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映画の部屋

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ご清覧、ありがとうございます。 演技の質に着目し、好みの映画を取り上げます。
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映画『TAR/ター』

映画『TAR/ター』

 イチゴやラズベリー、桃にレーズンやナッツがこれでもかと散りばめられたケーキと、シンプルなイチゴのショートケーキ。貴方はどちらが好みであろうか。
 言語脳の局在を遺伝的変異によって獲得した人という種は、アナログが入力されればそれをデジタル機能で翻訳し、理解・整理して次のアナログを処理する。そのように見れば、会話というデジタルを大量に駆使しながらも、本作は圧倒的なアナログの連続で、意味化が追い付かず

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映画「13時間ベンガジの秘密の兵士」「アウトポスト」〜目を背けてはならないこと。今、すべきこと

映画「13時間ベンガジの秘密の兵士」「アウトポスト」〜目を背けてはならないこと。今、すべきこと

 

 我々は戦争を知らない。体験したことがない。よって戦争体験もしくは戦場体験が、いかなる影響を及ぼすか、想像するしか出来ない。当たり前だが、体験してからでは、遅い。抑止が効かずに戦争が始まってしまえば、取り返しのつかない事態に推移する。だからその、取り返しがつかなくなる前に、止めなければならない。何より開戦の危機から戻らなければならない。

 では、そうならないために、どうすればよいか?それに

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『アナイアレイションー全滅領域ー』 映画 2018 

『アナイアレイションー全滅領域ー』 映画 2018 

 SFにカテゴライズされる映画や作品を評価するスケールとして、二つあると感じている。
 一つは、現実の延長線上として、コトバによりプロットやドラマツルギーを解説できるボトムアップ的SF。そしてもう一つは、解釈・解説不可能な状況を映像表現で提出し、映像体験を通して想像的・想像的現実がリアルを超越しえるか、判断を仰ぐスタイルだ。
 そして残念ながら前者が、圧倒的に多い。
 そういうカテゴライズに従えば

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『ライフ』 映画 2017 ソニーピクチャーズ

『ライフ』 映画 2017 ソニーピクチャーズ

 衝撃を噛み締めながらエンドロールを観て、ようやく脱力し余韻に浸る。なにより全編に渡って、映像が美しい。そして、俳優陣~ジェイク・ギレンホール、 レベッカ・ファーガソン、ライアン・レイノルズ、真田 広之といった名優たちの共演により繰り広げられる演技は上質で、まるで実際に起きている出来事を、隣で見ているようだ。

 この作品のプロットを一言で言えば、火星人との遭遇だ。が、その火星人は、想像を遥かに超

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ノマドランド  映画  2021アカデミー作品賞他

ノマドランド 映画 2021アカデミー作品賞他

リーマンショック後、夫と死に別れ、企業の倒産に伴い、住み慣れた社宅を出るにあたり、最低限の荷物を車に詰め、仕事を得ながら各地を流浪するファーン。さまざまな出会いを繰り返し、移り行きながらも、葛藤の末、定住のチャンスは自ら放棄し、壊れた車は肉親に借金をしつつ、遊牧民的な生活を繰り返す。

事件・事故による破綻はなく、ただし、ファーンが出会った者達に、加齢に伴う病や寿命が、重層的に折り重

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レヴェナント 蘇えりし者~The Revenant  映画 2015年公開

レヴェナント 蘇えりし者~The Revenant 映画 2015年公開

 プロットは単純で、元来この作品の礎となった著書は、余すことなく公開されている、その、劇作家フレデリック・マンフェルドの著書『ハイイログマの王』で一躍名を馳せた、罠猟師ヒュー・グラスが体験した過酷なサバイバルの旅を元にしたフィクション映画だ。

 そのような、ある意味著名の作品が、何故オスカー3部門という栄誉に輝いたか。そこにこそ、この作品を見る価値が、大きく2つ、存在している。一つは、3年連続ア

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ニルマル・プルジャ:不可能を可能にした登山家 映画   Netflix

ニルマル・プルジャ:不可能を可能にした登山家 映画 Netflix

 ラインホルト・メスナーが8000m以上の14座の山々を登るのに費やした歳月は17年。1987年には、ポーランドの登山家イェジ・ククチカが、7年11ヵ月、その後、金昌浩が7年10ヵ月での14座無酸素登頂を果たし、7年10ヵ月が14座登頂の最短記録であった。

 2019年10月。これまでの記録を大幅に更新した登山家が、彗星の如く現れた。その、ネパールの登山家、ニルマル・プルジャはなんと、これまでの

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『ベケット』映画 Netflix

『ベケット』映画 Netflix

現代演劇の次元を飛躍的に高めた劇作家と言えば、『犀』のイヨネスコと『ゴトーを待ちながら』のベケットであろう。この二作を大根役者が演じればブラックユーモアが際立つし、アクターズスタジオ出の俳優が演じれば、あまりの不条理さに震撼するのではあるまいか。この二作が持つ衝撃と演劇というフィールドに新たな世界を開いた貢献度は、他に比類を見ない。

 映画『ベケット』が始まって、その不条理さが際立ってくるにつれ

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『ノー・カントリー』 2007年パラマウント配給

『ノー・カントリー』 2007年パラマウント配給



“The crime you see now,it's hard to even take it's measure.It's not that I'm afraid of it.I always knew you had to be willing to die to even do this job.But I don't want to push my chips forward and

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LIFE!/ライフ 2013 20世紀フォックス 映画

LIFE!/ライフ 2013 20世紀フォックス 映画

 空想の中でショーンに誘われたウォルターは、衝動に突き動かされるままに、ショーンを追う、旅に出る。そこで全編に流れはじめるミュージックとライフ社のスローガン。
 このシーンが一番印象深くステキだ。
 奇想天外なユーモア溢れる空想と、ペーソスと。
 そして何より映し出される世界の、なんと清々しく、美しきこと。もう一度、何が人生たるかを見直す、衝動に突き動かされる。なぜなら、ライフ社のスローガンそのも

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フリー・ソロ  ドキュメンタリー映画  2019年9月公開

フリー・ソロ ドキュメンタリー映画 2019年9月公開

“マジ怖いから絶対やりたくない。でも、やりたい“

 ~アレックス・オノルド

 “山家”と“岩家”という呼称がある。

 前者を耳にすると想起させられる人は、例えば植村直己。とするならば、後者は小西正継を挙げなければなるまい。彼が所属した山岳同志会は、無酸素登頂がヒマラヤで競われ始めた時代に、突如、魔の山ジャヌーの北壁に大挙して無酸素登頂者を出し、世界を文字の通り、アッと言わせた。その山岳同志会

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「インセプション」 映画 2010年

「インセプション」 映画 2010年

 大学の卒業論文のために取材をした世界的な小説家に、縁あって彼が亡くなるまでの7年間、師事した。難解な宿題を出され、ウンウン言いながら書き、書いたものを郵便で彼の仕事場に送り、電話で評価を受ける。それだけの関係であったが、評価を受けるために箱根大芝の彼の仕事場に電話するときには、大変緊張したこと今でも思い出す。その彼があるときこう言った。

 「小説を書くのであれば、言語でなくては出来ない、まった

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「The dawn wall ドーン・ウォール」 2018年10月 公開

「The dawn wall ドーン・ウォール」 2018年10月 公開

 岩の殿堂、ヨセミテの至宝 975mの花崗岩 エル・キャピタン。確保(命綱)なしでその、エル・キャピタンを登頂した模様を納め、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画「フリー・ソロ」のアレックス・オノルドが左翼にいるとしたら、最右翼はこの、エル・キャピタンにあって登攀困難とされた32ピッチの難航不落の壁、ドーン・ウォールを世界で初めてフリー化(確保のみ可)したトミー・コールドウェルであろう。

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