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【短編小説】最後の裁判【ショートショート】
とある小さな島国の話である。この国では、毎年春の始めに「正義の日」というイベントを開催する。この日、人々は国内の不正行為を選び、それに対する裁判を行う。裁判の結果、罪を犯した者はこの国から追放されるという厳しい措置が取られる。
今年の被告は、老舗のパン屋を営む男だった。彼は「金儲けのため、パンの重さをごまかして売っていた」という疑惑をかけられていた。この国ではパンの重さに対して値段が決まっており、それよりも高い値段でパンを売ってはいけない決まりであった。金儲けのため食料の値段を釣り上げられては人々が飢えて困ってしまう。それを防ぐために決まったことだった。
男は「金儲けなど企んではいない」と潔白を主張したが、人々は誰も彼の言葉を信じようとしなかった。
広場に裁判所が設けられ、裁判が始まった。男のパンが裁判所へと運ばれて来て、その重さが量られる。調べてみると、その価格設定に対してパンは明らかに軽い。男が法を犯していることは明らかだった。裁判長が最終的な判決を下そうとしたとき、男が弁明の機会を申し出た。
裁判長が許可すると、男は静かに立ち上がり、天秤を指さし言った。
「あの天秤で私のパンの重さをもう一度量ってみてください。ただし、私のパンの重さを量るために、他の店で売られている同じ値段のパンを使ってください。」
それが一体何になるのだ。裁判長を含め群衆は彼の提案の意図を理解できなかった。が、最後くらいとそれを許し、男の提案を飲むことにした。
いくつかの店のパンが用意され、男のパンと一緒に天秤にかけられた。すると、なんと不思議なことに、どの店のパンも男の店のパンと変わらない重さだった。つまり、全てが基準を犯していた。裁判所は騒然となり、裁判は一時中断することになった。
数日後、とある調査結果が提出された。この調査結果によると、国のすべてのパン屋が基準を犯していた。裁判長は急いで国中のパン屋を裁判所へと集めた。
「お前らパン屋はみな金儲けのためにパンを作っているのか。みなで合意のもとにパンの価格を釣り上げたとなると、それは許されざることだぞ」
だが、パン屋たちはそれを否定し、弁明した。
「国が定めた基準は把握していたが、国の基準は現実に即していないもので、その基準でパンを売れば、店は赤字になってしまう。人々が食に困らぬように定めた法律で、パン屋自身がパンを食べることさえできなくなるのだ。」
パン屋たちの怒りはもっともだった。が、裁判長はそれを認めなかった。
「何を言うか。法は正義の名のもと、人々のために設けられたものだ。お前たちがどのように考えようと、国民のための規則を破ったのは事実。規則を破った罰は受けなければならない。」
裁判所は正義の名のもとに、国中のパン屋を追放した。こうして不正行為を犯した悪党たちは追放され、国は正義によって守られた。
だが、この事件は正義の日の「最後の裁判」となった。国中のパン屋を追放したことで、この国から食料がなくなり、一年ももたず国が滅んだためだった。
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