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『ノー・カントリー』 2007年パラマウント配給

“The crime you see now,it's hard to even take it's measure.It's not that I'm afraid of it.I always knew you had to be willing to die to even do this job.But I don't want to push my chips forward and go out and meet something I don't understand.Man would have to put his soul at hazard.”

 ハビエル・バルデム、1人の演者の怪演が、これ程作品のクオリティを昇華させた例は、他にあるまい。それだけではない。舞台となる景色の、この上なく美しいシーンの連続性は刮目に値する。このエレメントがあいまって、残酷で奇異な惨殺シーンすら美を感じさせてしまう。こここそが、コーエン兄弟の真骨頂であろう。

 特筆すべき耽美な映像が連続する世界を、余韻に浸らずに鑑賞する試みは極めて困難であるが、座してプロットだけを追ってみると、実は謎はない。リアルな現実が読めていく。舞台も、ザ・アメリカだ。だが、どこか、これから至る未来の警鐘を、感じさせられてしまう。

 その要素は、果たして何なのか?

 そして、抑制された演技で作品に彩りを添えたトミー・リー・ジョーンズの諦めにも似た表情と、なにより語りが、一段評価を高めたことは、言うまでもない。さらに例えば、ラスト前のシーンで、もしこの映画を終わらせていたならば、本作は「これほどまでに悲愴感を高めた映画」というレベルで留まっていたであろう。最後のシーンは、それを見事に「虚無の表出」という比類ないステージまで本作を押し上げた。それがコーエン兄弟のタレントそのものだ。

 この作品を今日再見して、最後のシーンでコーエン兄弟がものの見事に表出したテーゼは、こうだ。

 「神という人が創りし幻影は消滅した」と。

 未だ色褪せない珠玉の本作は、第80回アカデミー賞で、4部門を受賞する栄誉に輝いた。

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