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秋 aki

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〈秋〉
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記事一覧

『足りるって言ってたじゃん』

『足りるって言ってたじゃん』

『足りるって言ってたじゃん』

足りないなら足せば。要らないなら切ればいんじゃない?そうやってやってきたんだから。そうだって。何を今更迷う必要があるの。あの大口叩き野郎も、びっくりしてるよ、時間を経てね。何にって、言わなくても分かるよ。あぁ、時間が足りないって、あの童話に出てくるウサギにでもなった気分だよ。足りない足りない。足りないなら足せば。そうやってやってきたんだから、足りないなら。足すって、

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『音が聴こえる』

『音が聴こえる』

『音が聴こえる』

テレビの音が聴こえる。それが、くだらない内容ならよかった。けたたましい。世間の出来事について教えてくれる。世の人の一般的会話としてさもこれが手本です、と言わんばかりに自信ありげな口調で、演技が繰り広げられる。演技だ。流れるような時間。自然さを作り上げている。作り上げられた、嘘だ。くだらないんだったら、よかった。

あれを見る時、白黒に見える。広告チラシのように沢山の情報で溢れて

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『遠くへ行っても』

『遠くへ行っても』

『遠くへ行っても』

君が遠くへ行っても 明日はやってくる

君が帰らないままでも 明けない夜はない

そのほうがいいんだ

君が君のままであるほうが

都合がいいんだ

君を 君と呼べる関係性のままで

遠くまで行けたなら

日の出に間に合うのだと

浅瀬に浸かりながら 考えていた

遠い国の子どもが 太陽を見上げる時

私は月の表面を見ていて

きっと 同じ光を見つめている

浜に打ち上げられ

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『蝉涙雨』



『蝉涙雨』

公園で目を潤ませたって、蚊に刺されるだけだ。でも、ここでしか泣けなかったんだよ。

蝉の声が、また一つ、減った。

あれだけ泣いていたのに、もう掠れた声しか聞こえないよ。

足元近くの土から「ジジッ、ジジッ、」って聞こえる。

食べられないように、威嚇している。

遠くの茂みから、また聞こえる。

それは嘆きだった。

あるいは、問いかけだった。

彼らはこの夏の空の終わりを、こ

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『都合』 (B-side)

『都合』 (B-side)



『都合』

今朝、起きて
顔を洗う前に少し
君について考えていた

家族のように友達のように
近くにいた君のことを
今でも忘れられない
君の見えない本心を

その日はそこに居なかった
全て聞いたのさ
全てが終わった後に
それから
何が本当か分からなくなって
君のことも分からなくなって
距離を置くように
なってしまった
今なら何故か
分かるような気がするのに
君が居たときには
分かってやれなかっ

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『侵入者』 (A-side)

『侵入者』 (A-side)



『侵入者』

どうしてそんな顔をするの

僕は夢中だった

何も聴こえない

何も覚えてない

考えていたのはただ一つ

「今だ」

ずっと怖かったんだ

いつも侵入してくるアイツ

急に入ってきて何喰わぬ顔で

くつろいでやがる

僕は許せなかった

居場所を穢された

ずっと許せなかった

その日は開いていた

いつもならしまっている戸が

僕も自由だった

そして

アイツはやってきた

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『100円玉に重いを乗せて』

『100円玉に重いを乗せて』



『100円玉に重いを乗せて』

100円玉をたかが100円だからって
大切にしない人は
バチが当たると思います
1円でも5円でも10円でも
一緒で
やっぱりバチが当たると思います

それは沢山の命や誰かの苦しみを
犠牲にして
できた結晶なんじゃないかと
紙切れだとしても
そこに沢山の汗や涙が
見えない痛みが
染み付いてるんじゃないかと
触れた時にふと感じたんです
どんな扱い方をされても
変わら

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『「生きろよ」』

『「生きろよ」』



『「生きろよ」』

「みんな生きろよ」



いつか私は叫んだけれども、

結局みんなに生きてほしいのではなく

ただ寂しかったんだと思います。

みんながそれで嬉しいのか苦しいのかなんて考えない、

偏った自己中心的な叫びだったと

考察します。

そうして私自身、

苦しく情けなくなったときに

何がみんな生きろよじゃボケ

とも思うわけですが、

これはこれで頼もしいと解釈できる日も

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『夏の最後の葡萄ケーキ』

 夏の日に、いつかの夏いっぱいで閉店してしまったケーキ屋を、思い出していた。

 普段なら外を出歩く人も消えてしまう猛暑日続きの中、小さな駅のすぐ前にある小さなケーキ屋は、日傘を持った婦人達の行列を抱えていた。しっかり見てみると、婦人だけではない。照つけるような夏の日差しを全面に受けて反射している白シャツの、仕事の合間を縫って並ぶ革靴の男性も、一人か二人はいた。皆、苛立つ様子はなく、暑さに堪えなが

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『君は成犬』

『君は成犬』

『君は成犬』

君は成犬
ここに居るのは
落ち着くからなんかじゃない
この居場所が
好きだからじゃない
だって
外の世界が堪らなく好きなんだろう
本当の本当は
ずっとずっと
草原も山も海原も
駆け回っていたいのさ
どこまでも
行ける脚力を生まれ持ってして
どうして
ここに篭っているのか
君は成犬
ここに居るのは
居心地がいいからじゃない
学習性無力感だ
眠りについては
たまに餌を貰える
それしかな

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『圧倒的マイノリティ』

『圧倒的マイノリティ』

『圧倒的マイノリティ』

わたしの世界では
わたしが一番正しいです
誰に何と言われようと
わたしの意見は
わたししか守れません

わたしの世界で
あなたがわたしを否定しても
それが全員から支持されても
わたしの正しいが
わたしの中で正しいことには
変わりありません

わたしの見た景色を
誰も見ることができないんだもの

あなたの世界ではあなたが正しく
彼の世界では彼が正しく
あの子の世界ではあの子

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『火粉の泡』

『火粉の泡』



『火粉の泡』

「なまはんか」

生半可という言葉が

君にはお似合いです

見たでしょうほら

夜空に放たれた

目の眩むような明るい火の粉の

おびただしい数の燃え尽きる今を

『雨玉になって』

『雨玉になって』

今日はきっとしんどい日だったんだ。
姿勢を起こして直視する、馴染みのある現実。見慣れて新鮮味がないにしても、部屋ってこんなに無表情だったっけ。しばらく見つめていると、突然けたたましく鳴り響いてくる救急車のサイレン。怯えたイヌの弱々しく威勢のない遠吠え。まだ体が朝に追い付いていないのに、私の世界は私の世界じゃないと思い出す。

大きい傘を持つのさえ億劫だから、小柄な晴雨兼用の日傘

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『反芻する昼休み』

『反芻する昼休み』



『反芻する昼休み』

胃に流し込んだ恵みを
器用に反芻して
口から噴水のように天井に向かって飛ばす
君を懐かしく思います
思い出すことすら
この頃は難しくなってきましたが
まぁ元気にやってるんでしょう

もう君には
泣きじゃくるなんて
似合わないのかもしれませんが
僕にはその素直な葛藤の涙が
とてつもなく羨ましい

だから君が
良い子ちゃんなんかになって
何もかも呑み込んでしまわないように

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