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『心地よいアイロニー』
「優しいひとだね、いいひとだねって褒め言葉には、どうしたって皮肉が込められてるとしか思えないんだよね」
ガヤガヤと声が行き交う店内でそう語る彼女は、まさにそう、優しい人だ。職場でも請け負わなくて良い仕事まで背負ってあげてるのをよく見るし、人の悪口や陰口も言わず、いつも誰かをサポートしたり不満を聞いてあげる聞き手になってあげたり、誰から見ても良い人で、優しい人。ただ友達である私の前ではたまに毒を吐く
人の痛みに無頓着すぎる怪物
こういう人になりたい、なんて強い憧れは幼い頃からあったとしても、こんな人には絶対にならないようにしよう、という最低の基準ができたのは社会人になってからだった。
性善説とまで言ったら大袈裟かもしれないけれど、自分の周囲には本当に悪い人というのは存在しない、とまで思っていた純朴な私を作ったのは、恵まれて育った環境だったのだと思う。
年を重ねて、本当の意味で大人になったなあと意識できたのは、それこそ
可能性に賭けずにはいられない
はじめてステージに立った時、見上げるお客さんたちの視線に触れた時、あ、ここだ、ここが居場所だ、なんて確信に似た気持ちを覚えた。
キャパシティ100人もいかないようなぼろっちい小さいライブハウスのステージの上で、遠慮なしに光る照明に照り付けられた私は、抑えきれない震えとブワッと粟立った鳥肌を意識しながら、笑う。超引き攣った笑顔だったよ、と後に友人から言われたその笑顔は、後にも先にもこの場所以外で感
変化なんてうやむやにしてしまえ
乾杯、と掲げたジョッキを控え目にぶつけ合う。コロナ禍でしばらく飲み会なんてものも自粛していたせいか、口に運んだビールは以前よりもずっと美味しく感じる。
ビールを心から美味しく思えたのはいつからだろうか。
20歳になって、はじめて合法で飲んだお酒はカシスオレンジだかカルーアミルクだか、甘ったるくて今や胸焼けがするようなものだったと記憶している。だけど当時、カシオレを飲む女は可愛こぶってると言われる
頑張る理由が欲しかっただけなのかもしれない
仕事をしていて、思わぬ壁にぶつかる瞬間というのがある。
自分が思い描いていた理想のようなものに辿り着くためのロードマップが何一つうまくいかない。
私は何か行動をする前に、大成功した時を考えてやる気を出すタイプだから、現実とその想像が離れれば離れるほど焦ってしまう。軌道修正しようと頑張るのだけど、あ、これもうだめだ、と底が見えてしまった時、とんでもない絶望感に襲われる。
大成功を考えるということ
ショートショート 『早死にクズィ』
もう時効だろうから。
なんて前置きとともに彼女が並べた言葉が、瞬間的にはじけて、深くに眠っていた傷を掘り起こすように痛みつける。衝撃的というのはこういう時使う言葉なんだろう、と場違いにもそんなことを考えて。唖然としてしまって止まった空気を壊すように、笑ってみせた。苦笑だ。自虐だ、と思いながらも大きく笑う。ほんと最低だなーなんて他人事のように言って、捨てられた、理解しきれなかった言葉を拾う。
麻婆豆腐のルーツはお婆ちゃんではないらしい
xyzという名前のお酒がある。
ラムベースのカクテルで、レモンの酸味とオレンジの甘さのバランスが取れた、飲みやすいすっきりとした味わいらしい。
私は20歳の頃、働いてたカフェバーでこのお酒を知った。
「不思議な名前ですね」と店長に言えば、
「xyzってアルファベットの最後の3文字でしょう?だから、これ以上はない、これ以上のものは作れないって意味なの」と教えてくれて、当時の私はその名前の所以にやけ
生温くなって不味い、あの日のハイネケンが飲みたい
「あなたは一体何をしたいの?何を目指してるの?」
意気揚々と自分の夢を語れた10代の頃はなんとも思わなかったこの質問。実は今は聞かれたくないことナンバーワンだったりする。
あ、私なーんも特別な人間じゃなかったんだ。
そう、気づいてしまう瞬間があると思う。
自分よりずっと秀でた人を見てしまった時。
続けてきたことがいつまでも報われないで、何度も何度も誕生日を迎えた、とき。
20代前半のときの私
「あの人、なんかプーさんの尻に似てますよね」
そんな強烈なパワーワードを真顔で吐く後輩がいる。
それは限界が来た私が、とある人物が腹立たしくてたまらない、という話をしていたときに出てきた言葉だ。
当初は確実に苛々と悶々としていたはずなのに、この後輩のひとことに意識をもっていかれてしまい、今となっては正直何に腹を立てていたのか忘れてしまった。(きっとその程度のくだらないことだったのでしょう)
プーさんの尻に似てる、ってそのワードだけでも十分に
潰れたガストを見てセンチメンタルになる
緊急事態宣言がやっとのことであけて、先日、実に3年ぶりくらいに実家に帰った。
ガヤガヤと賑わう東京の街並みとは対照的な、静かで人通りの少ない故郷の道のコンクリートの地面は、なんだかすこーしだけ都会より柔らかく感じたり。
空気がうめえ!なんて、たいして分かりもしない空気の味を語ってみたり。
21時にはもう真っ暗な道中で、その暗さに大袈裟に驚いて騒いでみたり。
「東京に染まった」「都会っ子ぶる」私を、