挑戦することで、学習や成長することができる領域でもあります。
このようなビデオによるインプットの後、内省のための5つの問い、また、グループ対話のための新たに5つの問いが参加者に投げかけられました。
ナーディアと家族の物語
前半部の終了後はナーディアがZoom参加し、ナーディアがなぜ自身の現在の活動に至ったのかに繋がる彼女の物語を伺いました。
まず、ナーディアは自身を、第二次世界大戦で深い傷を負った家族の出身だと紹介しました。
彼女の名前であるナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)はドイツ系の名前ではありません。スラヴ系・ロシア人であった彼女の父方の祖父に由来する名前です。
ロシア人の祖父とポーランド人の祖母は強制収容所から生き延びたものの、母国に帰ることが叶わずドイツで生きていくこととなりました。
そして、彼らは抱えた痛みやトラウマを、アルコールや暴力に頼ることで癒そうとする家族システム・習慣を形作ることとなりました。
また、ドイツ人の母方の祖父母の家庭はナチスが台頭する自国において「良き市民」として過ごしてきました。
そのため、戦後は罪悪感(guilt)と羞恥心(shame)を抱え、抱えた痛みや葛藤に対して沈黙するという家族システムや習慣を形作ることとなりました。
このような家族の系譜から、ナーディアは生まれました。
彼女が生まれた1970年代のドイツ社会は一見、正常に戻ったように思われましたが、上世代で癒されることなく引き継がれ、父や母の世代からこぼれ落ちた痛みやトラウマを感じながら育つこととなりました。
10代の頃のナーディアは摂食障害や自傷傾向、うつ的な状態に陥り、何も変化を起こすことができないという無力感に苛まれていたと言います。
その後、20年かけてセラピーの受診や自ら心理学を修め、自己成長に努める中で、家族や先祖のストーリーを受け取り、自身が果たすべき役割も明確になったとお話しされていました。
当日の質疑応答
当日、さまざまな質問が参加者の皆さんから投げかけられましたが、印象に残った2つの質疑について以下、ピックアップしようと思います。
働き方・お金に対する意識とコンフォートゾーン
まず1つは、働き方やお金に対するコンフォートゾーンに関するものです。
その方のご家族や代々、いわゆる上からの指示を受けて働く人々であり、ご両親もサラリーマン。一時期、事業を起こした人もいるが、手痛い失敗の後に撤退をされているというお話でした。
一方、その方は自営業として活動しているものの、自身のサービスの値付けに関してとてもディスコンフォートに感じられ、しかもそれは何度も感じられるとのことでした。
このような問いに対し、ナーディアは家族や先祖のストーリーがお金の見方やコンフォートゾーンのあり方に影響を与えることがあるということ、また、家族や先祖のストーリーからどのようなギフトを受け取っているか?を認識することで、コンフォートゾーンを広げていけるともお話しされていました。
さらに、自分自身がお金に対して投影してしまっている自身の一部を取り戻す手助けとして、取り戻しワーク(Reclaiming Work)の紹介や、青野英明さんが現在、日本語での提供を準備しているCU*moneyというプログラムについても言及されていました。
コンフォートゾーンを広げるために何ができるか?
続いて印象に残ったやりとりとして、複数の質問に共通していた「コンフォートゾーンを広げる」ことについて、どのような方法が考えられるのか?についても取り上げられればと思います。
ナーディア曰く、コンフォートゾーンは5歳くらいまでの子ども時代の体験をもとに基本的なモデルが形作られます。
そして、それは両親をはじめとする保護者、養育者に当たる人々に何をすれば喜ばれるか、褒められるか、無視されるか、罰せられるかといった学習によって形作られ、それらの経験がコンフォートゾーンを定義していくと言います。
また、現在の私たちは子ども時代のままではありません。
自身のコンフォートゾーンに意識的になり、以下のような問いに向き合うことで、コンフォートゾーンを広げていくことができます。
また、これらの問いかけは私たちが普段、無意識に行っている行動に「本当にそれは必要なことなのか?」と問い直すことにも繋がります。
私たちは普段、リラックスするため、休息のための称してテレビを見る、ずっと寝る、SNSを眺める、とにかく食べるなどをすることがありますが、これらの行動が自分にとって本当に安心やリラックスに繋がっている望ましいものとは限りません。
第4回では、自分の本当に望んでいるニーズと価値観、感情、行動などとのつながりを『氷山モデルと奥にあるニーズ』というテーマで探求していく予定ですが、この会でさらに深堀できるかもしれない、とナーディアは紹介してくれました。
さらなる探求のための関連リンク
7/23(火)、8/6(火)、8/19(月)コンシャス・ユー〜自らの物語の主人公になる〜翻訳出版記念・特別ワークショップ(各回参加受付中)
提唱者が語る! 人間らしい自然なビジョンの創作を可能にする「ソースプリンシプル」&「マネーワーク」
要望型から提案型へ。市民の主体性をはぐくみまちを変えた「人が集う場」の力とは?
2024年8〜9月開催:ティール組織・各論シリーズ講座|ティール組織への深い理解からはじめる組織進化
この記事が参加している募集
サポート、コメント、リアクションその他様々な形の応援は、次の世代に豊かな生態系とコミュニティを遺す種々の活動に役立てていきたいと思います🌱