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なんらかのレビュー

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#映画

恋愛の顔をした暴力の恐ろしさ:『ジェニーの記憶』

重い作品。でも、観てよかった。観ないといけないと思った。間接的だけど性暴力描写がある作品の話になるので、フラッシュバックの恐れがある方は注意してください。

(あらすじ)

40代のドキュメンタリー映像作家・ジェニファー(愛称:ジェニー)は、仕事も順調で恋人とも結婚の準備を進めており、充実した日々を送っている。

しかしある日、実家の母親から慌てた様子で電話がかかってくる。あなたが少女時代に書いた

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加害者が加害者になるまで:映画『ヒメアノ~ル』の感想

加害者が加害者になるまで:映画『ヒメアノ~ル』の感想

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』でおすすめされてるのを聴いてからずーっとずーっと観たかった作品が、ようやくNetflixに来たので視聴。最初はラブコメに見せかけて、後半容赦ない暴力まみれになっていく、ノワール映画。

一部の点を除いて(←それについても後述します)すごーくすごーくよかった!

ということで、感想をば。
※多少ネタバレになっちゃうところもあるので、ご注意ください。

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【ネタバレ有】映画『プラットフォーム』/インタビューで拾った話のまとめと感想

【ネタバレ有】映画『プラットフォーム』/インタビューで拾った話のまとめと感想

今年前半、映画『プラットフォーム』を観て、ずっと感想を書きかけていたのだけど。
日本のNetflixでも配信が開始になったようで、ようやくまとめる次第…。

以下、公式サイトから引用したあらすじ。

ある日、ゴレンは目が覚めると「48」階層にいた。部屋の真ん中に穴があいた階層が遥か下の方にまで伸びる塔のような建物の中、上の階層から順に食事が"プラットフォーム"と呼ばれる巨大な台座に乗って運ばれてく

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映画『JOKER』について、何も言えなくなっちゃったけれど、せめてその理由くらいは書いておこうと思う

映画『JOKER』について、何も言えなくなっちゃったけれど、せめてその理由くらいは書いておこうと思う

アメコミ映画のステレオタイプは、「なんか演出が激しくて、中身自体は薄っぺらい」みたいなものじゃないかと思うけれど、少なくとも昨今の映画はそんな大味なものではない、と思う(真面目に観たのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と『デッドプール』くらいだけれども)。『JOKER』は、その味の「繊細さ」がずば抜けている。

ざっくりストーリー母に「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」と言われて育ったア

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私は、もう祈ることを信じられない:『天気の子』

私は、もう祈ることを信じられない:『天気の子』

(いまさらですけれども
 ややネタバレありなので注意)

恋人の推薦を受けて一緒に観に行ったが、
彼ほど熱くなれなかった。
私は今回が初見ということもあると思うけど
(彼は1回見て、町山智浩さん&宇多丸さんの評を聴いて今回2回目)。

端的な感想絵は好き。好きなキャラクターもいる。
好きなシーンもある。
音楽と練り上げられるカタルシス、最高。
が、ヒーローとヒロインの(特にヒーロー)の成長、相手が

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『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』のぶつ切りの感想

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』のぶつ切りの感想

職場の大変文化的な先輩(たまたま一緒になった外部イベントの帰りの電車で、ガルシア・マルケスの話をして親しくなった←※ただし私がまともに読んだ作品は少ない)が「いいらしい」と仰っていたので、観た。

正直に話すと、

60%くらい寝ていた。

最近はっきりと自覚したが、私はドキュメンタリーを映画館で観るのに向いていない。どんなに興味深いテーマでも、絶対に寝る。

(ただでさえ集中力がないのに、3時間

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レビューというにはあまりに断片的な『ウィーアーリトルゾンビーズ』鑑賞メモ

レビューというにはあまりに断片的な『ウィーアーリトルゾンビーズ』鑑賞メモ

恋人も漫画を描く人なので、恋人と映画を観た後感想を話し合うと非常に考えが深まる。話し合ったことやその後考えたことのメモ。ネタバレがあると思うので、それが気になる方は注意されたし。

・一言で言うと、「好きなところもあるけど惜しい感じ」。

最初に好きなところを書いておく。

◇独特のふわふわした感じ、これは完全に監督の武器だなと思う。「彼らが住んでるのは現実世界に見えるんだけどファンタジーだよ」、

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不気味ちゃんを見て、やっぱり好意を返されたいと思った:愛がなんだ

不気味ちゃんを見て、やっぱり好意を返されたいと思った:愛がなんだ

観終わって、いろんな思い出が雹のように降り注いでふらふらになっていたが、よくよく考えるといろんな思い出が降り注ぐのはこの映画を観たあとの反応としてちょっとストレートじゃないな、と気づいた。

なぜか。

※ネタバレしちゃう部分もあると思うのでご注意。ネタバレしてから観たって素晴らしさはちっとも減らない映画だとは思うけど。

(主人公のテルコが自分でも言ってたけど)もはや彼女の気持ちは恋とか愛とかに

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「障害のことを忘れてしまった」というポーズについて:ナイトクルージング

「障害のことを忘れてしまった」というポーズについて:ナイトクルージング

昨日、恋人と映画『ナイトクルージング』を観に行った。宇多丸さんのラジオ「アフター6ジャンクション」で勧められていて、気になっていた映画だ。
 
生まれつき全盲の加藤秀幸さんがSF映画を製作する様子を、加藤さんの友人で映像ディレクターの佐々木誠さんがドキュメンタリーとして記録したのがこの映画。昨日はたまたま舞台挨拶も聞くことができてそこで知ったのだけど、佐々木さんに「視覚障害者が出てくる面白い映画を

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もしも孤独を失くしたら:ボヘミアン・ラプソディ

もしも孤独を失くしたら:ボヘミアン・ラプソディ

母の月命日には花を買おうと思っていたのに、あっという間にやめてしまった。

罪滅ぼし、といってはなんだが、今日は『ボヘミアン・ラプソディ』を観に行ったのだった。

昔から真面目だった母は、意外なことに学生時代、ロックが好きだった。

彼女が中学だか高校のときに友達と回し合っていたノートを見せてもらったことがある。

「お母さん、KISSとQUEENの違いがわからないんだよ!」
そうノートに書いてい

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無理して愛してくれ、それだけが本当の愛だ:『万引き家族』

無理して愛してくれ、それだけが本当の愛だ:『万引き家族』

亡くなった母がスマートフォンに残した、彼女の両親のたくさんの写真を見て、私は思った。

彼女にとって一番大切だったのは、子どもじゃなくて親だったのだな。

ショックだった。

それは、たぶん、母が亡くなったことよりも。

しかし、当然だろう、とも思っている。
私は、自分がぼんやりする時間をとることを、重い体で家事をする母の手伝いをすることよりも優先した。祖父母は違う。
おいしいものは、必ず先に人に

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