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日本文学について

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日本人とは如何なる民族か。日本人とは如何なる精神を持っているのだろうか。日本文化とは如何なるものなのか。日本的なる人は如何なるものなのか。日本というものを知るには如何なる事を学べ…
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大田南畝 花のお江戸に遊ぶ人 『第四章 大田南畝没後二百周年に遭う』

大田南畝 花のお江戸に遊ぶ人 『第四章 大田南畝没後二百周年に遭う』

 

二〇二三年四月二十九日から六月二十五日まで墨田区は押上の「たばこと塩の博物館」にて『没後200年 江戸の知の巨星 大田南畝の世界』が催されている。私はそこに赴いた。五月九日火曜日のことである。天気は終日快晴にしてやや汗ばむ程度の気温であった。

この展覧会は彼の没後節目となる本年に合わせて個人蔵、大学蔵、或いはその他蔵、問わず様々な場所からコレクションを集めた展示内容となっている。セクション

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大田南畝 花のお江戸に遊ぶ人 『第三章 大田南畝とは誰か 後編』

大田南畝 花のお江戸に遊ぶ人 『第三章 大田南畝とは誰か 後編』

天明六(一七八六)年、幕府の財政を管理する組織の組頭・土山宗次郎が公金を横領していたことが発覚し死罪となった。彼は大田南畝のパトロンである。土山は「行状よろしから」ざりし故に死罪となった。さらに、その二年後(南畝四十の歳)、貧しいながらも育ててくれた父親と学を授け彼の未来を信じてくれた師・内山賀邸を相次いで無くした。もはや、世を笑う事はできなかった。そんな気力もないのだ。自分がいかに不真面目だった

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大田南畝 花のお江戸に遊ぶ人 『第三章 大田南畝とは誰か 前編』

大田南畝 花のお江戸に遊ぶ人 『第三章 大田南畝とは誰か 前編』

  三 大田南畝とは誰か

大田南畝(本名・太田直次郎。しかしこれは通称であって、字は耜子、名を譚となす。晩年に至り第十一代将軍・徳川家斉の息子と同じ字を用いている事に恐れ多いと憚り、大田七佐衛門と改めた。筆名は数多く四方山人、寝惚先生、巴人亭等々。最も有名な号・蜀山人は彼が五十歳を超えた頃に使い始めたものである。)は寛延二(西暦一七四九)年三月三日、江戸は牛込に生まれた。彼は大田家の長男であり、

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大田南畝伝 花のお江戸に遊ぶ人 第二章「狂歌とは何か」

大田南畝伝 花のお江戸に遊ぶ人 第二章「狂歌とは何か」

  二 狂歌とは何か

 江戸はさまざまな文化が爛熟した時代である。歌舞伎、浄瑠璃、俳句、浮世絵。それらは今日で知らぬものはいまい。それぞれ代表者を挙げよ、と問われても容易であろう。例えば、歌舞伎なら團十郎、浄瑠璃なら近松門左衛門、俳句なら松尾芭蕉、浮世絵ならば葛飾北斎、といった具合に。しかし、狂歌となればどうだろう。私はその文芸ジャンルが今日において広く知られているとは到底思えない。その今日では

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大田南畝伝 花のお江戸を遊ぶ人 第一章「私と大田南畝との関わり」

大田南畝伝 花のお江戸を遊ぶ人 第一章「私と大田南畝との関わり」

第一章 私と大田南畝との関わり

大田南畝という文人を知っている同輩は多くはない。否、知っている輩はいないのだ。そう断言しても差し支えはあるまい。少なくとも、私の狭い交友関係の中で談話が大田南畝に及んだ事は未だかつてないのである。
ならば何故に、私が大田南畝なる現在においては消えかけている文人の存在を知っているのだろうか。それは、高校生の時代に遡る必要がある。

森鴎外は高校を出ていれば、誰しもが

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日本文学史 #0 決意

日本文学史 #0 決意

いずれはやろうと己に課していたことを実践する時がついにきたのである。それは日本文学史を知るということである。これは日本文学ファンとして避けては通れぬ道である。そして手に入れたのが加藤周一の名著、『日本文学史序説』だ。私はもはやこの課題から逃れられぬ様に上巻、下巻、補講までも一気に購入した。

このnoteに書くものは備忘録である。自ら要約し自らの言葉で紡ぐ。其処にはさらに理解を深めようという魂胆が

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日本文学史 #1 日本文学の特徴

日本文学史 #1 日本文学の特徴

文学の役割各時代の日本人は自らの思想を文学作品で表現することを得意とした。奈良時代末期に成立された日本最古の和歌集『万葉集』を例に挙げるとその同時代に記された仏教の理論的著述よりも、その時代に生きた人々の思想を明瞭に表している。

日本人の感覚的世界は抽象的な音楽においてよりも、造形美術、なかんずく工芸的作品に表現された。摂関政治時代の芸術は仏教彫刻や絵巻物に独創性を発揮した。日本の音楽の面から見

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日本文学史 #2 初期文学

日本文学史 #2 初期文学

第一回は日本文学の特徴について説明した。今回、第二回では「万葉集」が成立した時代前後とその背景について説明したいと思う。前回の記事は下記のリンクから飛べる。

『十七条憲法』と『懐風藻』まで文献により遡る限り日本文学の歴史は七・八世紀に始まった。その時の日本は天皇家が他の有力氏族に対して、内乱と抗争を繰り返しながら次第に権力を独占していった時期であった。その後、律令制の範を大陸に求めた支配層は、そ

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日本文学史 #3 最初の転換期

日本文学史 #3 最初の転換期

第二回は日本の初期文学について説明した。今回は日本文学が迎えた最初の転換期について説明する。詳細は下記のリンクよりどうぞ。

大陸文化の「日本化」について八世紀末の平安遷都(七九四)から一〇世紀初頭へかけての凡そ一〇〇年間は、その時までに輸入された大陸文化の「日本化」の時期である。「日本化」の結果は、様々な面でその後の日本の文化に多大な影響を与えた。日本の政治・経済・社会・言語・美学は九世紀に決定

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日本文学史 #4 「源氏物語」と「今昔物語」の時代

日本文学史 #4 「源氏物語」と「今昔物語」の時代

第三回は日本文学が迎えた最初の転換期について説明した。今回は成熟を迎えた頃の日本文学について説明したいと思う。第三回は下記のリンクからどうぞ。

最初の鎖国時代奈良時代の日本の支配層は大陸文化に圧倒されその消化に忙しかった。九世紀には輸入された大陸文化が「日本化」され、日本流の文化の型が政治・経済・言語の表記法・文法そして美的価値の領域に成立した。その日本流の型は次の時代である十世紀・十一世紀に完

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日本文学史 #6 能と狂言の時代

日本文学史 #6 能と狂言の時代

第五回には鎌倉時代に訪れた日本文学、再びの転換期について説明した。第6回である今回は日本初の劇である能と狂言が誕生した時代について説明したいと思う。前回の詳細は下記のリンクより。

封建制の時代十三世紀の二重政治は十四世紀に崩壊した。地方武士団の力はさらに強まり鎌倉幕府に内紛が生じてその支配力が弱まった。京都の政府は鎌倉の読みにつけ込み幕府に反対する関東の武士団の棟梁を抱き込んで宮廷権力を集中する

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日本文学史 #7 第三の転換期

日本文学史 #7 第三の転換期

前回は室町時代に入る新たな芸術様式が発展した背景を説明した。今回は戦国の世を明けた日本文学に訪れた三度目の転換期について説明したいと思う。前回の記事は下記のリンクよりどうぞ。

西洋への接触十六世紀の半ばから十七世紀の半ばに至るおよそ百年間は二重の意味で日本史の転換期であった。第一に国際的に西洋の影響が初めて日本に及んだ。漂着したポルトガル人から鉄砲が伝来しその後、イエズス会が日本に於いてのキリス

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日本文学史 #8 元禄文化

日本文学史 #8 元禄文化

前回は日本文学史に訪れた三度目の転換期について説明した。第八回目の今回は徳川時代に入り芸術の成熟を迎えた「元禄文化」について説明したいとお思う。前回の記事は下記のリンクからどうぞ。

「元禄文化」について十七世紀末、元禄時代(一六八八〜一七〇四)を中心として、大都会(大阪、京都、江戸)に栄えた文化を俗に「元禄文化」という。その特徴は何よりも学問文芸の多くの領域に独創的な工夫が相次いで現れたというこ

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日本文学史 #9 町人の時代

日本文学史 #9 町人の時代

前回は江戸芸術がさらに発展した「元禄文化」について説明した。第九回目である今回は徳川政権下で育まれた町人の芸術について説明していく。前回の記事は下記のリンクからどうぞ。

教育・一揆・はるかな西洋日本に十八世紀において絶えず進んだ過程は学校教育の普及であった。幕府は教育を推励し地方政府もその経営する学校を新設した。この傾向は殊に十八世紀後半に著しい。地方政府も有能な官僚の必要性を自覚し始めたのであ

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