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SWING-O の短編集

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2022年スタート!SWING-Oによるエッセイのようなフィクションのような短編をほぼ毎月発表中です。いずれ本に出来たらいいなと言うのが目標。酒や音楽や散歩などを軸にした短編を記… もっと読む
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記事一覧

旅のお供に読書で世逃げ

旅のお供に読書で世逃げ

 自分は音楽家なんですが、街を出歩くときにヘッドフォンやイヤフォンはしません。そりゃあ昔は、20代の頃とかはウォークマン世代なのでしましたけどね。でもある時思ったんですよ。「ウチを出て歩く時間もビジネスにしちゃったのか」と。「タイムイズマネー」昔は「ふむふむ」とうなずいてましたが、今は顔を横に振ります。「時間を金に換算しよう」とするぐらい資本主義ははびこってしまったのかと。回り道迷い道を良しとしな

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残念な音楽バー

残念な音楽バー

  先日の音楽旅行のある日の夜のこと、打ち上げが終わり、一人ぶらぶらしていた時のことだ。なんとなくGoogleマップで検索をして、川沿いの良さげな音楽バーに入ってみることにした。エレベータのない4階建てのビルの4階、まあ看板は悪くない感じだったから勇気を持って入ってみた。

 そこはビリージョエルのライブアルバムをもじった名前の音楽バーで、入ってみると壁にそのアルバムを大きく飾ってあった。俺はハー

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未来夢想 #2

未来夢想 #2

 嫌な現実に少しでも直面しなくて済むように、演奏旅行を組み、時間があれば古い本や他国の本を読むようにしている。違う空気に触れ、違う人生に触れることが精神衛生上は一番だと思うから。

 自分の演奏や話を喜んでくれる人がいることを確認できれば、いくばくかの幸せな気持ちになれる。自分の存在意義を一時的にせよ確認できる行為、演奏旅行。

 違う時代に触れる、違う国の問題や悩みに触れるための読書も自分が少し

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俺にとっての坂本龍一

俺にとっての坂本龍一

有名無名問わず、知ってる知らない問わず、年齢問わず、日々いろんな方が召されていく。生があるから死があるし、死があるから生もある。何かの死を食して我々は生きていると考えたらごく当然なこと。それが植物に限定しようが動物や昆虫(!)だとしても、何かの死を食していることに違いない。

それを「こちら側の生」と「あちら側の死」と分けて、なるべく遠ざけるように生きていくのか、それぞれが絡み合って循環していると

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R.I.P. Ahmad Jamal への手紙

R.I.P. Ahmad Jamal への手紙

#RIPAhmadJamal
4.16.2023 享年92

いやぁもう大往生でしょう!お疲れ様でした。

また独特なピアノ人生でしたね?日本のジャズ紹介本でもあまり見かけない、あって1958年の"But Not For Me"(もしくは"Ahmad Jamal At The Pershing")ぐらい。タイプこそ違えど、扱いは昨年召されたRamsey Lewisと似てるかもしれません。「日本のジ

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読書感想文「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」

読書感想文「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」

たまには「読書感想文」を書いてみよう。

そもそも子供の頃の俺は国語の成績が悪かった。その代わり算数・理科が得意な、まさに理系の少年だった。その得意な理系を武器に、国立大学の工学部電気電子工学科なんてところに一発合格するまで行った。大学は千葉大学。確かその頃の日本の中でもトップ8に入るぐらいのところだったと覚えている(今はどうか知らないが)。ところが月日は30年以上過ぎて、すっかり読書中年になって

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未来夢想 #1

未来夢想 #1

今日は美容室だった。髪を切り、色を抜くいわゆるブリーチの日だ。その昔「脱色」と呼ばれていたのをふと懐かしく思い出す。それも取り締まる高校の先生の顔ごと。

脱色、否ブリーチには時間がかかる。1,2時間は最低でもかかる。なのでその時間は毎度読書の時間にしている。俺の行きつけの美容室には本が新旧織り交ぜて色々あるし。

今回はふと目についた「文藝春秋4月号〜日本の食が危ない!」を読むことにした。歴史あ

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"Earth Birth"

"Earth Birth"

 あの人と別れたい :70%
 あの人と続けるべき:40%

 「おっとそれじゃあ足して110%だから間違ってるだろ?」
 「いやそんなにはっきり割り切れないのが感情の勘定じゃないかしら?」

 そのような自問自答の記された小説を読みながら、思わずうなずいている。外部からの文字の刺激に体を動かしたのは久しぶりかもしれない。何せ今いるのは独房。事実上の独房だが、今俺がいる、その英語の名前の建物を直訳

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彦根散歩

彦根散歩

 53歳と自分もまぁまぁな年齢になってきたけど、数少ない良かったことは、多くの人との出会い、多くの書籍との出会い、あと散歩の経験値が溜まってきたことでどの街を歩いていても漠然とどんな街かが分かるようになってきたこと。実際社会学専門家や歴史家ではないので正確なことまでは分からないけれど、漠然とした地政学は分かるようになってきた。その「漠然とした」「なんとなく」の感性のおかげで、散歩の果てに面白い場所

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房さんとの4日間【4日目】

房さんとの4日間【4日目】

【3日目~続き】

 所沢MOJO、房さんのステージが始まった。ドブロで奏でる”Paris,Texas”。Ry Cooderが書いた、Wim Wenders映画の曲。この映画自体が房さんのお気に入り。ドブロの響きがテキサスの田舎の草原を想像させる曲。ドブロの曲が3曲続く。モアリズム中村と後ろの方でニヤニヤしながら見学してる。

 そして4曲目、房さんはエレキギターに持ち替える。曲は昨夜横浜で一緒に

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房さんとの4日間【3日目】

房さんとの4日間【3日目】

【3日目】

 横浜のライブの余韻が残ったままの翌朝を迎えた俺は、既に所沢のライブも行く気になっていた。あとは家族と相談するだけだったが、それはすんなりクリアした。息子の誕生日祝いは夕方することになったからだ。18時ぐらいに家を出れる、となると19時過ぎには所沢の本日の会場MOJOに着ける。そう、今日は前座に旧友のモアリズム中村もいる、なんなら彼とも絡みたい。ということでピアニカは必須だ。ピアニカ

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房さんとの4日間【2日目】

房さんとの4日間【2日目】

【2日目】

「お前はどこにも属してないからいいんだよ。"どこにも属さないで生きる"、城山三郎の言葉だ、知ってるか?」

大阪でサシ飲みして話が色々と盛り上がってきたところで房さんは、俺のことをそう評してくれた。

「城山三郎は知らないですが、確かにそうですね。自分はどのチームにもどのジャンルにも属していない。どっちかと言えば属したくても属せないとも言いますけどね。でも誰かとつるんでるよりは一人で

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房さんとの4日間【1日目】

房さんとの4日間【1日目】

 俺より18歳年上の現在71歳のミュージシャン先輩、房さん。フルネームは言わないでおく。ま、わかる人にわかれば良いし、わからなくても面白い日々であったことは伝わるかと思う。なにせここ一週間で4日も一緒に過ごしたのだから、何か記しておきたくなってね。

 そもそも会う予定を前々から決めてた訳ではない。ツアー仕事で大阪に行く予定があり、ふと、ふと思い出したのだ「あ、房さんは今大阪に住んでるんだったな」

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Straight, No Chaser

Straight, No Chaser

「自分たちの置かれた世界の恐怖に圧倒されたんだ。
なぜなら、彼らには結局、もはや純粋に抒情的な芸術という武器では、
その世界を圧倒することが出来なくなっていたからだ」
ケネス・レクスロス(ビート系詩人)

 「半世紀以上前に既にそう言われていてたんだから、今やどうしようもないよな。走り出した電車は止められないのさ。かつその電車は加速し続けなきゃいけないように出来ている。ブレーキを踏んだら負け、なゲ

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