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2023年10月の記事一覧

嘘つきが語る真実

嘘つきが語る真実

「ちょっとたばこ吸ってみて」

ある日の稽古中、演出家にそう言われたことがあります。
私は非喫煙者です。
過去に何度か興味本位で試したことはありますが、激しくむせ返っちゃってダメでした。

稽古場は全館禁煙で、演出家も実際に吸うように言ったのではなく
『吸うふりをしてみろ』
と指示したのです。
人差し指と中指でたばこを挟み、それっぽく口元に近付けて「ふぅ~」と肺に入れた空気を吐き出しました。
する

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ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を聴こう

ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を聴こう

ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は、クラシック音楽の中でも最も有名で重要な作品のひとつです。この曲は、ベートーヴェンが耳の病気に苦しみながらも、音楽の可能性を広げようとした姿勢が表れています。この曲は、当初はナポレオンに捧げられる予定でしたが、彼が皇帝に即位したことを知ったベートーヴェンは激怒し、曲名を「英雄」と変えたという逸話があります。この曲は、ナポレオン個人ではなく、自由と平等の理想を追

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マーラーの音楽的集大成、交響曲第9番

マーラーの音楽的集大成、交響曲第9番

西洋音楽史上の最高傑作、それはバッハの「マタイ受難曲」やモンテヴェルディの「聖母マリアの夕べの祈り」やベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」ではないか、と主張する向きが多いだろうということを十分承知の上で人類の宝を紹介します。

それはマーラーの交響曲第9番です。

マーラーの音楽は「開かれた」構造を持っているので、ベートーヴェンのような必然性を持ちません。

けれども、第1楽章だけは別格で、死の打

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子供は、親の「いう通り」にはならない

子供は、親の「いう通り」にはならない

私には5歳の息子がいます。
名前はレイ。

レイは、私の顔をよく見ています。
レイは、私の瞳をよく観ています。
私が笑えば笑うし、私が泣いている時は泣きそうな顔をするんですね。家族の異変に、誰よりも先に気がつくのが、レイです。

きっと、5歳の彼だから分かることがあって
5歳の彼にだけ、見えることがあるんですね。
家族の一員だからこそ、立派に、そして繊細に感じてきたのでしょう。そしてそれはレイだけ

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「クラシック音楽」は万人に「わかる」ものではない

「クラシック音楽」は万人に「わかる」ものではない

「クラシック音楽」は、残念ながら(と敢えて言う)万人にわかるものではありません。と、『クラシック音楽ファシリテーター』という肩書きを使っている人間が勇気を持って言ってしまいます。

そもそもがキリスト教から発生した音(音楽的)現象が体系化されロジカルに整えられ、ヨーロッパの貴族社会の中でもっとも分厚く育まれ、やがて市民社会を文字通り血を流して勝ち取った人々の手によって継承されてきた成熟した文化であ

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もう一人の自分の声に耳を傾ける

もう一人の自分の声に耳を傾ける

3年前の12月に受けた右脳血管腫摘出手術のあと、命こそ助かったものの、麻酔から覚めると私の世界は変わっていました。
文字通り、世界がひっくり返ったようでした。

都立病院からセカンドオピニオンを求めて帰阪し、日本でも有数の脳神経外科病院で手術を受けられることになりました。
そこでの出会いは私にとってかけがえのない宝物であり、
執刀してくれた担当医を含め、彼らについては今後じっくりと書きたいと思って

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