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#タクシードライバーは見た「銀座のホステス」

「豪華絢爛」と鉛筆で丁寧に書かれた文字を消しゴムで消してみると、その背後に何度も書き直された文字の筆圧の後が浮き出てきてその尽力が現れるように、銀座の街で働く女性の美しさの裏側の強さを垣間見た。
サクセスとスキャンダルがブレンドした味と、善行と悪行のどちらとも取れる臭いを漂わす男衆が訪れる街、夜の銀座にはクラブが多く存在している。
そこで働く女性の華やかさは見えたものだが、その色を見せているのは子育てという一色しか無いような質素な絵の具のパレットから描き出されていた。

銀座でお乗せした議員さんと、経営者のお二人が話していたのは、地方で子供を育てながら、夜の銀座で働くホステスの話だった。
「今日はありがとうございました。ホント来て良かったです」
「そうだろ、あの子に一回は会わせたかったんだよ」
60代ほどの経営者の男性が議員をしている30代中盤の男性に社会を見せるために会わせる機会を設けた、そのエピローグが印象に残る。

「お話も出来てよかったです」
「あそこで元気に仕事しながらな、娘を地元の高知に残して親に面倒みてもらってるんだよ」
「ホント凄いですよね、元気で明るいですし」
「そうだな、だからお前らが進めているように、そういう子が昼に働けて子供と過ごせるとか、もっと良い環境をつくろうとしているなら今回の話は知っておいて良かったんじゃないか」
「そうですね、別の地域とも連携を始めているのでいち早く環境を整えていきます」
「絶対にやらなくちゃいけないよ」
「はい」
議員さんはシングルマザーが働きやすい環境を整備する活動を行っているのだろう、そのためのリサーチでもありちょっとした気休めとして連れて行ってもらったようだった。
更に話は続く。

「母子家庭で、親とも離れるって親も大変だけど子供にとっても辛いよ」
「そうですよね、でもそれを見せずに」
「そうなんだよ、だから女性って強いというか、覚悟を持ってるんだろうな」
「それにお綺麗ですし。何度かあそこに飲みにいかれたりとかされてるんですか?」
「結構行ってるな~、いろいろ話も聞いてるよ」
「応援したくもなりますしね」
「うん、あとな、毎週末はちゃんと子供のところに帰ってるんだよ」
「そうなんですか」
「でも、お金を掛けられないから、朝イチで成田に行って、それで成田のコインシャワー浴びて着替えて、格安の便で帰ってるんだよ、寝ずに」
「へ~」
「でも、毎週帰って飛行機代ばかりにお金を掛けられないから、中々授業参観とか、行事とかも行けないことがあるし、やっぱりそれを娘に言われるんだって『なんでママには土日しか会えないの?』って」
「はい」
「会えない寂しさは堪えて、お仕事って言ってるみたいだけど
帰りたくても帰れない日だってあるわけだよ、お金の面でも大変だからって働くし、その分子育てするには実家の両親の助けが必要だし」
「そうですよね」
「でも、それを一切見せないんだよ、ホント凄いよ」
「そうですね~、さっきそれを言われるまで全然気づかなかったです」
「そうだろ」
「はい、だから今日、この機会を頂けてホント良かったです」
「というかなお前は堅すぎるんだよ、こういう子と会えばもっと考えようと思うだろ?」
「そうですね、すみません、こういう仕事なのもあってなんか守りに入っている部分はあって. . . . 」
「それは分かるよ、でも、もう少しさ、ゆとり持って周りを見てもいいんじゃないかって俺は思うよ」
「はい、なんかな~って思っちゃいますね自分でも」
「何度も連絡してる訳じゃないんだからさ、二カ月にイッペンでも会って話そうよ」
「はい、よろしくお願いします」

留まることなく進んだ会話に、一切の雑念も思慮も浮かばずとにかく耳を澄まして聞いて居た。
その後、先に経営者の方を降ろし、議員さんをお送りした。
1人になったところで電話をしながら話す声が聞こえてくる。
それが何となくではあるがさっきとは雰囲気の人間になったような気もする。
酔っぱらっているからだとは思うが、この方の「議員」という文字を消してみると、そこに何が見えてくるんだろう。
最後に少しだけ違和感の残るお客様だった。

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