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お笑いの話。8話。

劇場のお笑いライブが終わり、また、騒がしかった。

それは。

今度はクーポン券を渡した先輩が金額を受け取った楽屋の先輩に激怒していた。

今度はというかまたか。何時間前の出来事だろか。

何かの再放送か。

唯一違うのは立場が逆になって激怒していた。

『お前さん。クーポン券の差額受け取ったやろ』

『それでこの話はもうしまいや』

『それなのにさっきの話は何や』

『フリートークで』

『何が、この先輩、有効期限切れのクーポンわざと渡してたんすよ。どう思います、や!』

「別にいいじゃないですか」

「話すことないし、おもろいかなって思って話したんすよ」

「ギャグですよ。ギャグ」


それは先ほど言われた事を立場を変えて言っていた。

『なんやて』

「なんやて」


おいおい、先ほどよりひどくなってないか。

さすがに誰か止めろよ。

といいつつあまりの気迫に傍観者になってしまった。


【ちょいと通ります】

あ、すみません。

【あんさんがた。その話はその辺にしときな。もうしまいや。おしまいや】


間をわって入ったのはポチ袋に唯一、一人だけ多めに2000円を渡していた落語の師匠だった。


【あんさんがた先輩が後輩をビビらせたらあきません】

【周りを見てみなさい。皆、驚いてるではありませんか】

【大人の喧嘩ほど怖いものはありません】

【どうせなら話し合いで解決しましょう】


「師匠」

「すみませんでした」

楽屋の先輩はすぐに冷静さを取り戻したが売れてるクーポン券の先輩は対応が違っていた。


『なんやねん!師匠!師匠って!』

『あんた売れてる人気ランキング、Aランクからどこまで下がった?』

『こちとらAランクや!もう落語の時代はしまいや。しまい』

『あんたには関係あらへん』


師匠に対しての態度に場の空気が変わりさすがに言いすぎだと。

止める人はいなかった。

皆。目を背けていた。

師匠にすみません。と悲しい目をしながら。


しかし、このまま傍観者で終わっていいのか。

いや、止めるべきだ。


と、決意した時。


パチン。


と、扇子を閉じる音がした。

それは師匠の扇子の音だった。


【そうですね。確かに落語の人気は下がっているかもしれません】

【しかし、人気がないなら再び人気にすればいいだけでございます】

【噺とは、終わりがあって始まるもの。始まりがあって終わるもの】

【終了したのならまた、始めればいいだけでございます】


【噺家だけに。それが噺家のつとめでございます】


うまい!座布団一枚!

気づいたらそう言葉を発していた。

傍観者にならなかった。


師匠は扇子を広げあおぐと拍手喝采がおきた。

形勢逆転。

ブザービートでスリーポイントシュートが決まり逆転勝利のようなどよめき方だった。


クーポン券の先輩は何も言わずにその場を去っていった。


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