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Essay

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日常の一コマを切り取っています🐈
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#エッセイ

その記憶は寒くて、甘く、そしてあたたかく

その記憶は寒くて、甘く、そしてあたたかく

この前の土日は、朝、目を覚ましただけで、
空気の色が白くなったのがわかるような、
そんな曇り模様でした。
色が褪せ始める草木もあれば、
嬉々として衣を赤や黄、橙に変化させる葉もあります。

窓の外を眺めると、
鼠色の雲が垂れこめていました。
"独り" という言葉も浮かびそうな
しんとした寒さが、窓越しで感じられます。

でもわたしは、薄れない、わたしの中での大事な記憶を
思い出し、冷えている指先

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空が広くて、海はそこにあり

空が広くて、海はそこにあり

海がちかい街に引っ越して、四か月。
自宅から自転車で二十分の距離に海があるので、人によっては「近い」というより「行ける」距離かもしれません。
でも、圧倒的に前住んでいた処よりかは
海に顔を出すことが多くなりました。

彼とパンを浜辺で食べたり、
ひとりで夕方、海を見に行ったり。
この街はわたしたち人が「いる」という事実よりも、
空、雲、風、海が目前に「ある」という事実のほうが尊重されているように思

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いくつもの可能性があるなかで

いくつもの可能性があるなかで

この前、彼と付き合って3年の記念日を迎えました。
今年の4月にはあと半年で3年なのかと思っていて、でも時間は風みたいに過ぎ去り、気付けば秋が傍にいて。

記念日当日には、毎年恒例の薔薇の花束を彼からいただきました。
薔薇の数は「4年目もよろしくね」という意味も込めて、40本。
わたしはそのときジャージ姿で書き物をしていて、
宅配に出た彼が戻ってきた足音に振り返ると
赤い薔薇、薔薇、薔薇!

写真を

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光が開いて、散って、また開く

光が開いて、散って、また開く

昨日、彼と花火大会に行きました。
今年、花火大会に行くのは初。
肌に染み込もうとしてくる暑さは和らがなくとも、
もう夏が終わってしまう時期に入りました。

この時期の夕方の空を見ていると
自分は去年となにか、変わっただろうか、変わってるといいなと、
不安と期待がかき混ぜられた、どちらかといえば焦りの気持ちが強くなります。

他の季節よりも水分が多く、
はっきりとはしない空が、寝ぼけたような水色や赤

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友達

友達

先週、駅から会社までの道中、おしろい花を見つけました。
それを見ていると、懐かしい気持ちになります。
小学生の頃、友達と学校の帰り道や、習い事の帰り道に
おしろい花の種を潰して、ごくわずかなおしろいを、
頬っぺたや、おでこにつけて、笑った思い出があります。

そのうちの何人かとは、タイムカプセルも埋めました。
二十歳になったら一緒に開けようと言って、
公園やら、家の裏やらに、缶を埋めて。その中に手

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百日紅について

百日紅について

子どもの頃、夏になれば校庭の花壇に咲く向日葵が好きでした。
日に向かって、素直に花を開かせる可愛い向日葵。
今も、もちろん目にすると、気持ちが明るくなります。

大人になって、少しずつ、花の名前に詳しくなって、
向日葵と同じように、
この花もいいなと、思うことが増えました。
特に、生活の中で見つける植物の中で。

その中で、毎年の夏、つい見入ってしまう花があります。
それはサルスベリ。
漢字で書け

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ディテール

ディテール

ふたりで暮らし始めて、2週間。
この前、ふと一緒に暮らすことのディテールを見つけました。

ディテール。
小説をよく読む私は、ディテールがきちんとある小説によく、惹かれます。
日常の中で、何を食べて、何を見て、どんな匂いを嗅いだのか、どんな音を聞いたのか、肌触り、云々。

だから私自身も、日々の中で、
音とか匂いとか、色とか、時として特定の物に敏感です。

この前の休日に彼がホットケーキを焼いてく

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引っ越し準備

引っ越し準備

来週から、彼と同棲が始まります。
だから昨日、今日と、段ボールの中に梱包できるものは、どんどん入れて、あっという間に、八個の段ボールが出来上がりました。

クローゼットの中を開けると特に、なのですが、
「あ、こんなところに、こんなものが!」
とか、
「この部品はどこの部品なのだろう、、」
と、発見することが多いです。

お気に入りのお皿をクレープ紙で包んでいくのが
私の中では楽しく、
このお皿は彼

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ラムネの季節

ラムネの季節

私はラムネというものがとても好きです。
あの瓶の、中にガラス玉が入ったラムネ。
持った時の、瓶の形のでこぼこの感触、
栓を開けたときに「おっとっと」という感じで、溢れてくる中身を急いで口に運ばないといけない感じ、
中のビー玉に付く、小粒の泡たち、
空になったときのガラス玉が瓶の中で鳴らす涼しいあの音も
どれもが「夏っぽい!」と思わせます。

小さい頃は夏の夜、お風呂上りに飲んでいました。
それがこ

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変わるものと、変わらないものと

変わるものと、変わらないものと

昨日、池袋に行きました。
というのも、妹の誕生日プレゼントである白いブラウスを見つけるためにです。昨日、実家で妹の誕生日祝いをするために帰っていた、その道中で池袋に。
池袋で買い物をするのはとても久しぶり。

人が横に、縦に、斜めにすれ違うあの人混みの多さ、よく行ったルミネ、TOBU。
それは特に何も変わっていません。
大学時代によく通った駅がそのまま、ありました。
アルバイト先も池袋でしたし、キ

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母の日に帰ったら

母の日に帰ったら

この前、母の日の前日に帰省しました。
母と妹が、祖父母の家に引っ越してから、帰るのは初めて。
その帰った日というのは、付き合っている彼のご両親に、同棲のためのご挨拶をした日でした。

扉を開けて「ただいま~」と入ると、
「おかえり~挨拶どうだったー?」と二階にいた母が降りてきました。
彼のご両親が明るい方だったとか、手巻き寿司をご馳走になったという話をしていると、寝室にいた祖父やお風呂に入っていた

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旅先でのカフェと、本と。

旅先でのカフェと、本と。

このゴールデンウイーク中に、彼と那須塩原へ旅行に行きました。
宿の温泉にゆっくりと浸かって、
いくつか観光する、のんびりとした旅。

乙女の滝、那須フラワーワールド、ステンドグラス美術館…。
旅行中に寄った、どの観光地もよかったのですが、
今回の旅でわたしの中で印象に残っているのは、
乙女の滝の休憩所にあるカフェ。

宿から車を走らせ、若い葉と葉の間からチラチラ見える木漏れ日や、
木々の間を通り抜

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したいことで満たされる

したいことで満たされる

ゴールデンウイークに入り、昨日、今日と派遣先の会社はお休み。
有休自体がまだつかない私にとっては、
久しぶりに長い休みです。

作り置きは昨日のうちに済ませておいたので、今日は小説を書いているか、
翻訳の勉強をしているか、本を読んでいるかのいずれかでずっと過ごしていました。

最近また新しい小説を書き始めて、書いて、消して、また書いての繰り返しです。
書いてみると、デビューしている作家の方々のすご

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母と妹の、お引越し

母と妹の、お引越し

この間、産まれ育った実家へ帰りました。
馴染みのある駅前、商店街、家に着くまでに続く街路樹。
もう当分はこちらの実家には来ないのだろうと思うと、変な気分。
人とすれ違うたびに、どこか落ち着かないような、
なぜか私が緊張して、鼻からゆっくり息を吐いて家に向かいました。

家に着くと、もう母方の祖父母が着いていて、
玄関には溢れんばかりの、最初は車二台で運びきれるのか心配になったほどの荷物が置かれてい

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