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『大事なものは』2000字 小説
じっとりと生ぬるい風がおでこと前髪の隙間を抜ける。秋なのに蒸し暑い。そんな曇り空の下、私は婚約者、陸のマンションの前にいる。合鍵を握ったまま、今にも降り出しそうな湿った空気の中で立っていた。
遠距離恋愛になって三年。陸は今ごろ何も知らず、職場で働いているはずだ。何事もなく今夜も21時を過ぎたころ、私に電話をくれるだろう。昨日は電話できずごめんと謝り、いつものように毒にも薬にもならないような話をす
じっとりと生ぬるい風がおでこと前髪の隙間を抜ける。秋なのに蒸し暑い。そんな曇り空の下、私は婚約者、陸のマンションの前にいる。合鍵を握ったまま、今にも降り出しそうな湿った空気の中で立っていた。
遠距離恋愛になって三年。陸は今ごろ何も知らず、職場で働いているはずだ。何事もなく今夜も21時を過ぎたころ、私に電話をくれるだろう。昨日は電話できずごめんと謝り、いつものように毒にも薬にもならないような話をす