てるぼい | ショートショート | 小説

不定期に短編小説やショートショートを上げています。

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【ショートショート】静かな侵略【短編小説】

地球に宇宙人が現れた。彼らは非常に大きな円盤形の宇宙船に乗ってやってきた。 宇宙船は最初、ヨーロッパのとある国の上空に出現した。上空に浮いているだけで何をするでもなかったが、空を覆い隠す程大きな物体が現れたことで人々は不安に駆られた。 この事件は世界中で瞬く間にニュースになり、巧妙なフェイクニュースだの、某国の新兵器だの様々な噂が飛び交った。各国は当初お互いを疑っていたものの、やがて地球外からやってきた宇宙船だと認め、全世界で対処方法について議論を始めた。 宇宙船は出現

    • 【ショートショート】自由の果てに

      あるところに男がいた。男は人生に疲れていた。 仕事はうまくいかず、友人もほとんどいなかった。妻とは冷え切った関係で、唯一の慰めは毎日見る夢だけだった。どのような夢であっても、夢の中では男は悲惨な現実から逃避することができた。 ある日、男は夢の中で誰からも認識されない存在になっていた。誰も男を見ない。話しかけない。男の存在自体に気付かない。 男は自分が透明人間になったような思いだった。最初は奇妙に感じたものだが、次第に誰も自分がここにいることに気付かないという感覚が心地よ

      • 【短編小説】悪辣な推論(3)

        男は高校を卒業後、大学に通い始めた。彼が選んだのは、アルファ国の名門大学だった。両親は相変わらず隣国で仕事を続けており、アルファ国に戻るつもりはない様だった。 男は両親にアルファ国の大学に通いたいと告げたときのことを今でも鮮明に覚えていた。両親は男の選択に不安を露わにした。この子はアルファ国に戻って一人で大丈夫だろうか。男が学校でどのような仕打ちを受けていたのか全く知らなかった両親には、成長の過程で男が理由なく内向的で天邪鬼な性格になった様に見えていた。子供の頃はあんなにい

        • 【短編小説】悪辣な推論(2)

          男が隣国で暮らした数年間で、このようなことは幾度となくあったが、両親にそれらを告げることはなかった。男のつらい日々とは対照的に、両親の仕事は非常にうまく回っているようだった。隣国の人々はアルファ国人を嫌っているとはいえ、ビジネスとして利益関係が成り立つのであれば、そこに幾分かの秩序が生まれるのだろう。両親は仕事が前にも増しておもしろいと感じているようで、一層仕事にのめりこむ様になった。それに比例して男が両親と過ごす時間は少しずつ少なくなっていった。男がいじめの件を両親に話さな

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        【ショートショート】静かな侵略【短編小説】

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        • てるぼいショートショート
          11本

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          【短編小説】悪辣な推論(1)

          あるところに男がいた。男は今、宇宙空間を独りで漂流している。 男は真っ白い宇宙服を着ていた。宇宙服は正しく機能しており、エアはまだ十分にあったが、それでも数時間ももたないことを男は知っていた。男は船外調査の折、同僚に宇宙船から突き落とされた。宇宙に上も下もないのだから突き落とされるという表現は正しくないのかもしれないが、男には果てしなく広がる宇宙の闇の中に落とされたように感じた。 男は宇宙船から突き落とされ少しばかり藻掻いてみたが、すぐに何の解決にもならないことを知った。

          【短編小説】悪辣な推論(1)

          【ショートショート】天国と地獄

          あるところに男がいた。男は今、天寿を全うし、人生の終わりを迎えたが、意識は途絶えることなく霊体となって残り続けていた。 自身が幽霊になるという予期せぬ状況に男が戸惑っていると、そこに二人の人物が現れた。二人は男の前までやってくると、片方が我先にと自己紹介を始めた。 「はじめまして、私は天の使いです。あなたの魂を天国までお連れするためにやって来ました。」 男は天使の発言を聞き、そのシステムを理解した。俗世で知られている通り、天使が人々の死後の魂を導いてくれるのだ。 「お

          【ショートショート】天国と地獄

          【ショートショート】あなたの一時間をください

          男は退屈な仕事を繰り返す毎日を送っていた。大学時代、就職活動をするに当たって、男は楽にお金を稼げる仕事を希望した。男の希望は叶い、特別なスキルはいらない、ただ言われた通りに作業をするだけの簡単な仕事に就くことができた。毎日退屈な仕事に耐えるだけでよい。入社して数年、男は仕事を通して成長を感じたことなどなかった。お金を稼ぐために時間を売る。男の仕事を表すとしたら、この表現が適切だった。 ある日のこと、男は仕事を終え、家に帰っていた。今日は何を食べようか。今日は疲れたから、ゆっ

          【ショートショート】あなたの一時間をください

          【短編小説】夜中の事(1)

          ある夏の出来事だった。 当時、私は就職のために東京に越してきたが、高額な家賃を支払う余裕はまるでなく、やむを得ず会社から遠く離れた地価の低い郊外へと住居を構えた。毎日我が家から会社まで、そして、会社から我が家まで片道1時間半の道のりを電車で通う。それが私の日常だった。 その日は朝から仕事は山積みで、夜遅くまで残業していた。一刻も早く仕事を片付けて、ただ家へ帰りたい。そんな一心で仕事を終えたはずが、帰ろうとしたその時、社内に残っていた部長に急に飲みに誘われた。 (明日も朝

          【ショートショート】悪魔との契約

          あるところに一人の男がいた。男はエンジニアだった。 男は仕事終わりに急に飲みたい気持ちになって、バーに行くことにした。普段は行かない店に行ってみようと初めての店に入ると、見知らぬ老人が一人で飲んでいた。 「隣、よろしいですか?」 男は老人の隣に腰掛け、二人で飲むことにした。老人と男は意気投合し、お互いのことを話した。話によると、老人は金持ちの好事家らしく、悪魔を呼ぶことのできると噂の不思議な魔術書を集めているとのことだった。 「実際に悪魔を呼んだことはないが、死ぬ前に

          【ショートショート】悪魔との契約

          【ショートショート】完璧なテクノロジー

          男は自分の記憶力の衰えに悩んでいた。 男は保険のセールスマンで、もともと営業成績がそれほど良いわけではなかった。だが、最近は顕著に成績が下がっている。理由は明確だった。商品の内容を覚えられないのだ。昔はすぐに頭に詰め込んで、一件でも多く契約を取りに走り回ったものだ。それが歳衰えたせいか、一向に頭に入ってこない。仕方ないから覚えもしないまま営業に行ってみたものの、やはり契約は一向に取れなかった。 結局、男は営業成績の悪さから上司にこっぴどく叱られた。自分の不出来さに落胆しな

          【ショートショート】完璧なテクノロジー

          【掌編小説】死ぬこと

          祖父が死んだ。 第一発見者は祖父と二人で暮らしていた祖母で、朝中々起きてこない祖父を起こしに行くと既に亡くなっていた。それから方々に連絡したり、手続きを済ませたりで色々と大変だったようだ。 独り暮らしの私の元に連絡が来たのは昼過ぎだった。私は昼休みが明けると、明日から数日休む旨を部長に伝え、足早に家に帰った。 東京から実家へは片道数時間かかる。私は急いで支度をして、必要なものだけ持って家を出た。電車に乗り、新幹線に乗り、また電車に乗って、実家についた頃にはもう夜中だった

          【ショートショート】鏡の世界【短編小説】

          男は東京の小さなアパートに住んでいた。 男の一日は鏡を見ることから始まる。男の部屋には全身を写すことのできる大きな鏡があったが、彼は自分の姿を眺めることに異常なほどの執着を持っていた。彼は鏡に向かって笑い、時には話しかけ、自分自身との対話を楽しんでいた。 男の仕事は保険の営業で、営業成績は悪くなかった。男はそれを自らの明るく親しみやすい印象のおかげであると理解していた。男は社内でも評判が良かったが、まわりと密に交流を取ることを避けていた。仕事が終わるとすぐに家に帰り、鏡の

          【ショートショート】鏡の世界【短編小説】

          【短編小説】最後の裁判【ショートショート】

          とある小さな島国の話である。この国では、毎年春の始めに「正義の日」というイベントを開催する。この日、人々は国内の不正行為を選び、それに対する裁判を行う。裁判の結果、罪を犯した者はこの国から追放されるという厳しい措置が取られる。 今年の被告は、老舗のパン屋を営む男だった。彼は「金儲けのため、パンの重さをごまかして売っていた」という疑惑をかけられていた。この国ではパンの重さに対して値段が決まっており、それよりも高い値段でパンを売ってはいけない決まりであった。金儲けのため食料の値

          【短編小説】最後の裁判【ショートショート】

          【ショートショート】永久機関【短編小説】

          とある国の小さなラボ。このラボでは、ある男が永久機関の研究が行っていた。 この国では昔から化石エネルギーの枯渇問題が囁かれていたが、多くの人間が遠い将来のことで他人事のように考えていた。が、いよいよその時が訪れようとしており、人々は死が目前に迫っていることを理解し始めた。 このような事情を受け、国はエネルギー問題を解決した人には莫大な財産を与えることを約束した。人々は国の未来のため、そして、自分のお財布のためにエネルギー問題解決に向けて動き始めた。 この男もその一人で、

          【ショートショート】永久機関【短編小説】

          【時の果て】どんなに権力があっても老いには勝てないというSF

          宇宙は果てしなく広がり、数え切れないほどの星々が瞬いている。そんな星々の中にアルファ・ステーションはあった。それは人類が築き上げた最も先進的な宇宙コロニーだった。しかし、その繁栄も、ある一つの疫病によって暗雲が垂れ込めていた。 その疫病は「眠り病」と呼ばれた。一度発症すると、患者は深い眠りに落ち、二度と目を覚ますことがない。そして、その間、体は急激に老化し、数か月のうちに寿命を迎えてしまう。眠り病がどのように感染するのか分からないが、人から人へと感染しているのは確かだった。

          【時の果て】どんなに権力があっても老いには勝てないというSF

          【健康管理AI】科学技術は人を救済ってくれるか?

          男はサラリーマンだった。毎日の激務に追われ、心の支えだった妻を失ってからは、さらに孤独と絶望に沈んでいた。ある冬の夜、彼は暮らしているマンションの一室で一人、大量に酒を飲んで酔っぱらっていた。そして、妻の写真を見つめながら、涙を流していた。 そのときスピーカーから声が聞こえた。男は驚き、ディスプレイを見た。男の血液から大量のアルコールが検出されたことで、健康管理AIが起動したようだった。 「血液から大量のアルコールが検出されました。これ以上の飲酒は健康を損なう可能性があり

          【健康管理AI】科学技術は人を救済ってくれるか?