ぽんかん

1日1日は長いのに、1年はとても早い不思議。 過ごしてく中で忘れたくないことを綴ります…

ぽんかん

1日1日は長いのに、1年はとても早い不思議。 過ごしてく中で忘れたくないことを綴ります。 のんびりコーヒー淹れたり、飲食店でばたばた走り回るお仕事してます。

記事一覧

『心地よいアイロニー』

「優しいひとだね、いいひとだねって褒め言葉には、どうしたって皮肉が込められてるとしか思えないんだよね」 ガヤガヤと声が行き交う店内でそう語る彼女は、まさにそう、…

ぽんかん
10か月前

夜に爪を切る

「できれば、帰ってきてお父さんの顔を見ておいた方がいいよ」 梅雨入りの報せを各々のニュースが謳う時期だった。母からそんな連絡が届いたのは。 ちょうど2023年を迎え…

ぽんかん
1年前
5

薄濁った色の虚栄心

君は、この先男関係ずっと苦労をするよ、絶対。 飲んでいたハイボールが刺さるような痛みと共に身体中をめぐる、そんな錯覚さえ覚えた。瞬間的に怯えた目をした私の気持ち…

ぽんかん
1年前
2

人の痛みに無頓着すぎる怪物

こういう人になりたい、なんて強い憧れは幼い頃からあったとしても、こんな人には絶対にならないようにしよう、という最低の基準ができたのは社会人になってからだった。 …

ぽんかん
1年前
1

勿体ぶらずにノスタルジックに浸っておけ

5時間近く座り続けたら、いくら新幹線のふかふかの椅子でもお尻が痛い。 珍しく眠れなかった実家からの帰り道。 GW最終日。 母に手を振って、父からのLINEの文章を眺めて…

ぽんかん
2年前
1

可能性に賭けずにはいられない

はじめてステージに立った時、見上げるお客さんたちの視線に触れた時、あ、ここだ、ここが居場所だ、なんて確信に似た気持ちを覚えた。 キャパシティ100人もいかないよう…

ぽんかん
2年前
2

変化なんてうやむやにしてしまえ

乾杯、と掲げたジョッキを控え目にぶつけ合う。コロナ禍でしばらく飲み会なんてものも自粛していたせいか、口に運んだビールは以前よりもずっと美味しく感じる。 ビールを…

ぽんかん
2年前
5

青空を泳ぐ洗濯物

風景美を意識して日常を過ごしたことない私だけど、あ、これなんかいいなと思う瞬間がある。 もし自分がカメラマンなら写真に収めたいと、画家なら絵に残したいと思うよう…

ぽんかん
2年前
1

頑張る理由が欲しかっただけなのかもしれない

仕事をしていて、思わぬ壁にぶつかる瞬間というのがある。 自分が思い描いていた理想のようなものに辿り着くためのロードマップが何一つうまくいかない。 私は何か行動を…

ぽんかん
2年前
7

他人に気を遣う分だけ、自分にも気を遣えたら良いのに

「あなたが思っているほど、他人はあなたのことを気にしていないのよ」 「気を遣いすぎ。楽に生きなよ」 私が特段仲のいい人にだけ本音をぶちまけると、大体こんな言葉が…

ぽんかん
2年前
4

嫌いな奴って大抵嫌われてることに気づいてないから厄介

目の前のリンゴが美味しいよって話をしてるのに、いやいや私があの時食べたブドウが美味しかったのよ、と返してくる同僚の女がいる。 私は今ここにあるリンゴの話をしてん…

ぽんかん
2年前
2

ショートショート 『早死にクズィ』

 もう時効だろうから。  なんて前置きとともに彼女が並べた言葉が、瞬間的にはじけて、深くに眠っていた傷を掘り起こすように痛みつける。衝撃的というのはこういう時使…

ぽんかん
2年前
3

麻婆豆腐のルーツはお婆ちゃんではないらしい

xyzという名前のお酒がある。 ラムベースのカクテルで、レモンの酸味とオレンジの甘さのバランスが取れた、飲みやすいすっきりとした味わいらしい。 私は20歳の頃、働いて…

ぽんかん
2年前
3

生温くなって不味い、あの日のハイネケンが飲みたい

「あなたは一体何をしたいの?何を目指してるの?」 意気揚々と自分の夢を語れた10代の頃はなんとも思わなかったこの質問。実は今は聞かれたくないことナンバーワンだった…

ぽんかん
2年前
3

「あの人、なんかプーさんの尻に似てますよね」

そんな強烈なパワーワードを真顔で吐く後輩がいる。 それは限界が来た私が、とある人物が腹立たしくてたまらない、という話をしていたときに出てきた言葉だ。 当初は確実に…

ぽんかん
2年前
12

潰れたガストを見てセンチメンタルになる

緊急事態宣言がやっとのことであけて、先日、実に3年ぶりくらいに実家に帰った。 ガヤガヤと賑わう東京の街並みとは対照的な、静かで人通りの少ない故郷の道のコンクリート…

ぽんかん
2年前
9
『心地よいアイロニー』

『心地よいアイロニー』

「優しいひとだね、いいひとだねって褒め言葉には、どうしたって皮肉が込められてるとしか思えないんだよね」
ガヤガヤと声が行き交う店内でそう語る彼女は、まさにそう、優しい人だ。職場でも請け負わなくて良い仕事まで背負ってあげてるのをよく見るし、人の悪口や陰口も言わず、いつも誰かをサポートしたり不満を聞いてあげる聞き手になってあげたり、誰から見ても良い人で、優しい人。ただ友達である私の前ではたまに毒を吐く

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夜に爪を切る

夜に爪を切る

「できれば、帰ってきてお父さんの顔を見ておいた方がいいよ」
梅雨入りの報せを各々のニュースが謳う時期だった。母からそんな連絡が届いたのは。

ちょうど2023年を迎える直前、父は医師からステージ4の癌宣告を受けた。帰省していた私に、「俺癌になったわ!」なんて明るい口調で、ふざけたように語る姿は昨日のことのように思い出せる。
それから1年半の間。何度か帰って見ても、今までと変わらぬ様子で仕事に励み、

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薄濁った色の虚栄心

薄濁った色の虚栄心

君は、この先男関係ずっと苦労をするよ、絶対。

飲んでいたハイボールが刺さるような痛みと共に身体中をめぐる、そんな錯覚さえ覚えた。瞬間的に怯えた目をした私の気持ちを察したのか、おじさんは小さく笑う。おじさんの手元の緑茶ハイの緑が妙に濁って見えて、まずそうだな、なんて思考の働かない頭で考えてみた。

きっと。という言葉だったらまだ救いがあった。おじさんは、絶対、といった。絶対、なんて私はなかなか言え

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人の痛みに無頓着すぎる怪物

人の痛みに無頓着すぎる怪物

こういう人になりたい、なんて強い憧れは幼い頃からあったとしても、こんな人には絶対にならないようにしよう、という最低の基準ができたのは社会人になってからだった。

性善説とまで言ったら大袈裟かもしれないけれど、自分の周囲には本当に悪い人というのは存在しない、とまで思っていた純朴な私を作ったのは、恵まれて育った環境だったのだと思う。

年を重ねて、本当の意味で大人になったなあと意識できたのは、それこそ

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勿体ぶらずにノスタルジックに浸っておけ

勿体ぶらずにノスタルジックに浸っておけ

5時間近く座り続けたら、いくら新幹線のふかふかの椅子でもお尻が痛い。
珍しく眠れなかった実家からの帰り道。
GW最終日。

母に手を振って、父からのLINEの文章を眺めて、新幹線に乗る瞬間の寂しさは、東京に帰ってきて普段使っている電車に乗り込むともう、氷の溶けて薄くなったアイスコーヒーのようにぼんやりとしたものになった。
特別だった約1週間を尻目に、じわじわと自分の日常にまた、体が溶け込んでいく。

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可能性に賭けずにはいられない

可能性に賭けずにはいられない

はじめてステージに立った時、見上げるお客さんたちの視線に触れた時、あ、ここだ、ここが居場所だ、なんて確信に似た気持ちを覚えた。

キャパシティ100人もいかないようなぼろっちい小さいライブハウスのステージの上で、遠慮なしに光る照明に照り付けられた私は、抑えきれない震えとブワッと粟立った鳥肌を意識しながら、笑う。超引き攣った笑顔だったよ、と後に友人から言われたその笑顔は、後にも先にもこの場所以外で感

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変化なんてうやむやにしてしまえ

乾杯、と掲げたジョッキを控え目にぶつけ合う。コロナ禍でしばらく飲み会なんてものも自粛していたせいか、口に運んだビールは以前よりもずっと美味しく感じる。
ビールを心から美味しく思えたのはいつからだろうか。

20歳になって、はじめて合法で飲んだお酒はカシスオレンジだかカルーアミルクだか、甘ったるくて今や胸焼けがするようなものだったと記憶している。だけど当時、カシオレを飲む女は可愛こぶってると言われる

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青空を泳ぐ洗濯物

青空を泳ぐ洗濯物

風景美を意識して日常を過ごしたことない私だけど、あ、これなんかいいなと思う瞬間がある。
もし自分がカメラマンなら写真に収めたいと、画家なら絵に残したいと思うような、なによりも圧倒して視覚を刺激する一瞬。

実家のリビングの、フカフカの絨毯に寝そべって、よく晴れた青空をベランダに続く大きな窓から見上げる。時刻は12時。
母が午前中に干した洗濯物が、ゆらゆらと揺れるその間から、垣間見える雲ひとつない青

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頑張る理由が欲しかっただけなのかもしれない

頑張る理由が欲しかっただけなのかもしれない

仕事をしていて、思わぬ壁にぶつかる瞬間というのがある。

自分が思い描いていた理想のようなものに辿り着くためのロードマップが何一つうまくいかない。

私は何か行動をする前に、大成功した時を考えてやる気を出すタイプだから、現実とその想像が離れれば離れるほど焦ってしまう。軌道修正しようと頑張るのだけど、あ、これもうだめだ、と底が見えてしまった時、とんでもない絶望感に襲われる。
大成功を考えるということ

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他人に気を遣う分だけ、自分にも気を遣えたら良いのに

他人に気を遣う分だけ、自分にも気を遣えたら良いのに

「あなたが思っているほど、他人はあなたのことを気にしていないのよ」
「気を遣いすぎ。楽に生きなよ」

私が特段仲のいい人にだけ本音をぶちまけると、大体こんな言葉が返ってくる。
っていっても、私が本音をぶちまけた機会なんて数えるほどしかないし、ぶちまけた人なんて30年近く生きてきて片手で収まる程度の人数に過ぎない。その1人に母親が入るあたり、え、私生き辛い生き方しすぎてない?と思うのだけど。

最近

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嫌いな奴って大抵嫌われてることに気づいてないから厄介

嫌いな奴って大抵嫌われてることに気づいてないから厄介

目の前のリンゴが美味しいよって話をしてるのに、いやいや私があの時食べたブドウが美味しかったのよ、と返してくる同僚の女がいる。

私は今ここにあるリンゴの話をしてんだよ馬鹿野郎、という気持ちを抑えてそれはどんなブドウだったの?なんて愛想笑いで聞いてみたりはするくらいは、私は大人でいれてはいる。一応。

彼女は話のすり替えが大好きで、どうやら自分が話題の中心でないと気が済まないようだ。自分に興味のない

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ショートショート 『早死にクズィ』

 もう時効だろうから。
 なんて前置きとともに彼女が並べた言葉が、瞬間的にはじけて、深くに眠っていた傷を掘り起こすように痛みつける。衝撃的というのはこういう時使う言葉なんだろう、と場違いにもそんなことを考えて。唖然としてしまって止まった空気を壊すように、笑ってみせた。苦笑だ。自虐だ、と思いながらも大きく笑う。ほんと最低だなーなんて他人事のように言って、捨てられた、理解しきれなかった言葉を拾う。

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麻婆豆腐のルーツはお婆ちゃんではないらしい

麻婆豆腐のルーツはお婆ちゃんではないらしい

xyzという名前のお酒がある。
ラムベースのカクテルで、レモンの酸味とオレンジの甘さのバランスが取れた、飲みやすいすっきりとした味わいらしい。

私は20歳の頃、働いてたカフェバーでこのお酒を知った。
「不思議な名前ですね」と店長に言えば、
「xyzってアルファベットの最後の3文字でしょう?だから、これ以上はない、これ以上のものは作れないって意味なの」と教えてくれて、当時の私はその名前の所以にやけ

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生温くなって不味い、あの日のハイネケンが飲みたい

「あなたは一体何をしたいの?何を目指してるの?」

意気揚々と自分の夢を語れた10代の頃はなんとも思わなかったこの質問。実は今は聞かれたくないことナンバーワンだったりする。

あ、私なーんも特別な人間じゃなかったんだ。
そう、気づいてしまう瞬間があると思う。
自分よりずっと秀でた人を見てしまった時。
続けてきたことがいつまでも報われないで、何度も何度も誕生日を迎えた、とき。

20代前半のときの私

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「あの人、なんかプーさんの尻に似てますよね」

「あの人、なんかプーさんの尻に似てますよね」

そんな強烈なパワーワードを真顔で吐く後輩がいる。
それは限界が来た私が、とある人物が腹立たしくてたまらない、という話をしていたときに出てきた言葉だ。
当初は確実に苛々と悶々としていたはずなのに、この後輩のひとことに意識をもっていかれてしまい、今となっては正直何に腹を立てていたのか忘れてしまった。(きっとその程度のくだらないことだったのでしょう)

プーさんの尻に似てる、ってそのワードだけでも十分に

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潰れたガストを見てセンチメンタルになる

潰れたガストを見てセンチメンタルになる

緊急事態宣言がやっとのことであけて、先日、実に3年ぶりくらいに実家に帰った。
ガヤガヤと賑わう東京の街並みとは対照的な、静かで人通りの少ない故郷の道のコンクリートの地面は、なんだかすこーしだけ都会より柔らかく感じたり。
空気がうめえ!なんて、たいして分かりもしない空気の味を語ってみたり。
21時にはもう真っ暗な道中で、その暗さに大袈裟に驚いて騒いでみたり。
「東京に染まった」「都会っ子ぶる」私を、

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