てるぼい | ショートショート | 小説

不定期に短編小説やショートショートを上げています。

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記事一覧

【短編小説】アンドロイドの声(終)

男の死から数日後。若者のもとに警察官が訪ねてきた。警察はアンドロイドの情報を提供してほしいとの事だった。 「突然押し掛けてしまってすみません。市長の死についてご…

【短編小説】アンドロイドの声(4)

「歴史的な瞬間です。本日、メガロポリス議会でアンドロイド人権法案が可決されました。この時をもって、アンドロイドに人権が認められます。アンドロイドたちはこのメガロ…

【短編小説】アンドロイドの声(3)

男は次の日から早速行動を開始した。 まずは人権団体の情報を集め現状の分析をする。男はこの手の仕事を得意とする人間を雇い、入念な聞き込み調査を行い、各団体の背景事…

【短編小説】アンドロイドの声(2)

男はその若者の言葉に驚いた。 「人権団体を支援してほしい?一体どういうことだ。アンドロイドに人権を与えるとなると、アンドロイドの生産や販売に制限が付くこともあり…

【短編小説】アンドロイドの声(1)

あるところに男がいた。男は市長だった。 男は清廉潔白からは程遠く、その市政は汚職にまみれていた。もちろん最初からそうだったわけではない。志を持って政治の世界に飛…

【短編小説】悪辣な推論(4)

当時アルファ国と隣国は競い合うように宇宙開発を続けており、そのニュースはテレビでも盛んに報道されていた。『将来に対する安全保障のため地球外に居住できる惑星を見つ…

【ショートショート】自由の果てに

あるところに男がいた。男は人生に疲れていた。 仕事はうまくいかず、友人もほとんどいなかった。妻とは冷え切った関係で、唯一の慰めは毎日見る夢だけだった。どのような…

【短編小説】悪辣な推論(3)

男は高校を卒業後、大学に通い始めた。彼が選んだのは、アルファ国の名門大学だった。両親は相変わらず隣国で仕事を続けており、アルファ国に戻るつもりはない様だった。 …

【短編小説】悪辣な推論(2)

男が隣国で暮らした数年間で、このようなことは幾度となくあったが、両親にそれらを告げることはなかった。男のつらい日々とは対照的に、両親の仕事は非常にうまく回ってい…

【短編小説】悪辣な推論(1)

あるところに男がいた。男は今、宇宙空間を独りで漂流している。 男は真っ白い宇宙服を着ていた。宇宙服は正しく機能しており、エアはまだ十分にあったが、それでも数時間…

【ショートショート】天国と地獄

あるところに男がいた。男は今、天寿を全うし、人生の終わりを迎えたが、意識は途絶えることなく霊体となって残り続けていた。 自身が幽霊になるという予期せぬ状況に男が…

【ショートショート】あなたの一時間をください

男は退屈な仕事を繰り返す毎日を送っていた。大学時代、就職活動をするに当たって、男は楽にお金を稼げる仕事を希望した。男の希望は叶い、特別なスキルはいらない、ただ言…

【短編小説】夜中の事(1)

ある夏の出来事だった。 当時、私は就職のために東京に越してきたが、高額な家賃を支払う余裕はまるでなく、やむを得ず会社から遠く離れた地価の低い郊外へと住居を構えた…

【ショートショート】悪魔との契約

あるところに一人の男がいた。男はエンジニアだった。 男は仕事終わりに急に飲みたい気持ちになって、バーに行くことにした。普段は行かない店に行ってみようと初めての店…

【ショートショート】完璧なテクノロジー

男は自分の記憶力の衰えに悩んでいた。 男は保険のセールスマンで、もともと営業成績がそれほど良いわけではなかった。だが、最近は顕著に成績が下がっている。理由は明確…

【掌編小説】死ぬこと

祖父が死んだ。 第一発見者は祖父と二人で暮らしていた祖母で、朝中々起きてこない祖父を起こしに行くと既に亡くなっていた。それから方々に連絡したり、手続きを済ませた…

【短編小説】アンドロイドの声(終)

【短編小説】アンドロイドの声(終)

男の死から数日後。若者のもとに警察官が訪ねてきた。警察はアンドロイドの情報を提供してほしいとの事だった。

「突然押し掛けてしまってすみません。市長の死についてご協力をお願いしたくて来ました。テレジアと呼ばれていたアンドロイドが市長の最後を看取ったとのことですが、どうもあのアンドロイドはホロメモリーを持っていないようでしてね。あれは社長が市長に提供した特注品というので間違いないですかね?」

突然

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【短編小説】アンドロイドの声(4)

【短編小説】アンドロイドの声(4)

「歴史的な瞬間です。本日、メガロポリス議会でアンドロイド人権法案が可決されました。この時をもって、アンドロイドに人権が認められます。アンドロイドたちはこのメガロポリスで生きる一人の人間として認められたのです。メガロポリスでは至るところで喜ぶアンドロイドの姿が見受けられます。この件に関して、何人かのアンドロイドが番組の取材に応じてくれており……。」

ニュースでは朝から晩までアンドロイド人権法のこと

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【短編小説】アンドロイドの声(3)

【短編小説】アンドロイドの声(3)

男は次の日から早速行動を開始した。

まずは人権団体の情報を集め現状の分析をする。男はこの手の仕事を得意とする人間を雇い、入念な聞き込み調査を行い、各団体の背景事情を洗った。あの若者がくれたタブレットには様々な情報も入っていて、それには人権団体のデータも含まれていたが、それが信用に足るものかまだ判断がつかない。頭からあの若者を信用せず、まずは自分で動きそのデータの信頼性を確認することも必要だろう。

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【短編小説】アンドロイドの声(2)

【短編小説】アンドロイドの声(2)

男はその若者の言葉に驚いた。

「人権団体を支援してほしい?一体どういうことだ。アンドロイドに人権を与えるとなると、アンドロイドの生産や販売に制限が付くこともありえるだろう。あの血を流す特注品のアンドロイドだって、君や君の同業者の作品だ。どのようなものでも、君たちが利益を得ていることには違いない。他のアンドロイドにしても、人権を持たぬただの機械だからこそ、ここまで普及し利用されているのだろう。それ

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【短編小説】アンドロイドの声(1)

【短編小説】アンドロイドの声(1)

あるところに男がいた。男は市長だった。

男は清廉潔白からは程遠く、その市政は汚職にまみれていた。もちろん最初からそうだったわけではない。志を持って政治の世界に飛び込み、少しでもこの社会を良くしようと努力をした。だが、権力を持つとそれを利用しようという人が近づいてくるものだ。男のもとにも例に漏れずそういう人間がやってきて、いつの間にか男自身がそれを歓迎するようになっていた。そして、一度黒く染まると

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【短編小説】悪辣な推論(4)

【短編小説】悪辣な推論(4)

当時アルファ国と隣国は競い合うように宇宙開発を続けており、そのニュースはテレビでも盛んに報道されていた。『将来に対する安全保障のため地球外に居住できる惑星を見つけることで、アルファ国ひいては地球全体のために宇宙開発を行う』というのが国の提起するお題目だった。だが、宇宙開発を進めることで隣国に対して力を誇示するのが目的であるというのは誰の目から見ても明らかだった。人々が地球外へ飛び立とうという時にな

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【ショートショート】自由の果てに

【ショートショート】自由の果てに

あるところに男がいた。男は人生に疲れていた。

仕事はうまくいかず、友人もほとんどいなかった。妻とは冷え切った関係で、唯一の慰めは毎日見る夢だけだった。どのような夢であっても、夢の中では男は悲惨な現実から逃避することができた。

ある日、男は夢の中で誰からも認識されない存在になっていた。誰も男を見ない。話しかけない。男の存在自体に気付かない。

男は自分が透明人間になったような思いだった。最初は奇

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【短編小説】悪辣な推論(3)

【短編小説】悪辣な推論(3)

男は高校を卒業後、大学に通い始めた。彼が選んだのは、アルファ国の名門大学だった。両親は相変わらず隣国で仕事を続けており、アルファ国に戻るつもりはない様だった。

男は両親にアルファ国の大学に通いたいと告げたときのことを今でも鮮明に覚えていた。両親は男の選択に不安を露わにした。この子はアルファ国に戻って一人で大丈夫だろうか。男が学校でどのような仕打ちを受けていたのか全く知らなかった両親には、成長の過

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【短編小説】悪辣な推論(2)

【短編小説】悪辣な推論(2)

男が隣国で暮らした数年間で、このようなことは幾度となくあったが、両親にそれらを告げることはなかった。男のつらい日々とは対照的に、両親の仕事は非常にうまく回っているようだった。隣国の人々はアルファ国人を嫌っているとはいえ、ビジネスとして利益関係が成り立つのであれば、そこに幾分かの秩序が生まれるのだろう。両親は仕事が前にも増しておもしろいと感じているようで、一層仕事にのめりこむ様になった。それに比例し

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【短編小説】悪辣な推論(1)

【短編小説】悪辣な推論(1)

あるところに男がいた。男は今、宇宙空間を独りで漂流している。

男は真っ白い宇宙服を着ていた。宇宙服は正しく機能しており、エアはまだ十分にあったが、それでも数時間ももたないことを男は知っていた。男は船外調査の折、同僚に宇宙船から突き落とされた。宇宙に上も下もないのだから突き落とされるという表現は正しくないのかもしれないが、男には果てしなく広がる宇宙の闇の中に落とされたように感じた。

男は宇宙船か

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【ショートショート】天国と地獄

【ショートショート】天国と地獄

あるところに男がいた。男は今、天寿を全うし、人生の終わりを迎えたが、意識は途絶えることなく霊体となって残り続けていた。

自身が幽霊になるという予期せぬ状況に男が戸惑っていると、そこに二人の人物が現れた。二人は男の前までやってくると、片方が我先にと自己紹介を始めた。

「はじめまして、私は天の使いです。あなたの魂を天国までお連れするためにやって来ました。」

男は天使の発言を聞き、そのシステムを理

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【ショートショート】あなたの一時間をください

【ショートショート】あなたの一時間をください

男は退屈な仕事を繰り返す毎日を送っていた。大学時代、就職活動をするに当たって、男は楽にお金を稼げる仕事を希望した。男の希望は叶い、特別なスキルはいらない、ただ言われた通りに作業をするだけの簡単な仕事に就くことができた。毎日退屈な仕事に耐えるだけでよい。入社して数年、男は仕事を通して成長を感じたことなどなかった。お金を稼ぐために時間を売る。男の仕事を表すとしたら、この表現が適切だった。

ある日のこ

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【短編小説】夜中の事(1)

【短編小説】夜中の事(1)

ある夏の出来事だった。

当時、私は就職のために東京に越してきたが、高額な家賃を支払う余裕はまるでなく、やむを得ず会社から遠く離れた地価の低い郊外へと住居を構えた。毎日我が家から会社まで、そして、会社から我が家まで片道1時間半の道のりを電車で通う。それが私の日常だった。

その日は朝から仕事は山積みで、夜遅くまで残業していた。一刻も早く仕事を片付けて、ただ家へ帰りたい。そんな一心で仕事を終えたはず

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【ショートショート】悪魔との契約

【ショートショート】悪魔との契約

あるところに一人の男がいた。男はエンジニアだった。

男は仕事終わりに急に飲みたい気持ちになって、バーに行くことにした。普段は行かない店に行ってみようと初めての店に入ると、見知らぬ老人が一人で飲んでいた。

「隣、よろしいですか?」

男は老人の隣に腰掛け、二人で飲むことにした。老人と男は意気投合し、お互いのことを話した。話によると、老人は金持ちの好事家らしく、悪魔を呼ぶことのできると噂の不思議な

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【ショートショート】完璧なテクノロジー

【ショートショート】完璧なテクノロジー

男は自分の記憶力の衰えに悩んでいた。

男は保険のセールスマンで、もともと営業成績がそれほど良いわけではなかった。だが、最近は顕著に成績が下がっている。理由は明確だった。商品の内容を覚えられないのだ。昔はすぐに頭に詰め込んで、一件でも多く契約を取りに走り回ったものだ。それが歳衰えたせいか、一向に頭に入ってこない。仕方ないから覚えもしないまま営業に行ってみたものの、やはり契約は一向に取れなかった。

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【掌編小説】死ぬこと

【掌編小説】死ぬこと

祖父が死んだ。

第一発見者は祖父と二人で暮らしていた祖母で、朝中々起きてこない祖父を起こしに行くと既に亡くなっていた。それから方々に連絡したり、手続きを済ませたりで色々と大変だったようだ。

独り暮らしの私の元に連絡が来たのは昼過ぎだった。私は昼休みが明けると、明日から数日休む旨を部長に伝え、足早に家に帰った。

東京から実家へは片道数時間かかる。私は急いで支度をして、必要なものだけ持って家を出

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