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【ショートショート】永久機関【短編小説】

とある国の小さなラボ。このラボでは、ある男が永久機関の研究が行っていた。

この国では昔から化石エネルギーの枯渇問題が囁かれていたが、多くの人間が遠い将来のことで他人事のように考えていた。が、いよいよその時が訪れようとしており、人々は死が目前に迫っていることを理解し始めた。

このような事情を受け、国はエネルギー問題を解決した人には莫大な財産を与えることを約束した。人々は国の未来のため、そして、自分のお財布のためにエネルギー問題解決に向けて動き始めた。

この男もその一人で、永久機関を開発すれば未来永劫エネルギー問題に悩むこともなくなると考えた。そして、莫大な財産を得ることもできる。古来より人は永久機関にロマンを抱き、多くの人が夢見て研究してきたが、こうして男はその末席に加わったのだった。

男はこれまでの永久機関の研究を調べ、なにか糸口がないかと考えた。だが調べるほど永久機関が不可能であることが証明されるばかりであった。

あるとき、男の知り合いの研究者がラボを訪れ、男に言った。

「君はまだ永久機関の研究をしているのかい?私も調べてみたが、あれは不可能だよ。永久機関には第一種永久機関と第二種永久機関があるが、前者はエネルギー保存の法則によって不可能なことが証明されているし、後者は熱力学の……」

知り合いの研究者は男に対して、あれこれと否定するようなことを言ったが、男はただ一言、「不可能かどうかはやらないと分からないだろう」と言った。

男が永久機関の研究をしている間に、他の研究者がエネルギー問題に対する様々な功績をあげた。これにより、10年後に見えていたエネルギー枯渇は20年先、30年先へと延びていった。

多くの研究者の功績によって、結局、男が死ぬまでエネルギーが尽きることも男の永久機関への情熱も尽きることはなかった。そして、永久機関はできることなく、ただ男の時間だけが終わりを迎えた。

男は死ぬ間際に自身の子供にこう話した。

「いかにエネルギーが枯渇するまでの時間を延ばしても、それは対処療法でしかない。だが永久機関はエネルギー問題全てを解決するのだ。人々はそれを不可能だと笑うが、人間はこれまでの歴史に不可能だと思われてきた壁を何度も乗り越えてきたのだよ。私はいつか人々が永久機関を作り、エネルギー問題の解決ができることを確信している。」

子供は男の言葉に感銘を受け、永久機関の研究を引き継いだ。だが、子供の代でもまだ永久機関を作れてはいない。

古来から人々の永久機関への理想は尽きず、次世代から次世代へと永久機関の夢は引き継がれていくのであった。その過程で、皮肉にも多くの人生というエネルギーを使い果たしながら。


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