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『フミオ劇場』まとめ

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昭和初期生まれ“めちゃくちゃ系父“のエピソードを小説風連載にしたものです。 家族が被った数々のネタを書き残しておこうと、昨年よりnoteで始めてみました。 80%実話で、20%…
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#家族の物語

フミオ劇場 1話『ワシの誕生日は3つくらいあるんや』

フミオ劇場 1話『ワシの誕生日は3つくらいあるんや』

「ワシの誕生日は三つくらいあるんや」

フミオはそう言うと、マッチでショートホープに火をつけた。

「役所へ届けたのも学校に出す書類も毎回ちごうとった。だいたいそのへんやろって。まあ昔はみんなそんなもんちゃうか」

まるで他人事のような口ぶりだ。周囲が「大変ですね」「かわいそうに」「えらいことなりましたな」と言う時ほど「世の中そんなもんじゃ」と、軽く流す。逆に他人にとってはどうでもいいことが、フミ

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フミオ劇場 3話『初めてお見合い相手(妻・三枝子の回想)』

フミオ劇場 3話『初めてお見合い相手(妻・三枝子の回想)』

 【3話はフミオの妻となる三枝子目線です】

 親に言われるがまま、初めて見合いをしたら、1週間後には結婚が決まった。

 3ヶ月後にはフミオの嫁になった。

 三枝子の気持ちは重要視されなかった。

 身体が弱く入退院を繰り返す父に代わって、母が懸命に働き5人の子を育てた。三枝子は長女で弟と3人の妹がいる。

 母の願いはただひとつ、娘たちが成人したら順にお金持ちの家に嫁がせて、安心することだ

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フミオ劇場 4話『フミオ式・女の心得その一』

フミオ劇場 4話『フミオ式・女の心得その一』

【1話から3話は、最後にリンクしてます】 

 昭和45年秋、気持ち良く晴れた日曜日。

 家族を乗せたフミオの白いセドリックが車庫を出て、浜寺公園へと出発した。浜寺公園というのは、堺の臨海地区に古くからある市民憩いの場だ。今日は、そこでピクニックをする。

 浜寺公園もピクニックも大好きなフミオは、早朝からご機嫌さんだった。

「おぃ、ほうれん草のおひたし作ったか?おにぎりとは一緒にすんなよ、

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フミオ劇場 5話『ワシは柔道なろてたんや』

フミオ劇場 5話『ワシは柔道なろてたんや』

昭和49年頃のこと。

 スケートボードの大ブームが起きた。

 小学生の間でも、スケボーを持っているとか、スケボーに乗れると言う子が、ちやほやされた。

 この物語の主人公フミオの子供たちは、持っていなかったのだが、その日フミオの8歳の息子、和彦がスケートボードを抱えて帰ってきた。

「姉ちゃん見て見て! スケートボード! 友達が貸してくれてん!」

 玄関で叫ぶと3つ上の姉、樹里と、その友達

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フミオ劇場 7話『荒療治もなんのその』

フミオ劇場 7話『荒療治もなんのその』


 フミオがヤク金騒動を起こし

 生まれ育った堺の町から母親に追い出され

 約2年が経とうとしていた。  

【第6話はこちらです】

 以前のように顔を合わせることが無いから  

 フミオの母、孝江の日常は

 この上なく穏やかだった。


「良かったな孝江はん
 思い切って追い出したん、正解やったで」


 周囲の誰もがそう口を揃えた。

 フミオが不意に孝江を訪ねて来たのは

 

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フミオ劇場 8話『友達っちゅうもんはな』

フミオ劇場 8話『友達っちゅうもんはな』


「ここへ座れ」

 フミオが娘の樹里を呼んだ。


 畳に胡座をかいて腕を組んでいる。


「今からパパが大事な事いうからな。しっかり頭に入れろよ」


「なに?」


 樹里はチラッと壁の時計を見た。
 明日は中学の入学式だ。

 ハンカチとティッシュ
 メンソレータムリップ
髪を結ぶゴムも探さないといけない。

 忙しいのに大事な話て、何なのだ。

 何でも良いけど短く済ませ

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フミオ劇場 9話『嵐の新婚生活』(義妹 純子の回想)

フミオ劇場 9話『嵐の新婚生活』(義妹 純子の回想)


【少し時代は遡ります。フミオが堺から追い出される前、フミオの弟と結婚した京都のお嬢さん、純子の話です】

「三男坊さんぇ」
 
 純子は母親から

 責任の重い長男でなく、次男か三男へ嫁がせたい。由紀男さんは三男やし兄嫁さんも2人いてはるからアンタも心強いでしょう

 そう諭され素直に安心した。

 トントン拍子に話は進み、三度目に会ったとき

「すぐ上の兄貴がうちへ来てるいうから、紹介するわ

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フミオ劇場  11話『FCT(フミオクレイジートレーニング)水編』

フミオ劇場  11話『FCT(フミオクレイジートレーニング)水編』



 フミオは教えたがり屋さんである。

 博識で口達者までは許すが
 この男の場合
 粗暴で放逸といった要素が加わるので

 いきなり
 FCT(フミオクレイジートレーニング)と
 呼ばれる案件が発生する。

 そんな言葉はないが。

 まずは、被害者(犬)シロ。

柴系雑種で、番犬用にフミオに飼われたが
 滅多に吠えない。

 日向ぼっこが大好きで
 シロの一生は
 餌を食べて寝るだけの

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フミオ劇場  12話 『先手必勝と女のタバコ』

フミオ劇場  12話 『先手必勝と女のタバコ』

 地元の活発な(荒れた)中学に入学した樹里は刺激的な毎日を疾走していた。

 新入生は先輩たちを真似て鞄をペタンコに、スカート丈を長く、オキシドールで髪を脱色した。

 樹里たちクラスの女子グループで
 ある日決起し
 新米男性教師を糾弾したら泣き出してしまい
 学校で大事になる。

「家庭訪問するからな!」

 職員室で味方に囲まれ
 生き返った新米は、女子たちへ告げた。


 母の三枝子は喫

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フミオ劇場  13話『はよチャンネルまわせ』

フミオ劇場  13話『はよチャンネルまわせ』

 その物騒な風貌から、酒豪と勘違いされがちだが、フミオは下戸だった。よって晩酌しながらのテレビ鑑賞でなく

 ⚫︎お茶(玄米茶かほうじ茶)
 ⚫︎果物(桃党)
    子供は食べたら鼻血出ると独り占め
 ⚫︎お菓子(鴬ボール、羊羹)
 ⚫︎タバコ盆

 ピクニック型鑑賞である。

テレビは一家に一台の時代。家族揃って観るのが日常だ。

 そうなるってぇと、どうなるかってぇと
 フミオのうんち

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フミオ劇場  14話『和彦を殴る理由』

フミオ劇場  14話『和彦を殴る理由』

 高校生となったフミオの息子、和彦は〈飛び出せわれらさらばビバ青春〉をまるごと満喫していた。

 青春時代が夢なんて、あとからほのぼの思うものと森田先生は歌ったが、道に迷いながらもいつでもどこでもキラキラ出来る。

 予選落ちの常連バスケットボール部を部活に選んだのは、ユルッとした活動が理由。練習量が学校いち少ない。他の時間はすべて遊びに費やせる。

 それがこの冬に事態が一変した。

 ドラマの

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フミオ劇場  15話『大女優はみんな』

フミオ劇場  15話『大女優はみんな』

昭和40年あたり。銭湯はひとつの社交場。フミオの父雄吉も二人の孫を連れて、毎日のように通った。

息子の嫁さんが少しでも休めるように。そんな温かい人柄の爺さんだった。

まだ生後三ヶ月程の和彦の身体を丁寧に洗い、脱衣所の床にバスタオルを敷いて手早く拭く。それからてんかふ(ベビーパウダー)おむつ。

赤ん坊を風呂に入れるのは、母親でもひと苦労。爺さんはお湯でさっぱりしたにも関わらずすでに汗だくだ。そ

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フミオ劇場  16話『オッさん不倫逃避行』

フミオ劇場  16話『オッさん不倫逃避行』

「ワシがおらんかったら『私、生きていけない』て言われたんやぞ。そんな奴をほっとけるか?」

 フミオが娘に
 不倫を問い詰められた時の言葉だ。

「パパの様子がおかしいんよ。女やと思うわ」

 母から電話があったのが数日前。

 樹里は大阪市内で一人暮らし中。実家の様子が分からずとにかく驚いた。

 だが、今ひとつピンと来ない。 
 フミオは【飲む・打つ・買う】なら【打つ】専門。

 下戸だから、

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フミオ劇場 17話 『娘を殴る理由あれこれ』

フミオ劇場 17話 『娘を殴る理由あれこれ』

いちばん幼い頃の、父フミオに叩かれた記憶。断片的だが5才くらいのときのもの。

博打に行く行かないで、夫婦喧嘩が起きていた。暴れ倒したフミオが下駄箱の上のキーを乱暴に掴む。

それを睨みつけていた母が、ふと玄関脇の階段に座る娘、樹里に気づいた。

「こどものこともかんがえて」


父親が車に乗り込む直前
母親に言われた通りを

一字一句間違えず口にしたら

平手打ちが飛んできた。


幼い我が

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