マガジンのカバー画像

初音ミク・インターネット論

27
2000年代インターネットと初音ミクについて
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
初音ミクの記憶——デジタルアーカイブはボーカロイド文化の何を残せるのか

初音ミクの記憶——デジタルアーカイブはボーカロイド文化の何を残せるのか

(約12,000字→2022/9/1更新、約15,400字)

はじめに 朝ラッシュを終えた阪急電車8300系の心地よいVVVFインバータ音が、いかにも阪急電車らしい緑色のモケットとともに、まだまだ眠い私の身体に主張してくる。8月から始まった図書館司書の資格を取得するための授業に出席するため、私は毎日京都から阪急電車に乗り込み、相互直通先である大阪メトロ堺筋線の終点まで向かっている。京都市から乗り

もっとみる
「海辺に揺蕩う言葉たち」への長い導入文、およびこれまでのukiyojinguについて

「海辺に揺蕩う言葉たち」への長い導入文、およびこれまでのukiyojinguについて

(約9,400字)

はじめに17時半過ぎに新大阪駅を発車した新幹線は瞬く間に加速し、いつの間にか通路側に座る私からはほとんど視認できないほどのスピードになっている。東京ばななの紙袋を携えた老夫婦が隣に座り、事前に駅で買った弁当を私の隣で食べている。そう言えば、今年は全国中を駆け巡ってきたにも関わらず、いつもケチって高級駅弁は買わなかったなと、ふと思い出した。車内販売で弁当を買って食べるという経験

もっとみる
魔法と情動に抵抗する——デジタル時代における文学=ソースコードの必要性

魔法と情動に抵抗する——デジタル時代における文学=ソースコードの必要性

(約5,400字)

情報学と情報科学の交点へ最後にここで文章を書いて公開してから半年くらいは経過しているだろうか。そう思いサイトを開いてみると、最後の更新は5月ごろの写真美術館の感想で止まっている。この間に行なっていた就職活動では散々な目にも合ってきたが、なんだかんだで来年以降の行き先が少なくとも一つは決定したことは安堵したほうがいいのかもしれないとこの時期になって徐々に思うようになってきた。未

もっとみる
不気味な初音ミク——可不や小春六花にない可能性を探して

不気味な初音ミク——可不や小春六花にない可能性を探して

(約4,000字)

はじめに 3月9日、大学の研究室にHDDを返却してから、大学図書館で京都学派に関する新書を閲覧しようとしたら閉館日だった。私はそそくさと別の大学に足を向けるのだが、そちらも本日は閉館だった。居場所もなく京都市北部を彷徨いつつ、絶妙に遠い距離にある公共図書館に足を向けるのも面倒になった私はついに諦め、家に帰ってきたらもう19時だ。最近は外で活動することも多いだけでなく、花粉も酷

もっとみる
初音ミクの表皮——ボーカロイドの15年から見る「初音ミク」と「私たち」

初音ミクの表皮——ボーカロイドの15年から見る「初音ミク」と「私たち」

(約27,000字)

本企画はobscure.さん主催の、ボーカロイドに情緒を破壊されている人々による企画「#ボカロリスナーアドベントカレンダー2022」の15日に投稿したnoteです。うきよさんはメイン枠に出遅れたので、ゆるめ枠の12月15日に参加しました。私もボーカロイドに情緒を破壊されつくされているので、そんな思いがいっぱいな長文が以下に続きます。休み休み読んでいただければと思います。

もっとみる
私たちは初音ミクを愛していたのか?——彼女と私とインターネットについて

私たちは初音ミクを愛していたのか?——彼女と私とインターネットについて

(約15,000字)

この記事は自由に価格を付けられます。
https://paypal.me/ukiyojingu/1000JPY

はじめに 私は2010年代からボーカロイド文化に触れ、その変化をずっと見てきたが、一方で「初音ミク」とか「鏡音リン」といった特有のキャラクターが好きだったというわけではなかった。どちらかといえば、それらを通し、数多くの匿名ユーザーたちが一つに繋がり、環境を盛り上

もっとみる
神を殺した先の光景は何か——多量の飴『反復する日々の中で、神さまを殺そう』について

神を殺した先の光景は何か——多量の飴『反復する日々の中で、神さまを殺そう』について

(約10,000字)

はじめに 10月7日から開催されたボカコレから、気づいたら数週間も経った。私はといえば、ボカコレで公開予定だった4本の動画のうち2本を11月に回し、その分だけ他の人の作った動画も見に行こうと思い、ハッシュタグを通して自薦/他薦問わず、足跡を付けてくれたボカロPの曲を全部聞きにいくことにした。いわゆるリスナー活動だ。自薦については何度も同じルーキーがリアクションをしていること

もっとみる
エンコードされないものたち——ボカロ曲とテキストの関係性について

エンコードされないものたち——ボカロ曲とテキストの関係性について

(約14,500字)

1.はじめに2021年4月25日にて投稿した「『言葉を扱う覚悟はあるか?』ukiyojingu+結月ゆかり(live 2021.4.22.)」で、私はこのようなことを書いていた。実体を正確に把握しているわけではないが、ここでいう「(いわゆる)意味ありげな文章」が投稿者コメント欄に一言だけ追記されていることは決して少なくないと思う。何なら、沿岸都市の動画『透明な日々』にもこ

もっとみる
続・少年少女は前を向いたのか――蛇を打ち倒す物語と、分析心理学的発達段階論について(仮)

続・少年少女は前を向いたのか――蛇を打ち倒す物語と、分析心理学的発達段階論について(仮)

(約12,000字)

はじめに この記事を公開してから最初の夏、8月15日を迎えた。司書資格を取得するために先月から司書講習を受けつつ、大学図書館で働きながら夏を過ごしている私なのだが、実は司書講習の受講先である大学も勤務先の大学図書館も8月15日はどっちも休みだ。ここ最近、平日は9時から18時ごろまで毎日司書講習のために片道2時間ほどの距離を電車に乗って通学し、土日は大学図書館で働く日々を暮ら

もっとみる
消えることについて——『青春ヘラ』寄稿文への補足

消えることについて——『青春ヘラ』寄稿文への補足

(約5,000文字)

はじめに 台風の到来に伴い本日開催のコミックマーケット100は無事に開催されるか否かが不安なところもあったが、当日は朝から天気がとてもよく、ROCK IN JAPAN FESTIVALの中止をはじめとして各イベントが警戒態勢を強める中、あれは一体何だったんだろうとでも言わんばかりに空はとても青くいい天気である。個人的に台風によるイベント中止をいうといつぞやの美学会を思い出す

もっとみる
余白と消失――『合成音声音楽の世界2021』寄稿文の補足

余白と消失――『合成音声音楽の世界2021』寄稿文の補足

(約8,800字)

はじめに 2022年5月16日に『合成音声音楽の世界2021』が発表されました。私はちょうど1年前に『合成音声音楽の世界2020』が発表された際、それ以前の「ボーカロイド音楽の世界」から「合成音声音楽の世界」へとタイトルが変わったことが大きな印象であり、それについて短い文章もnoteで書いていた。『ボカロクリティーク』が休刊して以降、ボーカロイドシーンをまとめる役目をまさに担

もっとみる
信頼財と名前——「ゆっくり茶番劇」騒動について

信頼財と名前——「ゆっくり茶番劇」騒動について

(約6,900字)

はじめに「こんにちは、以前スマ電の契約で代理店を務めさせていただきました、物でございます」

昨日午前6時までいろいろと作業をしていた私は、昼頃にかかってきた電気会社からの電話で起こされた。昨日も電話がかかってきたこと、そしてそのとき私は図書館にいたから翌日に掛けなおしを希望したことを、声を聴いて即座にに思い出す。明日昼頃にかけなおしてくれといったのは、まぎれもなく私自身なの

もっとみる
ソーシャルメディアの生存関係——Twitter、Instagram、TikTok

ソーシャルメディアの生存関係——Twitter、Instagram、TikTok

(約14,000文字)

はじめに 2020年8月10日にソーシャルメディアのTwitter上で生じた「#TwitterとTikTok合併許すな」というムーブメントは、TwitterユーザーがTikTokに対する印象を認識するにおいて、大いに参考になる出来事であった。当時のトランプ政権が主導となり展開された中国の企業ByteDance社が提供するソーシャルメディア「TikTok」の買収をめぐる騒動

もっとみる
初音ミクが歌うとはどういうことか——誰も侵せない「私と君」の密接さについて

初音ミクが歌うとはどういうことか——誰も侵せない「私と君」の密接さについて

2022年3月9日に執筆(α版)→3/11改訂(β版)
(約6,500字→3/11改訂、約9,100字)

はじめに 2022年3月1日、NHKの人気番組「プロフェッショナル——仕事の流儀」の特集に初音ミクが登場した[1]。私のタイムライン上ではリアルタイムで数多くのツイートが飛び交い、自室にテレビがなく実家で見る予定だった私はただただネタバレを食らわないようにTwitterを閉じる。本番組は決し

もっとみる