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【時の果て】どんなに権力があっても老いには勝てないというSF

宇宙は果てしなく広がり、数え切れないほどの星々が瞬いている。そんな星々の中にアルファ・ステーションはあった。それは人類が築き上げた最も先進的な宇宙コロニーだった。しかし、その繁栄も、ある一つの疫病によって暗雲が垂れ込めていた。

その疫病は「眠り病」と呼ばれた。一度発症すると、患者は深い眠りに落ち、二度と目を覚ますことがない。そして、その間、体は急激に老化し、数か月のうちに寿命を迎えてしまう。眠り病がどのように感染するのか分からないが、人から人へと感染しているのは確かだった。宇宙船やステーションの密閉空間では、瞬く間に広がり、多くの命が失われた。

アルファ・ステーションのリーダーである男は、この状況の打開を試み、いくつかの対策を打ってみたが、いずれもうまくいかなかった。

次第に男は眠り病への恐怖が大きくなり、自分やその身内だけでも生き残る方法を考え始めた。そして、その準備が整い、実行に移した。
ステーションの中心にある巨大なドームをシールドで閉鎖し、自分と選ばれた数十人のエリート、そしてその家族たちだけの社会を築いた。もちろんエリートであっても眠り病にかかっている人間や眠り病の人間と接触した人間は除いた。そうして、外界との接触を完全に断ち、彼らは眠り病に脅かされない、内部での生活に没頭した。

外界と隔絶しているシールド内部はいくつかのセクションに分かれていた。各セクションに異なる機能を持たせ、効率的にシールドの中で生きていくためである。そして、それらのいずれのセクションもハブとなる中央セクションに繋がっており、中央セクションには巨大なホロクロックが設置されていた。どのセクションからでも見ることができるそのホロクロックは外界から隔絶されて以降、絶えず時を刻んでいた。外界から隔絶されても外と同じ時間を刻むホロクロックは、シールドの中で唯一の外界との繋がりであった。

男たちはシールドの中で何不自由ない暮らしを送っていた。食料もエネルギーもシールド内部で自給自足されていたため、困ることはなかった。それはアルファ・ステーションの持つインフラをシールド内部に取り込んでいるということであり、シールド外部では人々が困窮した生活を送っていることを意味していた。

だが、そのような状況でも男たちはシールド外部を気に留めないし、男たちの立場が脅かされることもなかった。それほどの力が男たちにはあった。

ある夜、シールド内部のとあるセクションの一角で、男は盛大なパーティーを開いた。選ばれたエリートたちは、豪華な衣装を身にまとい、ドーム内を歩き回った。音楽が鳴り響き、笑い声が溢れ、彼らは一時の幸福に浸っていたが、ホロクロックが鳴ったことで、人々は困惑した。

ホロクロックが特定の時間を示すとき、鐘が一度だけ鳴るようになっている。だが、その日は一度に止まらず、二度、三度とホロクロックが鐘を鳴らし続けていた。

男は動揺し、あれを早く止めろと騒ぎ立てたが、誰も止める術を知らなかったため結局止まるまで待つことになった。

少し経って鐘が止んだ。男たちは気を取り直し、パーティーを再開すると、会場に黒いドレスを着た助成金が現れた。その女性は立っているだけで人目を引く程美しく、そのドレスは吸い込まれそうな程に鮮やかな黒だった。

男は彼女に近づき、声をかけた。すると、女は男に微笑みかけ、男の手を取り、一緒に踊りましょうと誘った。男は女の誘いを了承し、踊り始めた二人だったが、男はふとあることが気になった。

「あなたほどの美女を私が忘れるはずがない。普段お見かけしませんが、いつもはどこで何をされているんですか?」

問いかけると女はダンスを止めた。そして、男の問いかけには答えず、女がぐっと体を近づけてきた。キスをしてしまいそうな程に顔が近づき、女の瞳に映っている自分の姿が目に入った。瞳の中の男は年老い、死の淵に立っていた。

その瞬間、男は体の異変を感じた。激しい疲労感が体中を走り、瞼が重くなっていった。周りの人たちも次々に倒れ始め、眠りに落ちていった。彼らの体はみるみるうちに老化し、その場の全員が命を落とした。そして、しばらくして眠り病はシールド内部の全セクションへと広がり、他のものも皆亡くなった。

誰もいないシールドの中でもホロクロックは時を刻んでいた。静寂と死の中で、ホロクロックの鐘の音だけが響いていた。

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