見出し画像

トビウオの夢

くじらが肩にくっついて取れない夢を見た。
もう仕方がないから、くじらの行く方向にゆらゆらと漂っていくしかないのだ。
大きな灰色の三角の波を次々に乗り越えるのは恐ろしくもあり痛快であった。
空はターコイズのような冷たい青色に晴れ上がり、わたしは光る波の間にいるのだった。


背中のある一点を押されると、青い色が見える女の夢を見た。
いつの頃からか、その一点を押されると、閃光が走るように青い色が目の前にはしるのだという。
時によって、深い群青色のこともあるし翡翠のようなあたたかな色合いのこともある。
アンジェラは、押す人によって色が変わるのよ、もちろん、と言って卑猥に微笑んでみせた。


元素記号が一面に描かれた壁の前で自転車を漕いでいる夢を見た。
背の高い物理学者が汚れた金時計を見つめて眉をしかめるから、私はもっと必死で漕がなければならないのだ。


砂利の駐車場を横切って近道をしようとしたら、いつの間にか赤い岩山の中に入り込んでいる夢をみた。
いつこんなに入り組んだところまで上ってきてしまったのか、大きな岩に囲まれてどうすればこの荒れ地から出て行くことができるのかわからない。しかも足には新しいハイヒールを履いているのだ。
まごまごしているうちに後ろから人が来てしまった。私は通行の邪魔になっていた。

あの人がトビウオになってしまった夢をみた。
海岸にたっていたら、大きな鳥がご褒美に魚をくれたので、よせばいいのに調子に乗ってトビウオの姿になれるところを自慢してキラキラと飛んで見せていると、強風が吹いて暗い緑色の海面に吹き落とされてしまった。
海の中には恐ろしい大きな魚がうようよとしているのに。
あっという間もなく、あの人はぬめった巨大なピンク色の魚に頭から呑まれてしまうのだ。

たくさんの人びとであふれた街にいる夢を見た。
よく知っているはずなのに、一人として顔を思い出せない人びとが、よどみのない川の流れのように次々に大きな部屋に入ってくる。
これから大きなテーブルで食事の支度を整えるのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?