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自分自身や関係性の中にある多様性を楽しむことから場づくりがはじまる~NPO法人 場とつながりラボ home’s vi 山本 彩代~

京都の今を生きるU35世代の価値観を集めたメディアです。
次期「京都市基本計画(2021-2025)」を出発点に、これからの京都、これからの社会を考えます。

人が幸せになれる組織や社会づくりに挑戦しているNPO法人「場とつながりラボ home's vi」に所属し、ファシリテーターとして活躍する山本彩代さん。

「伏見をさかなにざっくばらん(伏見区役所)」や「ボランティアの入り口デザインプロジェクト(京都府社会福祉協議会)」などの事業を通して、さまざまなプロジェクトを創出。得意のグラフィックファシリテーションを活かし、講義やミーティングの可視化をされています。

そんな山本さんが大切にされている価値観「#まちに関わる機会をつくる」「#まずは私たちからやってみる」「#捉え方から幸せをデザインする」について迫ります。

■ファシリテーション
 「人々が集い、何かを学んだり、対話したり、創造しようとする時、その過程を、参加者主体で、円滑かつ効果的に促していく技法」 (2012年中野民夫)

■グラフィックファシリテーション
 話される内容をその場で可視化しながら、ファシリテーションしていく技法。記録にとどまるものもあれば、ビジョンや葛藤を話し合うものまで多様。日本だけでなく世界でも実践者が増えている。

ファシリテーターとして場づくりや組織の在り方を研究し、未来の社会のために進化させていく

───ご自身のお仕事や活動について教えてください

山本彩代(以下、山本):今はファシリテーターとして活動をしているのですが、学生の頃の国際交流団体での体験がきっかけです。そこでは誰かと何かをする楽しさと難しさに直面し、手探りでしたが、「せっかく人が集まるんだから、どうやったら面白く、充実したものにできるんやろう?」と、会議の進行役や議事録役をしてみたり、アイスブレイクやチームビルディングを考えて試行錯誤していました。

そんな中、知人である他の学生団体のリーダーから教えてもらったのが、今私が働いているNPO法人「場とつながりラボhome’s vi(以下、ホームズビー)」でした。ホームズビーは、京都で2007年から場づくりをテーマに活動し始めた団体で、「京都市未来まちづくり100人委員会」の1~3期を担当していたり、当時メジャーではなかったグラフィックファシリテーションを学ぶ場を作ったりしていました。「こんな団体、地元にはない!いいなぁ!」と思ったのが、興味を持った始まりでしたね(笑)

その後ひょんなご縁で、2015年からホームズビーに参画することになりました。特に力を注いだのは「伏見をさかなにざっくばらん」という事業。多様化してきたまちの課題があるなかで市民の方によりまちに参加してもらう機会をつくり、行政と市民が手を組んで実践していこう、という活動です。市民の方の既に持っている想いや関心からはじまるまちのプロジェクトがたくさん生まれるようなコミュニティづくりを目指しました。

そういった活動をしているうちに、大学や企業の方からプロジェクトづくりの依頼を受けることが増えたり、京都市で行っていることを他の地域でも聞かせてほしいという依頼を受けたりと、ありがたいことに全国に活動が広がっています。

───ファシリテーターとして場づくりやまちづくりに取り組む以外にも力をいれていることはありますか?

山本:現在は「ティール組織」という進化型組織の探求や企業の組織にまつわるサポートが多くなっていますね。

2015年にホームズビーの代表が1年間休業し、世界を旅する中で探究を始めた「ティール組織」は、柔軟に形態や活動を変えながら、存在目的に向かう、新しい組織のあり方です。「社会の変化に応じて柔軟に活動を変えながら、関わる人を大切にし合える組織」について日本でも学べる機会を持とうと、「Invitation to Teal Journey」という事業をスタートしました。ティール組織についてオンラインで直接質問できる機会を設けたり、組織を柔軟な形に変えていきたいという経営者の方々とお話したりする中で、長期的な目線での組織改革をサポートしています。

ホームズビーの今のところの存在目的は、「未来の当たり前を今ここに」。メンバー一人ひとりの気づきや関わる方々からの依頼や社会動向を参考に、常に私たちは何に呼ばれていてこれからどんな取り組みをすることで未来の社会に貢献できるのか?ということに目を向けています。

そこで生まれる「こんな考え方や仕組みがあったら、もっと○○が動きやすくなるんじゃないか」と思うことを、まず私たち自身で実験してみるんです。例えば2017年に、SlackやZoomといった連絡ツールを取り入れ、ホラクラシー(=ティール組織の3つの突破口である自主経営の1つの方法)をベースに仕事を切り替えたんです。当時は使い慣れていなかったのですが、早めに取り入れたことで、コロナ禍でも仕事のやり方で全く慌てずに済みました。このように、うまく進んだ事例もありますが,逆にうまくいかないこともあるので、相談相手に対して、実際に組織やチームで取り入れていく時のコツとして伝えていけるのかなと思っています。

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捉え方ひとつで関わる人との関係性や一緒にいる空間が、可能性に満ちたものに変わる

───「場づくり」をしていく上で、ご自身が大切にされていることはありますか?

山本:人に対しての捉え方です。人との関わり方で場がつくられていくので、手法や企画以前に「参加者は相手のことをどう見ているのかな?」と、常に眼差しを向けることを大切にしています。

高校生の頃に、「老人が1人亡くなると図書館が1つ消える」というアフリカの言葉に出会い、人ひとりには図書館くらいのたくさんの本や知識(幅の広さ)があるという考えを持つようになりました。

例えば、「この人にはどんなおもしろい本、つまり一面があるのだろう」と考えたりするんです。第一印象で相性がよくないのかもと感じたとしても、今はその人の1冊の本を読んでいる(一面)だけで、他に好きだなと思える本(他の面)もあるのかもしれないと想像したりして、人に対しての捉え方を工夫しています。図書館にある本を全部読んだことはないですし、人のことは、究極的には全てはわからないものですよね。

私は京都市出身ではなかったので、伏見で活動を始めたばかりの頃は、地域のことも全くわからず、地域の方の一部分しか見えていませんでした。でも、時間を見つけて伏見で活動する皆さんのイベントにできる限り足を運んで関わるうちに、イベント当日の頑張りやそれまでの苦労、そして仲間同士の絆を目の当たりにすることができ、それに心を動かされてきました。

このように相手と関わるときに、それは魅力を引き出す関わり方なのか、ネガティブな側面を引き出す関わり方なのかを見つめながら、人と接するよう心にしています。

また、職場での「場づくり」としては、「意味づけ」が特徴的だと思います。例えば、あるメンバーの旅行のためにミーティングの日程を変更したんです。ところが、その後の緊急事態宣言によって旅行は中止となったのですが、ミーティング日程を再変更することはありませんでした。

そのことに対して、メンバーみんなが「旅行がなくなったのは何か意味がある」や「ミーティングが2日連続になったことで、まとまった時間が取れて数か月間の振り返りができる!」といったようにポジティブな解釈をする余裕があったところが気に入っていて。

会議の中では具体的な打ち合わせだけではなく、少しの時間でもインプットの機会や対話する時間を設けているので、その時々で「今、私たちにとって充実する時間の使い方ってなんだろうね?」と考えることができています。意味づけや捉え方などの物事や意見の前提から話し合えると、理解が深まっていくし、互いの異質さにも気づけて面白いですね。


───一人ひとりにとって心地よい場づくりに取り組まれていますが、そういった活動をするきっかけとなったことはありますか?

山本:私の2つ下の妹は、勉強が大好きでよくしゃべる私と対象的で、勉強が苦手で優しい子でした。「さよちゃんの妹なのに」という言われ方をしたり、姉妹の間に差があるような扱いをされたりすることが多くありました。

妹は私にとって、とても大切な家族。すごく心優しくて、意図せず周りを爆笑の渦に巻き込めるという素敵な一面を持っているのに、ひとつの部分だけを見て良い悪いを評価されることをとても悔しく思っていました。反対に、彼女のことも大切にできる人との空間は、私にとってもすごく居心地が良いものでした。その場にいるみんながお互いを大切にし合える空間をつくりたいと思ったことが、私の最初の出発点でしたね。

身近な家族だけでなく、もっと色んな人にとってのよい場づくりを考えるようになったきっかけは高校受験の日にありました。朝、緊張で胃がキリキリしながら最寄駅に向かうと、ある1人のクラスメートの男子が突然、「頑張ってきてな」とお菓子を渡してくれたんです。

実は、一足早くに私立合格した子たちが公立受験をするクラスメート全員にお菓子を配っていたようで、その姿にとても温かさと安心を感じたのを覚えています。おかげで受験では力を発揮することができ合格しました。それまで近しい人との関わりをどうするかという視点しかなかったということに気づかされ、大切にしたいなと思う人の範囲がぐっと広がりましたね。

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飽きっぽいからこそ、自分にとっての小さな幸せを見つけ日常へとデザインする

───何事もポジティブな方向へ自然と持っていける素敵な力をお持ちですが、何か意識していることはありますか?

山本:私はとても飽き性で、常に新鮮でおもしろいことを感じていないと物事が続けられなくて困っていました。なので、飽きるかもしれないことはどうやったら自分にとって楽しいものになるかなと、考えるようにしています。

例えば、リモート会議が続く日は会議の合間にお風呂に入ったり、伏見の酒粕を使って大好きな粕汁をつくったりなど、日々の中に飽きないような工夫やちょっとした幸せをデザインするようなことを自然とやっている気がしますね。

また、無理して頑張ると身体に不調が出るので、「今日は遊びたいけど好きなアイドルを見て寝た方がいい」などのように、我慢をせず自分の素直な声に耳をかたむけ、小さな幸せを見つけています。

きっと喜びの基準が低いので、些細なことでも自分にとっての楽しみや幸せになっていくんでしょう。そういった自分の特性を理解しようとすることが、プロジェクトや場をつくるときのアイデアや活力となって、役立っているのかなと思います。


───あまり意識せず、自然とそういった考えになっていったんでしょうか?

山本:自分自身への捉え方が変わってから自然にできるようになりました。子どもの頃は、自分の飽きっぽい性格やネガティブな一面が嫌だったんですが、場づくりを学んでいく中で、どんな感情も大切な願いの表れなんだからと思い、目を向けようと思うようになりました。今は毎日ワクワクやモヤモヤでも、何か1ミリでも心が動くことがあれば、必ずメモをして次につなげようとしているので、少しは自分を客観的に見れている気がします。

人と話したり関わったりする今のお仕事を料理に例えると、美味しいけど毎日だと飽きてしまうステーキではなく、インパクトは薄くても長く付き合っていくご飯と味噌汁みたいなもの。コロナ禍で増えたお仕事は旬の料理というように、私は料理に捉えるだけで前向きな考えになりやすいんだと気がつきましたね。

こんなふうに発見が1つあると、そこから連想が止まらなくなり、他の人はどうなんやろう?と聞いてみたくなるんです。自分の発見が他の人にも共感してもらえ、その結果プロジェクトや仕事につながることもあります。
一方、共感が得られないときは、アイデアを練り直してみます。この繰り返しは、探求や試行錯誤と言われますが、私の中では一緒に遊びを創作している感じなんですよね。

それぞれが自然にやっていることが、人の可能性を発揮しやすい切り口の1つなのかなと思います。どんな立場でも、自分の中の多様性を活かしたり、一人ひとりの可能性が花ひらく仕組みを模索したりすることはできるので、これから場づくりや組織づくりがもっと身近になるといいですね。

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<インタビューを終えて>
山本さんは、自身は飽き性だとおっしゃっていましたが、根本にある大切にされている価値観や軸がブレないので、すべての活動につながりがあるのだなと感じました。山本さんを通すと何事もプラスの方向に向いたり、未来に希望をもてたりするので多くの方が山本さんのもとに集まり一緒にプロジェクトを作ろうとするのだろうなと思いました。
また小さな自分の幸せを大切にしたり、日常の中に飽きさせない工夫を施してみたりすることで、毎日が楽しく、そして周りの人との関わりもよくなっていくと感じました。

今回集まった新しい価値観は3つでした。

「#まちに関わる機会をつくる」
「#まずは私たちからやってみる」
「#捉え方から幸せをデザインする」

<山本彩代(やまもとさよ)さんのプロフィール>
大学時代に国際交流団体の場づくりに関わり、「多様な方が学び合い、語り合う場」の可能性を感じる。 2015年よりNPO法人場とつながりラボhome's viに参画。京都市伏見区での市民のプロジェクト創出の事務局を4年間務め、20を超えるプロジェクトが提案される場づくりに尽力。 現在は強みであるグラフィックファシリテーションを活かしNPOや社会福祉協議会とのプロジェクト伴走、ティール型組織の探求および企業の組織変革を担当。

<山本彩代さん関連URL>
・NPO法人場とつながりラボhome's vi プロフィールページ:https://www.homes-vi.org/about/facilitator/

・山本さんの取材記事:https://nativ.media/9440/

取材・執筆:ワカモノラボ PRライター 米田来美 
編集:ワカモノラボ 有馬華香
写真:其田 有輝也

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