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2023年5月の記事一覧
明日晴れたら (10/10)
そよ風を浴びながら鼻歌を口ずさみ
好き放題に伸びる自由な草を大地を
一歩一歩しっかりと踏みしめる
この感触をしっかりと体に焼き付けていた数分前
チケットを切る直前に私を現実へと引き戻したのは
自然しか無いこの場所には不釣り合いな電子音
元彼からの電話の着信だった
何の用だろう?全く予想が出来なくて
少し迷いながら電話に出た
「おはよう」と少し緊張した声で
でも昨晩と同じ距離感で言われる
明日晴れたら (8/10)
空は分厚い雲で覆われていて
頭上では薄く白い煙が漂っていて
大通りを歩く人の話し声に混じって
どこかのお店から賑やかな音楽が聴こえて来る
そんなよくある天気のよくある場所
ただいつもと違うのは宇宙に行く前日と言う事だけ
そして久しぶりに会う元彼が目の前にいる
「元気そうじゃん」と彼
「まぁ、それなりにね」と私
たぶん私の事をよく知っている彼だから
彼の事をわかっているつもりの私だから
躊躇す
明日晴れたら (7/10)
雑居ビルの裏口の壁に寄り掛かり
酔ったサラリーマンが行き交うのを眺めながら
もう来る事は無いと思っていた場所を訪れていた
彼の働いていた小さなバー
その裏手の細い路地
別れてから一年弱は経っているから
彼がまだここにいる保証は無い
辞めている可能性の方が高いかもしれない
こうやってよく仕事が終わるのを待っていたっけ
ここもまた私の数少ない想い出の場所だ
ガタガタと音を立てて回る隣の店の換気
明日晴れたら (6/10)
軽くお酒も入って良い感じで酔いも回って
でも帰りの電車にはまだ乗りたくなくて
見送った先輩の背中に手を振りながら思う
短い期間でも濃い絆は生まれて
もしこの先会えないとしても
大事な人としてずっと心の中に残るんだろうと
夜の街を一人歩きたくなった
暗くなるとさらに主張の激しくなる観覧車を迂回し
自然と足はある場所へと向かっていた
元彼と一度行った事のある場所
この街が一望出来る見晴らしの良い
明日晴れたら (4/10)
宇宙に行くために必要な物が他に無いかと
私は思い出のある街へと足を運んだ
駅を降りると目に入る大きな観覧車は
月日が過ぎても変わる事無く
動いているのか止まっているのかわからない速度で
静かにゆっくりと回っている
一年ほど前に別れた彼とよく来た場所だった
綺麗とは言えない海を眺めたり
小洒落た小さな店を見て回りながら
つい欲しくなる小物やバッグをぐっと我慢する
いるのか会えるのかもわからな
明日晴れたら (3/10)
もともと物が少ない部屋だから
荷物をまとめるのは簡単だった
でも何が必要で何が必要じゃないのかがわからない
宇宙向けの旅行案内でもあれば参考に出来るのに
なんて思いながらスーツケースに詰め込むと
意外と持っていく物は少なくガラガラで
少し大きめのリュックへと入れ替えた
傘は必要だろうか?宇宙でも雨は降るのだろうか?
名も無い星で振る雨は水だとは限らない
差した傘もすぐに溶けてしまうかもしれない
明日晴れたら (2/10)
父がどう行った経緯で
このチケットを手に入れたのかはわからない
受け取った時も半信半疑で本物かどうかを疑った
仕事関係でもらったグッズかおもちゃかと思った
ただ記憶の端っこに微かに残る出来事がある
山の中にある木造の丸い建物
中央には大きな望遠鏡が空に向けて置かれていて
天井は開閉式になっていた
そこが父の仕事場で
よく遊びに行っては走り回って邪魔をして
でも怒られたことは一度も無かった