シャネルを紡ぐ手 アンヌ ドゥ ヴァンディエール展
理由はわからない。
いつから、なぜそう感じるのかさえも。
でもとにかく、何かを紡ぐ手というのは美しい。
たとえマニキュアが施されておらず、皺が刻まれ、傷だらけで、ささくれ立って、染みがあったとしても。
この美しい写真展からもう一年以上が経ってしまったけれど、彼らの美しい手と手仕事、それらを追ったモノクロの写真が集められた、心に残った写真展の様子を、ここに書き留めておこうと思う。
“目は口ほどにものを言う” とは言い古されたことわざだけれど、手も口ほどにものを言う、と思うのは私だけだろうか。
手を見れば、その人がどんな人生を送ってきたかわかる - と言うと大袈裟かもしれないが、その人の美意識や、生活や、その人に纏わる “何某か” がふと垣間見えたりはしないだろうか。
写真家アンヌ ドゥ ヴァンディエールが捉えた職人の “手” の数々…写真にはその職人の顔写真とコメントも付けられており、仕事や各々が手掛けるプロダクト、その技、それに対する思いなどがそれぞれに綴られていた。
その写真とコメントから、さまざまな場面が思い浮かぶ。モノクロの世界は情報を限定している分、私たちの想像力を一層かきたてる。
アトリエで忙しなく動く職人、集中して取り組んでいる時の空気感、コレクション前の殺伐とした雰囲気…。一見華やかな一流ブランドも、舞台裏に回ればその優雅さは一変し、一流を生み出すための厳しさを禁じ得ない。そんな苦労も汗も情熱も、一緒くたに写しているかのような写真たち。
彼らの手によって、一体いくつもの、美しいプロダクトが生み出されてきたのだろう。
シャネルの歴史を紡いできた技術を継承する職人たちの手は、それぞれにとても美しいものだった。
写真は全てモノクロ、“手” に焦点を当てて撮られている。どの手も、まるでその “人となり” を表すようで、そこから手仕事や、工房や、雰囲気さえも目に浮かぶ。
プロダクトと共に佇む職人たちの手はそれは美しく、彼らの手仕事と、生み出される逸品に、畏敬の念を抱かずにはいられないエキシビションだった。
(会期終了)
à mains levées シャネルを紡ぐ手
アンヌ ドゥ ヴァンディエール展
2022.8.31 - 10.2
シャネルネクサスホール
※ 挿入されている写真及び画像はすべて筆者の撮影によるものです。