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#女の子

玻奈子のメンヘラ:ショートショート

玻奈子のメンヘラ:ショートショート

スマホの電池が切れそうだ。まだ30%残っているけど、なんだかもう、セカイが終わってしまいそうな気分だ。画面がぱたりと真っ暗になると同時に、セカイの電源もぱたっと切れてしまえばいい。

電車の窓はすべて開け放され、地下鉄を走る列車の轟音が鼓膜を激しく掻き回す。荒っぽい手つきでデリケートなところをなぶられているよう。

ついさっきまでの楽しかった一時も、それが今後も約束されているはずなのに、玻奈子の心

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由香の藁人形:ショートショート(ホラー注意)

由香の藁人形:ショートショート(ホラー注意)

 6年3組の担任萩山は、クラス一の美少女、七菜香の肩をすこぶる持っていた。萩山がそんなつもりでないことは言うまでもない。彼はいたって公平に接している気でいたし、それどころか、誰よりも事情を知り、一切の偏見から免れ、視野広く全体を俯瞰する、自分だけが真実を見ている唯一無二の人格者だと信じている。

 「どうしてクラスの友達にそんなことするんだ?」

由香、翔子、未希の三人は、ぶすっとした顔をして黙り

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菜々美の慈しみ:ショートショート

菜々美の慈しみ:ショートショート

 女性が性的対象の菜々美には、2歳になる娘がいた。夫、令治との結婚生活と同い年だった。好きでもない男と結婚したのではなく、性的対象ではないが、好きな男と結婚したのだった。どの点が好きかと言えば、あまり大きな声では言えないが、不倫をしても傷つかないところだった。もちろん、たとえば人として尊敬できるというのもあるけど、あくまでそれは必要条件であって、それだけでは十分でなかった。

 バイセクシャルの彼

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春子の挑戦:ショートショート

春子の挑戦:ショートショート

 大学に通いつつ、雑誌の専属モデルを務める社長令嬢の春子は今朝、配車したタクシーに乗って白金台の自宅を出た。向かった先は六本木ヒルズの森タワー、52階にあるカフェだった。
 何か重大な商談か、あるいは友人との会食という訳ではなく、トースターで食パンを1枚焼く程度の感覚で彼女はここへやってきたのだ。

 そうして朝食をとったあと、今日は午後の撮影まで時間があったから、暇つぶしに銀座SIXでちょっとし

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明日香のポテサラ:ショートショート

明日香のポテサラ:ショートショート

 おだやかな風に揺られて、風鈴の音色が優しく明日香を甘やかす。
『もっと寝ていいんだ・・・』

 と、うたた寝の心地にひたされた彼女は、うつ伏せになって半開きの目をしばたいており、いまにも今朝二度目の眠りに誘われようとしている。

 すると、スヌーズの効いているスマホがアラームを喧しく鳴らしかかってきて、クレーンゲームのように彼女を引き上げる。
 そして硬い床の取り出し口へぼとりと落として、その痛

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由香里の旅立ち:ショートショート

由香里の旅立ち:ショートショート

 女手一つで育ててもらった恩を、由香里は立派に返したつもりだった。いい大学を卒業して、大手の商社に迎え入れられたのだから。
 そんな一人娘を、母は親戚にも近所の人にも自慢してまわった。母の苦労を知る人たちは、我がことのように喜んで祝福した。

 しかし海外赴任も決まって、出国まであと一月というところで、由香里は赴任のことを母に知らせたことを後悔した。もし知らせていなければ、もう少し道は開けていたは

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梨英子の祈り:ショートショート

梨英子の祈り:ショートショート

 有名私大のミスコンファイナリスト、梨英子の彼氏は、同じくミスターコンファイナリストの佑二だった。
 しかし彼のどこかに惚れたというわけではなかった。まず、そもそも梨英子はイケメンになびかないタイプの女だった。次に、佑二は顔がいいだけでなく、優しくて、女性に対する振舞いも模範的だったが、やはり、すこしも梨英子の心を惹きつけないのだった。

 ではなぜ彼女は佑二と付き合ったのか。彼女はこう反論するか

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汐里の狂酔

汐里の狂酔

 間延びした永い時間が、曇り空のようにどんよりと停滞している一方で、晴れやかな気持ちの日曜日。そして刻一刻と陽が傾いていく日曜日。
 アパートの外観は30年という築年数に相応しているが、その寂れた感じからはとても想像がつかないほど、部屋の内装は洗練されていて、リビングに置いた茶色い木目調のカウンターテーブルがよく映えていた。

 汐里は自前のサングリアを口に含ませると、テーブルに胸を乗せ、伸ばした

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恵美子の共感:ショートショート

恵美子の共感:ショートショート

 冬の寒い夜、暖房が効いて、やわらかい雰囲気のリビングでくつろいでいると、玄関のほうで、何か硬い異質な物音、というより、衝撃音が走った。

 恵美子は、せっかく上手に膨らませた大きなシャボン玉が、ぱん!と消えてしまったような思いがした。
 しかしなんのことはない。旦那が酔っ払って帰ってきただけのことである。

 はぁと疲れたそうな息をついて、うなだれる。沈黙が一向に破られないので、仕方なしに行って

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美知佳の悲哀:ショートショート

美知佳の悲哀:ショートショート

 美知佳は平日の朝、二人の幼い息子を保育園に送り出す。それから急いでパート先に向かう――というのが普通の共働き世帯であるが、彼女の場合は違った。パート先に向かう前に、彼女には寄るべきところがあった。

『こんなはずじゃなかった。わたしの人生、こんなはずじゃなかった』

 自転車を全力で漕ぎなら、心にはフルブレーキをかけて、涙があふれ出るのを必死に堪える美知佳。

 たどり着いた先は、家からも保育園

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亜希子の絶望 :ショートショート

亜希子の絶望 :ショートショート

 37歳になった亜希子は、素敵な女、素敵な人間になれることだけを考えて、ただひたすらに20代、30代を駆け抜けてきた。どうしてこんなに一心不乱になって、目指す理想に向かって邁進できたのか、単なる自己満足にすぎなかったのだろうか?自分のためにすぎなかっただろうか?

 綺麗ごとは好きじゃなかった。でも誰もがいいと思える社会で生きたい。『わたしのやってきたことは、自分一人のエゴと、社会の求める利他とが

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