Tamara Usono
「大聖堂は見てきましたか」 黒縁メガネをかけたウェイターが綺麗な英語で聞いた。 店の中にはほかに3組の客がいるだけで、メキシコシティの飲食店はどこもそうだけれど店…
くじらが肩にくっついて取れない夢を見た。 もう仕方がないから、くじらの行く方向にゆらゆらと漂っていくしかないのだ。 大きな灰色の三角の波を次々に乗り越えるのは恐ろ…
あなたという単位は、 偶然に そこに集まった分子の集合。 または 偶然に 出会った父母から偶然に生まれた遺伝子の表象 または 複雑に絡み合う分子の雲のシステムの間を…
その人の手にはほっそりとした青灰色の種があった。薄く硬い、鞘から抜いた短剣のような種は手のひらに余る長さで、細い指先にしっかりと包まれている。 「この種は、…
翼が傾くと 空の底に柔らかな満月 夜の水の荒野のはてに とろりと広がる陸がある フジツボのように薄く光る 寂しいビルディングが ふつふつと増えていき わびしい町があ…
きつねのような尻尾をもつフェニキス人が、貿易をしに来る。 三千二百年たったら、わたしたちに教えてくれるという。 重い緑の宝石をもって来て、10億の生命と取り替えて…
2021年12月24日 15:02
2021年12月22日 14:46
2021年12月20日 16:26
2021年12月18日 17:47
2021年12月17日 15:25
2021年12月16日 12:28
2021年12月15日 15:30
2021年12月14日 15:14
2021年12月13日 08:38
2021年12月12日 18:28
2021年4月25日 14:18
「大聖堂は見てきましたか」黒縁メガネをかけたウェイターが綺麗な英語で聞いた。店の中にはほかに3組の客がいるだけで、メキシコシティの飲食店はどこもそうだけれど店員のほうがずっと多い。午後遅い、もやっとした重さのある空気を天井の換気扇がだるそうにかきまわしている。「今日の朝、見てきました。隣の、神殿の遺跡といっしょに。なんというのでしたっけ、テンプル・マヨール」「テンプロ・マヨール」ウ
2021年4月18日 05:24
くじらが肩にくっついて取れない夢を見た。もう仕方がないから、くじらの行く方向にゆらゆらと漂っていくしかないのだ。大きな灰色の三角の波を次々に乗り越えるのは恐ろしくもあり痛快であった。空はターコイズのような冷たい青色に晴れ上がり、わたしは光る波の間にいるのだった。背中のある一点を押されると、青い色が見える女の夢を見た。いつの頃からか、その一点を押されると、閃光が走るように青い色が目の前に
2021年4月11日 18:05
あなたという単位は、偶然にそこに集まった分子の集合。または偶然に出会った父母から偶然に生まれた遺伝子の表象または複雑に絡み合う分子の雲のシステムの間をでたらめなリズムで飛び交う電気信号の集合。または偶然に出会った祖先が偶然に始めたなにかの結果による偶然の影。でなければ何千億もの奇跡の連鎖のあとでかたちになったちいさな一つの魂一瞬の煙のなかに輝く永劫の
2021年4月5日 13:55
その人の手にはほっそりとした青灰色の種があった。薄く硬い、鞘から抜いた短剣のような種は手のひらに余る長さで、細い指先にしっかりと包まれている。「この種は、千年たったら芽を出すの」薄い色の目でわたしを見ながらそういった。「その時には、もうわたしたちはいない。わたしたちの知っているものは、何も残ってはいないかもしれない。この町も、国も、残っていないかもしれない。その時にどんな者たちがこの
2021年3月30日 17:36
翼が傾くと空の底に柔らかな満月夜の水の荒野のはてにとろりと広がる陸があるフジツボのように薄く光る寂しいビルディングがふつふつと増えていきわびしい町があらわれては消え曖昧な道路が暗闇のなかをかすかに光りながら はかなげにつながっていきか細く互いをさぐりあう震える神経細胞のようにやがてすこしずつ明かりが増えて百億の絶えず点滅し続ける光たちにべっとりと覆われた都
2021年3月21日 16:23
きつねのような尻尾をもつフェニキス人が、貿易をしに来る。三千二百年たったら、わたしたちに教えてくれるという。重い緑の宝石をもって来て、10億の生命と取り替えてあげようという。もし間に合うのならば。美はいつも正しく、あなたを苦しめる。わたしたちの中に埋め込まれた何億もの小さな装置が勝手な物語を作りだし続けるから、わたしたちはいつまでも殺し合いを続けなければならない。橋の上で蛙が