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2.海外文学

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書評:ホール・ケイン『永遠の都』

書評:ホール・ケイン『永遠の都』

世界文学と呼ばれるべき大衆小説 〜ロマンス、人間共和の凱歌、誇りと恥辱、そして生命〜今回ご紹介するのは、イギリスの小説であるホール・ケイン『永遠の都』という作品だ。

この作品についてであるが、ネットで検索しても「ホール・ケイン」も「永遠の都」もWikipediaにすら出てこない。
本作は20世紀初頭のいわゆる大衆小説で、当時イギリスでは人気作だったのであるが、未だ世界文学の一角として認められるに

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書評:カフカ『変身』

書評:カフカ『変身』

奇妙な設定下で変わったのは「どちら」なのか?今回ご紹介するのは、ドイツ文学であるカフカ『変身』。

初読は18歳くらいだったが、25年振りくらいに再読した。

はじめに余談からとなるが、主人公グレーゴルが変身する「虫」を、初読の際に蜘蛛のような姿と想像したのだろうか、てっきり蜘蛛だと思い込んでいたのだが、記憶違いであった。
何とははっきりしない抽象性のある「虫」であった。

それはさておき。

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書評:カミュ『異邦人』

書評:カミュ『異邦人』

それは太陽がさせたことだよ今回ご紹介するのは、フランスのノーベル文学賞作家カミュの『異邦人』。

日頃よりインスタグラムで仲良くさせていただいている方とのある企画をきっかけに、今回再読した。

以前読んだのはおそらく25年くらい前、10代の頃だっただろうか。

主人公ムルソーが殺人を犯す物語なのだが、彼が裁判で殺害の動機を尋問された際に、「太陽のせいだ」と答えるシーンだけしか記憶に残っていなかった

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書評:コンスタン『アドルフ』

書評:コンスタン『アドルフ』

フランス政治思想家による唯一の小説今回ご紹介するのは、19世紀フランスで活躍した政治思想家バンジャマン・コンスタンによる唯一の小説、『アドルフ』という作品。

いきなり余談からとなるが、光文社古典新訳文庫は、海外古典文学の出版としては最後発の部類に位置していながら、王道作品を斬新な新訳で展開する主戦略と、これまでの翻訳界から見ると「かゆいところに手が届く!」と思わず膝を打ちたくなるような選書をする

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書評:ジョージ・オーウェル『動物農場』

書評:ジョージ・オーウェル『動物農場』

革命後の新体制とは誰の手にあるのか?今回ご紹介するのは、ジョージ・オーウェル『動物農場』。

オーウェルが描く、社会主義体制への痛烈な皮肉が込められた作品である。

当初人間によって支配されていた動物農園において、動物達の革命が行われる。
リーダーは最も頭が切れる豚であった。

革命は成功し、人間達を駆逐することに成功するが、以降そこに敷かれる新体制は、革命の首謀者であった豚の思うがままになってい

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書評:ジョージ・オーウェル『一九八四年』

書評:ジョージ・オーウェル『一九八四年』

オーウェルが描いたディストピア作品の金字塔今回ご紹介するのは、イギリス文学よりジョージ・オーウェル『一九八四年』。

イギリスの作家、ジョージ・オーウェルの代表作であり、ディストピア作品の金字塔と目される作品である。

世界が3つの超大国によって治められる架空の時代。その中の1つ、オセアニアにおける監視社会の実態と、その支配に疑問を持つ主人公の顛末を描いた作品である。

一挙手一投足が「テレスクリ

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書評:シラー『ヴァレンシュタイン』

書評:シラー『ヴァレンシュタイン』

ドイツ文学から東西の肯定観を考える今回ご紹介するのは、ドイツ文学よりシラー『ヴァレンシュタイン』。

ヴァレンシュタインは世界史の教科書にも出てくる実在の人物である。1618年〜1648年の三十年戦争の英雄として、「スウェーデン王グスタフ・アドルフと傭兵隊長ヴァレンシュタインの激烈な戦闘があった」というような形で紹介される。

余談だが、初めて知った時は「傭兵で名を残すってどんだけ〜」とIKKO先

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書評:シェイクスピア『ロミオとジュリエット』

書評:シェイクスピア『ロミオとジュリエット』

運命に抗うことができない2人の純愛悲劇今回ご紹介するのは、イギリス文学よりシェイクスピア『ロミオとジュリエット』。

シェイクスピアでおそらく最も有名な作品ではないだろうか。

憎しみ合う両家の男女が愛し合い、愛に生きようともがくが故に悲劇的な結末を迎えてしまう、恋愛悲劇である。

シェイクスピアの悲劇では通例、登場人物の性格面の特徴が悲劇につながっていくというプロットが一般であるが、この『ロミオ

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書評:ジェーン・オースティン『高慢と偏見』

書評:ジェーン・オースティン『高慢と偏見』

イギリス文学上の高慢な女性が携えた魅力とは?今回ご紹介するのは、イギリス文学よりジェーン・オースティン『高慢と偏見』。

イギリスの女流作家ジェーン・オースティンの代表作であり、5人姉妹を取り巻く愛憎劇をプロットとした、非常に読み応えのある作品だ。

実は大きな事件などはほとんど起こらないにも関わらず、心情の起伏と登場人物の相関関係と会話によってのみ、読者をぐいぐいとその世界に引き込んでいく、不思

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書評:トルストイ『復活』

書評:トルストイ『復活』

ロシアの大文豪トルストイが見た人類史的アポリアと、そこに挑むための要件とは?今回ご紹介するのは、ロシア文学よりトルストイ『復活』。

私はロシア文学好きを自認しているが、トルストイ派かドストエフスキー派と問われたら断然後者であり、正直トルストイはあまり好まないといっても過言ではない。

しかし、今回取り上げる『復活』だけは別で、非常に感銘を受けた忘れ難き作品である。

まずはあらすじから。

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書評:マルセル・プルースト『失われた時を求めて』

書評:マルセル・プルースト『失われた時を求めて』

文字通り「自分自身」の内なる宇宙を旅する体験となる、プルースト文学の耽読今回ご紹介するのは、フランス文学よりマルセル・プルースト『失われた時を求めて』。

本作は長編かつ難解で、読みづらいことこの上なく、名実ともに世界文学の中でもラスボス感の漂う作品と言っていいだろう。

この作品は私の読書人生においても長らく鬼門であった。20代の最終盤に一大決心をし読み進めた。半年間、ほぼ全ての土日を費やし、そ

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書評:サルトル『嘔吐』

書評:サルトル『嘔吐』

概念から常に余剰し続ける実存がもたらす根本気分とは?今回ご紹介するのは、フランス文学よりサルトル『嘔吐』。

本作はフランスの実存主義者サルトルによる初期の小説作品である。

主人公ロカンタンの日記という形で構成され、ロカンタンの抱く「吐き気」の正体を突き止めようという筋書きになっている。

存在とは何か。

一見概念へと収斂されそうな、言葉の定義によってその中に丸く収まりそうな、そんな存在の背後

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書評:アレクサンドル・デュマ『三銃士』

書評:アレクサンドル・デュマ『三銃士』

『三銃士』に見られる史実に基づくリシュリューの政治手腕今回ご紹介するのは、フランス文学よりアレクサンドル・デュマ『三銃士』。

アレクサンドル・デュマ(通称大デュマ)の代表作と言えば、『モンテ・クリスト伯』か『ダルタニャン物語』だろうか。

後者については、日本ではその全編よりも一部である『三銃士』が良く読まれているのかもしれない。

かく言う私もその1人である。

『三銃士』は大デュマの大作『ダ

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書評:マシャード・デ・アシス『ドン・カズムーロ』

書評:マシャード・デ・アシス『ドン・カズムーロ』

「猜疑」のみを起因に転落していく人生の恐ろしさ今回ご紹介するのは、ブラジル文学よりマシャード・デ・アシス『ドン・カズムーロ』という作品。

日本では、「ブラジルの漱石」とまで言われるほど、実はその技量に対する評価が高いそうである。

本作は、主人公サンチアーゴと幼馴染で恋仲であるカピトゥーとの顛末を描いた作品である。物語の後半近くまであまり大きな展開もないのだが、最後に大きな「謎」が待っている。

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