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ボツネタ御曝台【エピタフ】混沌こそがアタイラの墓碑銘なんで#041



元歌 高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」

残酷な天使のように
少年よ 神話になれ


立ちションをする奴なんか
ファスナーで ちいかわ挟め




「ちいかわ……」

ちいかわ……

……

「何だ? ちいかわって」

小さくてかわいいやつの皮じゃないですか?

「だったら〈ちいかわかわ〉だろ?」

あそっか

「だいたい可愛くないだろ、立ちションをする奴なんて」

いやいや先輩、神は可愛い奴にも可愛くない奴にも、等しく小さければ可愛い奴を与えたもうたのですよ

「小さければ可愛い奴?」

そう、小さければ……

……

「しかし、何だよ、この歌詞は」

はい、これはオープニングの歌詞なのでアカペラでゆっくり歌ってください

「歌わねーわ! こんなのカラオケで歌ったら友達いなくなるわ!」




「ところで、この歌詞、誰目線なんだよ」

そりゃあ、天使でしょ

「天使?」

はい、天使が一番嫌いなモノ、それが立ちションですから

「へえ~、何で?」

何か、小便小僧と仲が悪いそうですよ

「近親憎悪ってやつか」

でしょうね

……

「じゃあ、立ちションした奴ってどうなるんだろう?」

多分、天国へは行けないんでしょうね

「やっぱ、そうだよな」

『フランダースの犬』の最終回で、空から天使たちが舞い降りて、ネロとパトラッシュの魂を天国に連れていくシーンあるでしょ

「ああ、一番泣いちゃうシーンな」

あのシーン、良く観ると天使がネロの耳元でささやいているらしいですよ

「何て?」

てめえ、立ちションしたことねーだろうな? って

「ゲッ! ど、どうなるんだよ!? もし、ネロが立ちションしたこと有ったら!?」

当然、天使はそのまま空に帰ってしまいますよ

「やっぱ、そうかー」

そして、代わりに4人の小便小僧が舞い降りてきます

「やめろ! 食事中の人もいるだろ! おにぎりモグモグしながら読んでる人もいるだろ! 多分」

すいませんでした、そうですよね、飲尿療法オジサンだけじゃないですもんね、この記事読んでるのって

……

「ところで、パトラッシュってどうなったんだっけ?」

あっ……

「……き、訊かない方が良かったか?」

……

……パトラッシュて犬ですよね?

「もちろん……あっ」

……

……

だ、大丈夫ですよ、犬の場合は……立ちションには該当しません

「そうだよな、パトラッシュが天国に行けなかったら、ほかの犬も全部天国に行けなくなっちゃうもんな」

犬は基本四つん這いですし、足をあげたところで最低でも3本足ですから、立っているとはいえません

「良かった良かった」

全国の飼い主さん、くれぐれも散歩中、犬を二本足で立たせたままオシッコをさせないようにしてくださいね

「そうそう、ワンちゃんが天国に行けなくなりますからね」

……

「それにしてもよ、この天使、怒りすぎじゃねえか? ちいかわ挟めとかいっちゃって」

ですよね、「挟めばイイな~」じゃねくて「挟め!」っていう命令口調ですもんね

「痛いんだろ? アレって?」

はい、相当痛いらしいですよ

「ちいかわを挟んだ少年が、痛い痛いと泣きごとをいっても天使は許さないんだろ?」

お前、なにファスナーを戻してるんだよ、そのまま上にあげろよ! っていいますね、きっと

「もう、許してやれよ」

ダメです、少年に向かって天使はいいます「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」

「イイよ逃げて! エヴァじゃねえんだから!」

覚悟を決めて、そのまま一気に上に……せーの!

「イヤ嗚呼ああーーーー!!!!!」

……

……

「どうなった?」

どうもしません

「どうもしませんって、お前、どうもしないことないだろ」

ただ普通にファスナーが上がっただけです

「普通に?」

はい、何かを嚙んじゃったままファスナーが閉まってる事、よくあるでしょ? アレと一緒です

「ああ、アレね……って、イヤ嗚呼ああーーーー!!!!!、痛いぃぃぃーーー!!!!」

「ざ、残酷な……残酷な天使……」

そう、悪魔より、怒った天使の方が残酷なんです

……

わかったか? そこの少年たち! 立ちションは絶対ダメだからな!

「立ちションをする奴は、子供だろうと、ちっとも可愛くねえんだからな!」

……

そういえば、令和時代の小学生は立ちションなんかしてませんでしたよね?

「うん、一人もいなかったな」

それに比べて、お前らはまったく……

「でも、アタイラが子供の頃はもっと酷かったよな」

ですね、小学生男子は基本、立ちションがデフォルトでした

「女子が見ていようが関係なかったもんな」

アタイのクラスの男子なんか、道路をふさぐように7人くらいが横一線に並んじゃって

そんで、立ちションしながら、『Gメン'75』のテーマ曲を口ずさんで歩いちゃってました

「ゲッ! どうすんだよ!? 女子のお前は!?」

もちろん「ギャーッ!!!」って叫びながら逃げましたよ

「だよな、小便かけられたくないもんな」

すると、道路の反対側から隣の小学校の男子がやって来るんですよ

「昔は子供が多かったからな」

で、隣の男子も同じように横一線に並んで、『大江戸捜査網』のナレーションを叫びながら、立ちション歩きしてくるんですよ!

「なんだよ!? 立ちション歩きって!? 狂ってるな、昭和のガキは!」

〈ちいかわ〉に挟み撃ちにされた女子のアタイは、道路わきの空き地に逃げ込み、かたずをのみ込みながらその後の様子を見守りました

「おおー、『Gメン'75』VS『大江戸捜査網』じゃねーか!」

そして、二組は徐々に近づいて行って……

「うんうん、で、どうなった?」

あっ! ぶつかる! っと思った瞬間、鼓笛隊のパフォーマンスみたく、美しく交互にすれ違いました

「噓をつくんじゃねーよ! つーか、どんだけ長い時間、立ちションしてんだよ!」




しかし、小学生の男子って、何でウ○○は恥ずかしがるのに、チ○○は見られても恥ずかしくないんですかね?

「知らんわ、フロイトに訊けよ」

実はアタイ、フロイトはあんまり得意じゃないんですよね

「何で?」

アタイ、子供のころ貧乏だったから、古本は50円以下の文庫本しか買えなかったんですけど、フロイトってあんまり種類が無かったんですよ

マックス・ヴェーバーの『プロ倫』が50円で買えるのに、何で大メジャーのフロイトが2、3種類しか無いんすか!?

「ていうか、小学生が『プロ倫』なんか読むんじゃねーよ!」

だって、安かったから……

「子供なんだから、値段じゃなくて内容で選べよ」

もったいないじゃないですか、せっかく買ったのに元が取れないんじゃあ

「貧乏人は50円でも元が取れないと死ぬと思ってるからな」

あと、もう一つ理由があって……当時、フランスではまだ『プロ倫』が翻訳されていないという噂を聞いたもんで……

「かんけーねーだろ、お前には」

いや、フランスで翻訳されていないなら、社会科学の分野だったらフランスの大学生を論破できるんじゃないかと思って……

「バカだな、本当のインテリってのは原書で読むもんなんだよ」

あそっか

「でも、小学生で『プロ倫』を読むなんて、たいしたもんだよ」

はい、正直辛かったんで『がきデカ』と交互に読んでました

「頭おかしくなんだろ、そんなことしたら」

それが結構いけるんすよ、おやつみたいな感じで

「おやつ?」

柿ピーみたいな、しょっぱいモノを食べてると、甘いチョコなんかが食べたくなるじゃないですか~、そんで、甘いモノ食べたら、また、柿ピーが食べたくなるじゃないですか~、そんで、それを繰り返すじゃないですか~、そうすると永遠におやつが食べられるじゃないですか~

「どっちが柿ピーで、どっちがチョコかは、あえて訊かねえけどよ、お前、やっぱり頭がおかしくなっとるわ」

……

ところで『プロ倫』って、こまわり君が歌いそうなタイトルですよね

「そうか?」

♪ プロテスタンティズムのぉおおおお~ 倫理とぉおおおお~ ♪

「あっ! 見えてきた! こまわり君が歌ってる!」

♪ 資本主義のぉおおおお~ 精神んんんんん~ ♪

「見えるぞ! 見えるぞ! サングラスをかけて下半身裸のこまわり君が見える!」

♪ んんんんん~ ♪

んん……

ん……

……

「あ、終わった……」

……

あの頃のギャグ漫画って凄かったっすよね

「意味がわからなければわからないほど笑えたもんな」

アタイの近所の古本屋なんて、『プロ倫』の向かい側の棚に『がきデカ』や『マカロニほうれん荘』がありましたからね

「ある意味、狂気の英才教育だよな」

おかげで、こんな風に仕上がっちゃいましたけどね

「うん、嬉しいんだか悲しいんだか……」




しかし、なんでフロイトの翻訳って、文庫本で少なかったんすかね?

「そりゃあ、お前、下ネタが多いからだろ」

やっぱ、そうか、日本の悪しき教養主義のせいですかね?

「教養主義の翻訳者は下ネタを嫌うからな」

辞書でヤラシイ言葉を調べてるとこなんか、見られたくないんでしょうね

「辞書なんて、ヤラシイ言葉を調べるためにあるのにな」

自宅で翻訳なんてしてたら、子供にも見られちゃいますよ、きっと

「そんなことになったら、教養主義者の面目丸つぶれだよな」

ねえねえ、おかあたん、おかあたん、インケイってなぁ~に?

「なんで小松政夫風なんだよ!」

えっ! あなた、ど、どこでそんな言葉覚えて来たの!?

お仕事の部屋でおとうたんがいってた、インケイ、インケイっていいながら辞書開いてた

「ああ、見られちゃったんだな、子供に」

ねえねえ、な~に? インケイってな~に?

う~ん、イ、インケイというのはね、え、え~と、仁王像なんかを作った昔の偉い人よ、仏師よ、そう仏師!

ふ~ん、そうなんだ~

「なんとか切り抜けたな」

でも、こんなことが度重なると、温厚な奥様もとうとう爆発してしまいます

アナタ! ワタクシ、もう我慢の限界ですわ!

「おっ、面白くなってきたぞ」

そんなこといったってキミ、仕事なんだからしょうがないだろ~

アナタはご存じないかも知れませんけどね、あの子ったら、学校の作文で尊敬する人〈インケイ〉、将来の夢〈インケイ〉って書いちゃったんですのよ、ワタクシもう、恥ずかしくって恥ずかしくって

それはキミが、運慶でごまかしたからじゃないのかい?

あら、ワタクシが悪いっておっしゃりたいんですの? しょうがないじゃありませんか、とっさにそれしか思い浮かばなかったんですから

ボクだって好きでインケイ、インケイとつぶやいているわけじゃないんだよ、フロイトにはインケイを持った蜘蛛がしょっちゅう出てくるんだから、しょうがないんだよ

いいえ、今回ばっかりは、フロイトの翻訳をやめてもらわなければ困ります!

ワタクシ、PTAの会長をしてますから、学校行事でご挨拶をさせて頂く機会が多いんですけど、この前なんかマイクの前に立ったと途端、子供たちから「インケイ! インケイ!」ってヤジが飛んで……ワタクシ泣きながら壇を降りましたのよ……ウウゥ

キミ、泣くことはないじゃないか……

そして、教養主義の翻訳者は一人書斎で考え込みます

翻訳すべき書物は他にもたくさんあるけれど、自分の大切な家族は一つだけだ……

そして、とうとう教養主義者はフロイトの翻訳をあきらめてしまうのです

「へえ~、そういうことだったのか~」

ラストシーンでは、誰もいない書斎が映し出され、茶の間で笑い合う家族の声がかすかに聞こえてくるのでした……

「小津映画かよ!」

……

今回のケースはまだイイ方なんです

「一応、戦ってるいからな」

はい、問題なのは、戦うことなく、保身のために最初から逃げてしまう教養主義者なんです

「大人の事情ってやつな」

そんないい方やめてください! 卑怯者の事情っていってください!

「怒ってんな~」

子供たちよ! 大人たちから買い与えられた書物を捨てよ! そして、自分が読みたい本を読みまくれ! 親に隠れて読んで読んで読みまくれ! 教養主義と戦うためには教養が必要なのだ!

「〈ちいかわ挟め〉とか歌ってる奴がいっても説得力無いわ!」




モナドンが提供してくれたK君の素行に関する情報は、驚くべきものでした

その内容があまりにもあんまりだったので、果たしてこれを先輩に教えて良いモノなのかどうか……

でも、女が秘密を黙っていられるのは47時間15分が限界だという調査結果があるそうなので、アタイはとっとと話すことにしたのです

……

先輩、Kポタに興味有ります?

「無いな」

いや、アタイも基本的には興味無いですけど、それだと話が進まないので、嘘でもイイから少しは興味持ってくださいよ

「ああ、じゃあ、無しよりの有りということで」

……

Kポタの奴、実はとんでもない男だったんです!

「どんな風に?」

警察のご厄介になるくらい

「マジか!?」

しかも、一度や二度じゃないんですよ!

「なんだよ、アタイラよりひでぇじゃねーか!」

「で、なにをしちまったんだ?」

先輩、驚かないでくださいよ

「イイから、早く教えろよ」

Kポタは……

「う、うん」

……

立ちションの常習犯だったんです!

……

……

「ちっ、興奮して損したわ、立ちションなんてポリ公に注意されて終わりだろうが」

それが違うんです、問題は立ちションをする場所なんですよ

「どこだよ」

……交番です

「え? 交番って、ポリ公のいる?」

はい、交番の入り口に立って、中に向けてジョボジョボジョボって……

「な、なんでだよ!」

酔っぱらっているんで

「いや、いくら酒を飲んでるからって……」

信じられないくらい酒癖が悪いそうです

「うわあ~、そういう事かぁ~」

そんで、警察官に取り押さえられそうになると、めっちゃ抵抗して

「うん」

その勢いで警察官の拳銃を奪っちゃって

「やめろよ! やめろよ!」

その奪った拳銃を!

「うわあ~!」

床に落とすと、それをめがけて立ちションをするんだそうです!

「ゲッ! 思ってたのと違うけど、ゲッ!」

思ってたのより平和的ですよね、〈尿は銃よりも強し〉ですかね

「ドンパチするよりはイイけど……なんかヤダな」

はい、確かにドンパチすればスッキリするかもしれませんけど、平和とはこういうイヤ~な感じを我慢し続けることですからね

「うん、そんな拳銃、誰も触りたくねえもんな」

「そんで、Kポタはどうなったんだよ?」

もちろんトラ箱行きですよ

「当然だな」

でも、本人は全く覚えていないんです

「たち悪いな」

だいたい、〈K〉って名前の奴って、そういうタイプが多いんすよ

自分がなんで捕まったのかサッパリわかりましぇ~んとか、頑張ってるつもりなのに全然城に到着しましぇ~んとか、わざとらしいんですよ、本当はわかってるくせに

「人ってのは、見かけによらないもんなんだなぁ~」

要するに、酒を飲むと異常に気が大きくなるってことなんですよ、Kポタは

「ふ~ん」

先輩、「ふ~ん」じゃないんですよ!

「何が?」

わかんない人だな、これはアタイラにとって絶好のチャンスなんです!

「立ちションが?」

違います! Kポタを酔わせれば、秘密をペラペラと話しちゃう可能性が大いにあるってことなんです!

「あっ、そういうことか!」

「でも、小便かけられるんだろ? 嫌だよ!」

そ、そんなもん色々考えて対策を講じれば何とかなりますって!

……

そしてアタイラは、足りない頭でもって、K君をおとしいれる作戦を一生懸命考えたのでした

……

……

アタイは、K君に電話をかけました

「あっ、お疲れ様で~す」

Kポタか?

「はい、そうですけど」

……

「え?」

ぬ、ぬ、ぬははははっはー!!!

「な、何ですか!? 気持ち悪い」

「おい、ちょっと電話かわれ!」

「Kポタ、元気か?」

「あっ、はい、元気ですけど……」

「ぬ、ぬ、ぬははははっはー!!!」

……

……

「え? な、何ですか? これ?」

……

……

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