_タクシードライバーは見た__60歳を越えたタクシー運転手の幸せな働き方_のコピー__95_

#タクシードライバーは見た「江戸っ子の冗談」

―――てやんでい!
今にもそんな言葉が出てきそうなオジサンをお乗せした。
落語か時代劇でしか聞いたことない江戸っ子の口調でコロナの不景気を嘆いたかと思えば冗談を言い、冗談を終えたかと思えば不満が口をついて出てくる。
東京の夜を走るタクシーの車内はたちまち江戸の湯屋になったような気がした。
江戸時代の湯屋では、武士も町人も、長屋の住民もみんなやってきて、身分の違う者同士が同じ湯船を使い、裸の付き合いをしていたらしい。
湯屋があることで、町の噂や事件は、またたくまに江戸中に広がるところとなったそう。

夜9時過ぎ、銀座の繁華街のなかで手を上げた60代ほどの男性は乗ってくると同時に
「いや~まいったよ~」と話し始めた。
どうやらコロナ関連で銀座のお店は多くが閉まっているらしい。
開いているとしても、営業するのは予約されたお客さんのみで、ふらっと立ち寄れないことにオジサンは嘆いていた。

「さっきは築地行ったんだけどさ、全然人歩いてねぇんだよ」
「そうなんですか」
「俺が見たときは通りに3人しかいなかった」
「あ~そんなに少ないんですか」
「そうだよ、さっきもタクシー乗ったんだけど、築地は鳥がいっぱい泣いてるねなんて話してて、場外市場はあっても豊洲に行ったもんだから鳥が増えちゃったんだよ」
「はー. . . ?」
「鳥が鳴いて困ったっつってよ、閑古鳥がよ」
「あ~、っはっはは、確かに」
止まることなく次から次へと口から発せられる言葉に何を伝えたいのか分からなかったが、閑散とした街中を嘆いている。

「閑古鳥が鳴いちゃってんだよ、んだこと言ったって蛇だって増えてんだよ」
「蛇もですか?」
「そうだよ、でも、さっきの運転手にその話すると、築地に蛇が出たなんて驚いちゃって、『えっ!?築地に蛇が!?』なんて言うもんで真剣に聞いてくるもんだから困っちゃって、んなこと言っても俺はガラガラヘビが多いんだって言おうとしたのに」
「なるほど笑」
「そんな真剣に聞かれちゃ困るっつんだよ、ガラガラなんだからガラガラヘビだよ」
「確かにガラガラですね」
「困ったもんだよホントに」
止まらない止まらない。
休むことなく口が動き、嘆きながらもユーモアを取り入れて明るくする。

「なーんかコロナウイルスだからっつっても安倍は大したことしねーし、これまでは支持してたけどちょっとがっかりだよ、何も出来てねぇし分かってねぇんだよ。運転手さん、今例えばコロナに掛かったらどこいってどうするかとか分かるかい?」
「あ~ちょっと分からないですね」
とにかく口が止まらない。

「ほだろー?そんなことももっと国が知らせなきゃならんのに、ほんなことも全然分かってねんだよ、ったくよー」
「うんー、なるほど」
「それに中小に、え?1兆円だっけ?足らないんだよそんなんじゃ、10兆円くらい出したらいいんだよ、ほとんどが今首閉まってんだからよ、どーすんだこれホントにー、、あーじゃああそこの2つ目の信号で」
「かしこまりました」
不満を吐く口調は苛立っているようにも聞こえたが、それが通常なのか
すっと元に戻り止めて欲しい場所を示してきた。

「運転手さんも怖いよね、どんなお客乗せて感染するか分かんないもんね」
「ほんとそーですよね~」
「怖いもんだよ、、俺もこわいよ、この前にどんな客が乗ったってか知らねんだもんな」
「そうですね」
「これ、Suicaできた?」
「はい、大丈夫です」
「あーやっぱこれが良いよ、他のはあーしたりこーしたり、なんやややこしいから」
「確かにそうですよね」
「ほいじゃ、お世話様」
「はい、ありがとうございましたー」
男性は降りる寸前まで口から弾丸を打ち続けるようにしゃべり続けていた。
こういうときは降ろした後が、、

――― . . . . . . . . . . . . . . 。

音無がすぐれる。

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