マガジンのカバー画像

一分で読めるタクシーエピソード『タクシードライバーは見た』

196
ヨナシロがタクシー運転手として乗務している時に見た、聞いたお客様のエピソードや出来事を書いています。 ちょっとクスッとできる話や、タクシーから見た世の中の話、 は?というどうでも… もっと読む
運営しているクリエイター

2020年3月の記事一覧

#タクシードライバーは見た「慧眼を授かった瞬間」

#タクシードライバーは見た「慧眼を授かった瞬間」

その言葉は、私に慧眼(ケイガン)授けたような一言だった。
平日のある日、街中のお昼の賑わいが落ち着いた頃、東京駅から少し離れたオフィス街で3人の男性のお客様をお乗せした。
緩みが無く、身なりを整えたスーツ姿の3人は誰もが一度は耳にしたことあるような大手企業の本社ビルから出てきた。
50代前半と40代中盤と20代後半だと思われるの3人は表情もよく、終始、車内での会話も弾み良い関係性なのが伝わってく

もっとみる
#タクシードライバーは見た「ループに入る酔ったおじさん」前編

#タクシードライバーは見た「ループに入る酔ったおじさん」前編

酔っぱらって何度も同じ話をされるのは苦痛だ。
それが退屈な話だった場合、仲の良い上司であろうと叩いてしまいたい。
それが正直好きでない上司だった場合、、、
これ以上は言わない。

だけど、
こんなにもその時間を楽しめるのはタクシー運転手の仕事だからだろう。
お客様がご機嫌でいてくれることが、
運転手にとってなにより気楽で安心できる状態だからだ。

そのお客様は六本木で乗って来た。
50を過ぎて、見

もっとみる
#タクシードライバーは見た「ループに入る酔ったおじさん」後編

#タクシードライバーは見た「ループに入る酔ったおじさん」後編

前回の続き
――
「心強いですよ、、うちにも若いのがいるんですけどね~」
「はい」
「車で移動するときとか、運転してもらうんですけど、ナビだけに頼って、それで何度も間違えて怒られそうになったことあるんですよ、それでこの間もまた遅刻しそうになって」
「へ~」

おじさんは一度喋ったことを気づいているのかいないのか、同じ話をとてもコンパクトにまとめて話した。
そしてこれを境に、無限のループへと入ってい

もっとみる
#タクシードライバーは見た「おじいちゃんの右腕」

#タクシードライバーは見た「おじいちゃんの右腕」

―――この方はどんな人生を送って来たのだろう。
ふとした瞬間に、想像を掻き立てられる。
神谷町でお乗せした80代ほどの男性は愛宕神社までと申してきた。
神谷町は六本木のはずれ、住所でいうと虎ノ門五丁目の一部にあたる。
現在は町名としては残っていないが駅名やビル名等、その周辺の総称として神谷町と言わることがある。
テレビ東京の神谷町スタジオはそこに存在する。

オフィス街の一角でビジネスマンとは程遠

もっとみる
#タクシードライバーは見た「色っぽさの定義」

#タクシードライバーは見た「色っぽさの定義」

色っぽさの一つの定義を見つける出来事があった。
六本木のとある路上で一人の女性をお乗せした時だった。
色っぽいというのだから、男が女性を見るときの性的な何かのイメージがあるかもしれないが、それとは違う。
別に色っぽさは男性が乗ってきた時にも感じる。
それは大抵、女性も男性も洗練された雰囲気を持っていたり、自分にあった服装であったり、外見で感じ取るモノだと思う。
これまで時たま感じてきた色っぽさとい

もっとみる
#タクシードライバーは見た「歩きたばこの男」

#タクシードライバーは見た「歩きたばこの男」

銀座の晴海通り、三原橋の交差点。
歌舞伎の演目がされる劇場、歌舞伎座を目の前にしたその交差点で左折待ちをしていると、20代後半くらいだろうか、タバコを吸いながら信号待ちをする男がいた。
「あれ、ここってたぶん、路上喫煙禁止だったよな~」
ニコニコ動画で画面に文字が流れるように、ほんのわずかであるが頭のなかに言葉が流れ、そこから思量にふけりだした。

男は交差点の隅で顔を俯きながら、眉間にしわを寄せ

もっとみる
#タクシードライバーは見た「二回目の出会い」

#タクシードライバーは見た「二回目の出会い」

横断歩道を渡る姿で気づいた。
―――先週お乗せしたおじちゃんだ。
見た目はもちろん、タクシーへの乗り方、行き先の説明の仕方、行き先、全て同じである。
思わず、行き先を言われる前にこちらから「○○までですか?」と聞いてしまったが、言おうか言わまいかの迷いのノイズが声量を抑え相手には聞こえていなかった。
先週と同じ目的地、時間帯、ルート、きっとルーティン的になっている行動なのだろう。
少し嬉しくなった

もっとみる
#タクシードライバーは見た「江戸っ子の冗談」

#タクシードライバーは見た「江戸っ子の冗談」

―――てやんでい!
今にもそんな言葉が出てきそうなオジサンをお乗せした。
落語か時代劇でしか聞いたことない江戸っ子の口調でコロナの不景気を嘆いたかと思えば冗談を言い、冗談を終えたかと思えば不満が口をついて出てくる。
東京の夜を走るタクシーの車内はたちまち江戸の湯屋になったような気がした。
江戸時代の湯屋では、武士も町人も、長屋の住民もみんなやってきて、身分の違う者同士が同じ湯船を使い、裸の付き合い

もっとみる
#タクシードライバーは見た「銀座のホステス」

#タクシードライバーは見た「銀座のホステス」

「豪華絢爛」と鉛筆で丁寧に書かれた文字を消しゴムで消してみると、その背後に何度も書き直された文字の筆圧の後が浮き出てきてその尽力が現れるように、銀座の街で働く女性の美しさの裏側の強さを垣間見た。
サクセスとスキャンダルがブレンドした味と、善行と悪行のどちらとも取れる臭いを漂わす男衆が訪れる街、夜の銀座にはクラブが多く存在している。
そこで働く女性の華やかさは見えたものだが、その色を見せているのは子

もっとみる
#タクシードライバーは見た「赤坂のど真ん中に出来た群り」

#タクシードライバーは見た「赤坂のど真ん中に出来た群り」

赤坂を走っていると、ある群りが出来ていた。
その中心には50代後半ほどの男性がいて、男性を中心にひしめき合う周りの者たちは我こそはと男性に逼り、中には側にいる者をはたき落とすように押しのける者もいる。
数にして四、五十といったところだろうか。
まんざらでもない表情をみせる男性はハーレム状態で目の前の信号を渡っていた。

年に数回は目にすることがある。
赤坂に限らずどこでもその群りは出来る。北海道で

もっとみる
#タクシードライバーは見た「銀座で幽居する外れ者」

#タクシードライバーは見た「銀座で幽居する外れ者」

時折見かける事があった。
身を潜めるように背を丸め、そそくさと速足で駆け抜ける。
見かけたとしても声を掛ける余地はない、そもそも向こうも声を掛けられたくはないだろう。
でもこの間は少しだけ、近づくことが出来た。

日曜日の夜、銀座は閑散としていた。
並木通りや花椿通り、平日夜なら通りの両側に総じて停まっているスモークのクラウンやレクサス、アルファードは一台もいない。
停められて狭くなった通りを少し

もっとみる
#タクシードライバーは見た「突然の一騎打ち」

#タクシードライバーは見た「突然の一騎打ち」

そいつの目に迷いはないようだった。
タクシーを走らせているとこちらへの目線をズラすことなく、一切の弛みもなく真っ直ぐに滑空してくる。
一騎打ちの火蓋はこちらの任意無く始まろうとしていた。

そいつはまだ20mほど先にいるが互いに相対していることから交戦まで2秒とないだろう。
その瞬間に、これまでの戦歴のが脳裏に蘇った。
今回同様、
急にこちらのラインに入り込み一騎打ちを始めるとき、
道路の真ん中に

もっとみる
#タクシードライバーは見た「極小のサーカス」

#タクシードライバーは見た「極小のサーカス」

清涼な風が肌をさすり、夏の終わりを感じる日の0時を回った頃、
お客様をお送りしていた。
何度もお送りしたことある地域へ向かう道はいつもと変わらず、ところどころ夢の世界へ誘われる別のルートが現れる時がある。
お客様は眠りに入り、互いに一言も喋らないこの時間は、
心地良い訳ではなく、ただただ凡常の時間だった。

そういう時は大体、今見えているものか、最近気になっていることについて
考えを回していないと

もっとみる
#タクシードライバーは見た「愛くるしい歩行拒否」

#タクシードライバーは見た「愛くるしい歩行拒否」

ペットを連れて歩く女性は都心部ではよく見る。
人間より嗅覚の優れた動物でありながら、排気ガスが舞うこの都心部を歩くときにどういう気持ちなのだろうと気になったりするが、
夜間のライトも、同じように厄介なのではないかと思う。
人間の顔の高さには当たらないがちょうど犬の高さに行くようになっている。
実際のところどうなのだろう。
話さないから気持ちは分からないが、眩しいはず。

そんな本当の気持ちの分から

もっとみる