柴田彼女

小説を書いています。 全て有料記事(110円)に設定していますが、一つ残らず全文無料で…

柴田彼女

小説を書いています。 全て有料記事(110円)に設定していますが、一つ残らず全文無料で読めます。 課金していただけた場合、そのお金で作者が本を買えるようになったりします。 https://www.handshakee.com/shibatakanojo

マガジン

  • それもあなただ(小説まとめ)

    自作の小説をまとめたマガジンです。

  • 命、在るものになりたくて(連載小説)

    小説「命、在るものになりたくて」(全22話)をまとめたマガジンです。

  • それをあなたへ(過去の短編小説)

    別名義で書いていた掌編・短編小説をまとめたマガジン。全26作、長くても6000文字足らず、10分程度で読める作品ばかりです。

  • レーズンとオウムとミイラのワルツ(連載小説)

    小説「レーズンとオウムとミイラのワルツ」(全9話)をまとめたマガジンです。

記事一覧

なんか生きてたってみんな言うんです(小説)

 その夜は妙に客入りが悪かった。  隣町で祭りがあるからそれなりの売り上げを見込んでわざわざいつものルートを逸らしてまで幹線道路まで出てきたというのに、回れども…

110
柴田彼女
12日前
2

おいしい隣人(小説)

 その、本当に言い出しにくいんだけどさ、最近極端に痩せてきている気がするんだけど……だいじょうぶ?  恐る恐る僕がそう伝えると、彼女は、あーバレたかー、と軽やか…

110
柴田彼女
2週間前
4

完璧な恋人(小説)

小説  マッチングアプリで知り合った、と他人に告げることに、なんとなく抵抗があるのは私が臆病者だからだろうか。友達には仕事の関係で交流を持ち始めたと嘘を吐いてい…

110
柴田彼女
1か月前
5

みんな私の邪魔をしている(小説)

 周りの人たちは因習だとか時代遅れだとか犯罪だとかいろいろ言っていたけれど、私は別にそれでよかった。おばあちゃんの言うとおりにすれば村のみんなはしらひび様の祟り…

110
柴田彼女
1か月前
3

そしてまた一年後(小説)

 暗闇の中もがいている。  頭の先を引っ張られるような、掴まれるような感覚があって、次の瞬間、僕は光の中に突き落とされた。 「おめでとうございます! 元気な男の子…

110
柴田彼女
1か月前
1

魔法少女は卒業できない(小説)

 チッチは、 「ああ、君こそ魔法少女に相応しい。その秘められた力で、世界を救うんだ」  私の部屋の窓際、ゆらゆらと蜃気楼のように揺れるカーテンに見え隠れしながら、…

110
柴田彼女
2か月前
4

(22)そこにはいない

 私は、教師だった。  生徒に物を言い、導き、教える立場だった。  今とは違う生きかたをしていた。嘘じゃない。嘘じゃない私は、また何者かにならなければならない。 …

110
柴田彼女
2か月前

(21)ゆるされたい

 私の診察が始まる。案の定話の切り出しは医師からで、 「他の患者さんとちょっと仲よくしすぎかなと、看護師から話を受けていますが、いかがですか? 大丈夫ですか?」 …

110
柴田彼女
2か月前
2

(20)嘘について

 中に入ると、看護師がいつかのように私を廊下の隅に追いやる。 「前も言ったけど、他の患者さんと深く関わらないようにね」  はい、と返す。深く関わっているつもりがな…

110
柴田彼女
2か月前
2

(19)あの頃わたしは確かにそこにいた

 犬塚さんとまた会ったのは、秋になってすぐだった。診察時間を昼手前に戻し、案の定何時間も待たされ、外のベンチで昼食を摂っていると彼女は現れた。 「あ、あの時の人…

110
柴田彼女
2か月前

(18)惰性

 日々は続く。二週間に一度の診察は繰り返され、本格的な夏がくる。私は予約時間を夕方にずらしてもらって、数時間の待ち時間は待合室で本を読み、スマートフォンを触り、…

110
柴田彼女
2か月前

(17)スイートスポット

 スーパーマーケットの、値下げコーナーでスイートスポットまみれのバナナを買った。ほとんど真っ黒で、よく売るなあ、といっそ感心する。それと同時、捨てられる寸前で、…

110
柴田彼女
2か月前
1

(16)何者

 そこから更に一時間半、やっと自分の番がやってきた。担当医は四十代ほどの男で、患者の話を長く聞いてくれる。それがこの混雑に繋がっているのだけれど、こういうジャン…

110
柴田彼女
2か月前

(15)枠の中だけ

 再び涼やかなクリニック内に戻る。順番はまだまだ先だ。鞄から本を取り出して読もうとして、そこで一人の看護師が近づいてくる。 「名城さん。ちょっといいですか?」 「…

110
柴田彼女
2か月前

(14)おいしそうだね

 十二時になっても当たり前のように自分の番はこなかった。私は受付の女性に一言断って、病院の外にあるベンチに向かう。いつも私はここで一人、弁当を食べる。ベンチは三…

110
柴田彼女
2か月前

(13)すなおメンタルクリニック

 朝、着替え、カーテンを開け、顔を洗い、朝食を摂り、化粧をし、髪を整え、それから弁当を作る。  きょうはメンタルクリニックへ行く日だ。メンタルクリニックは街中に…

110
柴田彼女
2か月前
3
なんか生きてたってみんな言うんです(小説)

なんか生きてたってみんな言うんです(小説)

 その夜は妙に客入りが悪かった。
 隣町で祭りがあるからそれなりの売り上げを見込んでわざわざいつものルートを逸らしてまで幹線道路まで出てきたというのに、回れども回れども道路脇で片手を上げてタクシーを待っている人間はいなかった。
 個人タクシーだからこそ、一日一日の売り上げがリアルに生活に反映する。
 いっそいつも通りのルートに戻ろうか、そう思いウインカーを左に切り、住宅街へ続く細道の門で、ようやく

もっとみる
おいしい隣人(小説)

おいしい隣人(小説)

 その、本当に言い出しにくいんだけどさ、最近極端に痩せてきている気がするんだけど……だいじょうぶ?
 恐る恐る僕がそう伝えると、彼女は、あーバレたかー、と軽やかに笑って、
「ああ……あのね、食べるの、やめてみたんだ。“ナシ”のこと」
「え」
「今はこっそりインターネットで代替の植物由来の偽肉を輸入していて、それに切り替えているんだけど、やっぱり、代替品は代替品でしかないよね。そもそもネットで手に入

もっとみる
完璧な恋人(小説)

完璧な恋人(小説)

小説
 マッチングアプリで知り合った、と他人に告げることに、なんとなく抵抗があるのは私が臆病者だからだろうか。友達には仕事の関係で交流を持ち始めたと嘘を吐いている。
 彼はときどき目にするビートルズの写真みたいなマッシュボブの似合う、少し幼い顔立ちの男性で、流行りを取り入れながらシンプルに服を着こなす。収入は同年代の平均より四割ほど多く、女性と付き合った回数は私を含めて三人目だと言っていたが、年齢

もっとみる
みんな私の邪魔をしている(小説)

みんな私の邪魔をしている(小説)

 周りの人たちは因習だとか時代遅れだとか犯罪だとかいろいろ言っていたけれど、私は別にそれでよかった。おばあちゃんの言うとおりにすれば村のみんなはしらひび様の祟りから逃れられるし、それによってあと五十年はこの村は恵まれた土地として痩せることもなくみんな充分満足に食べていけるらしいし、何より私は十五歳より先のことを一切考えずに生きることができたから。
 行きたいときに山を下りて小学校に行って、そうじゃ

もっとみる
そしてまた一年後(小説)

そしてまた一年後(小説)

 暗闇の中もがいている。
 頭の先を引っ張られるような、掴まれるような感覚があって、次の瞬間、僕は光の中に突き落とされた。
「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」
 水色の服を着た女が言い、僕がいま通ってきた道が一人の女の体内だったことが判明する。
 僕は産まれた。産んだ女の胸に抱かれる。温かい。
 ああ、そうか。あと、二十一年か。
 ただそう思う。

 *

 思い出は常に重なる。どれ

もっとみる
魔法少女は卒業できない(小説)

魔法少女は卒業できない(小説)

 チッチは、
「ああ、君こそ魔法少女に相応しい。その秘められた力で、世界を救うんだ」
 私の部屋の窓際、ゆらゆらと蜃気楼のように揺れるカーテンに見え隠れしながら、そう言って、ひょい、と私の肩に乗ってきた。二つに割れた尻尾の片方で私の頬を撫で、
「君は、きょうから魔法少女になるんだよ」
 尻尾の先をマッチ棒のように光らせると、一つの指輪を私の前に出現させてみた。ぽう、と淡い紫の光と共に私の掌の中に指

もっとみる
(22)そこにはいない

(22)そこにはいない

 私は、教師だった。
 生徒に物を言い、導き、教える立場だった。
 今とは違う生きかたをしていた。嘘じゃない。嘘じゃない私は、また何者かにならなければならない。
 丁寧な暮らしを続けて、その先に何があるだろう。心の安寧を手に入れて、いびつなまま心がくっついて、もうクリニックにも通わなくていいですよと担当医に言われて、そのころ私は何をしているのだろう。また教師に戻っているのだろうか。それとも別の何か

もっとみる
(21)ゆるされたい

(21)ゆるされたい

 私の診察が始まる。案の定話の切り出しは医師からで、
「他の患者さんとちょっと仲よくしすぎかなと、看護師から話を受けていますが、いかがですか? 大丈夫ですか?」
 とのことだった。
「外のベンチでお弁当を食べている時に、一方的に話しかけられているだけです。返事もそれほどしませんし、連絡先なども交換する気はありません。基本的にずっと無視しています」
 端的に事実だけを述べる。医師は理想通りの回答に満

もっとみる
(20)嘘について

(20)嘘について

 中に入ると、看護師がいつかのように私を廊下の隅に追いやる。
「前も言ったけど、他の患者さんと深く関わらないようにね」
 はい、と返す。深く関わっているつもりがないので、それ以外の返事ができない。看護師は続ける。
「どうせまた、女優だったころは、とか、ストーカーが、とか言っていたんだろうけど、犬塚さん、ここが地元で、一度も他の土地に出たことなんてないのよ。ずっと引きこもって、趣味が舞台鑑賞だから、

もっとみる
(19)あの頃わたしは確かにそこにいた

(19)あの頃わたしは確かにそこにいた

 犬塚さんとまた会ったのは、秋になってすぐだった。診察時間を昼手前に戻し、案の定何時間も待たされ、外のベンチで昼食を摂っていると彼女は現れた。
「あ、あの時の人だ?」
 私は、お久しぶりです、と、覚えています、の二つの意味を込めて小さく頭を下げる。
「あれ以来見かけないから、転院したのかと思ってた。また会えてわたしは嬉しいよ」
 犬塚さんはベンチに座り、やはりこちらを見ずにそう言った。
「今年の夏

もっとみる
(18)惰性

(18)惰性

 日々は続く。二週間に一度の診察は繰り返され、本格的な夏がくる。私は予約時間を夕方にずらしてもらって、数時間の待ち時間は待合室で本を読み、スマートフォンを触り、また本を読み過ごした。薬は一度ほんの少し減り、けれどそのまま停滞したままだ。
 未だスーパーマーケットとドラッグストア程度しか行けず、それも非常に疲れを伴う行為であることに変わりはない。去年も着ていた服を今年も着ている。化粧品はインターネッ

もっとみる
(17)スイートスポット

(17)スイートスポット

 スーパーマーケットの、値下げコーナーでスイートスポットまみれのバナナを買った。ほとんど真っ黒で、よく売るなあ、といっそ感心する。それと同時、捨てられる寸前で、灯の消えそうなそれを見ているとなんだか今の自分の姿と重なってきてしまう。
 親の仕送りで生きている自分。丁寧な暮らし、なんて言いながら、日々無駄に時間をかけて怠惰に生きているだけの、偽物の『丁寧』を続ける自分。いけない、フラッシュバックして

もっとみる
(16)何者

(16)何者

 そこから更に一時間半、やっと自分の番がやってきた。担当医は四十代ほどの男で、患者の話を長く聞いてくれる。それがこの混雑に繋がっているのだけれど、こういうジャンルの患者として思えば話を聞いてもらえる機会は非常に貴重で、だからこそ何時間でも待てる。需要と供給が合っているのだ。時間が無限だったら、この医者は何時間でも話を聞いてくれるだろう。そんな安心感がある。

 私は医者に今の生活を話す。できるだけ

もっとみる
(15)枠の中だけ

(15)枠の中だけ

 再び涼やかなクリニック内に戻る。順番はまだまだ先だ。鞄から本を取り出して読もうとして、そこで一人の看護師が近づいてくる。
「名城さん。ちょっといいですか?」
「はい」
 看護師に誘導され、薄暗い通路の端に立たされる。
「さっき、外でお弁当召し上がってたわよね?」
「はい。駄目でしたか?」
「ううん。お弁当はいいよ。むしろお弁当食べなきゃならないくらい待たせて申し訳ないね。悪いんだけど、どうしても

もっとみる
(14)おいしそうだね

(14)おいしそうだね

 十二時になっても当たり前のように自分の番はこなかった。私は受付の女性に一言断って、病院の外にあるベンチに向かう。いつも私はここで一人、弁当を食べる。ベンチは三つあるが、なぜか誰も使っているところを見たことがない。そもそもなぜベンチがあるのかもわからない。それでもこれがあるから私は病院のたびに外食をしなければならない羽目に陥ることを避けられているので、私にとっては感謝すべき存在だった。
 ベンチに

もっとみる
(13)すなおメンタルクリニック

(13)すなおメンタルクリニック

 朝、着替え、カーテンを開け、顔を洗い、朝食を摂り、化粧をし、髪を整え、それから弁当を作る。
 きょうはメンタルクリニックへ行く日だ。メンタルクリニックは街中にあって、いつも混雑しているから平気で予約時間を何時間も過ぎる。受付に言えば外出もできるけれど、外食するほどの気力があれば何時間も待たされるメンタルクリニックになんて通うわけがない。
 きょうは、昨日焼いた食パンをサンドイッチにする。バターを

もっとみる