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あなたに会いたくて保育園を脱走した

その日は、午前中に小児科に連れていかれた。

「頭が痛い、保育園に行きたくない」と
私が言ったからだ。

小児科でも異常はなく、
父は「またか」と私の仮病を見抜いた。


画策虚しく、
私は保育園へ強制送還となった。




父の車に乗って連行される。

その時ラジオから、
プリンセスプリンセスの
「Diamonds」が流れてきた。





私の胸はギュッとなった。


当時かなり流行っていたこの曲は、母の大好きな曲だ。





母は、私が生まれてすぐに
出張に出た。



まだバブルがくすぶっていた頃。

母のアパレル会社は
かなり忙しかった。




シーズン毎のコレクションでの買い付けに飛び回っていた彼女は、1年の半分は家にいなかった。


出張の際は、各ブランドの最新コレクションを着ていく。



母のクローゼットには
たくさんの服が並べられ
出張の前の日には
そのクローゼットに籠り

「何を着ていこうか?」と
小一時間悩む。




センスなんて確立していない小さな私に

「ブルーとグリーンどちらがいいと思う?」とスカートの色を聞いてくる。




私は明日旅立つ母と1秒でも一緒に居たくて、
クローゼットに忍び込んでいた。

お洋服の暗闇の中から「ブルー」と答えた。



その時、流れていたのは
母の大好きな「Diamonds」だ。







連行される車の中で流れた「Diamonds」は
6歳の私の心を掻き立てた。



''母に会いたい''




保育園での昼食~お昼寝を終え
午後の園庭あそびの時間。



みんなは、勢いよく
園庭に飛び出していった。


先生たちも、大きなつば広ハットを被りながら子供たちに追いつこうと靴を履き始めていた。






私は、ひっそりと
その喧騒に背を向け

クラスの隅に置いてあった
踏み台を手に取った。





なるべく音を立てずに
なるべく存在を消すように

そろりそろりと
踏み台に乗った。





子供たちのバッグを掛けてある棚を掴み、踏み台を勢いよく蹴って棚の上になんとか登れた。



初夏の暑さもあり、目の前の窓は網戸だけになっていて簡単に開けられた。





''母に会える''





目の前には、
保育園の周りの木々の葉っぱが
そよそよと風になびいている。


躊躇はなかった。



窓のサンにまたがり
足を向こう側に伸ばす

部屋の中を覗く体勢になった。




先生や子供たちが園庭で遊んでいるのが見えた。



「よし、まだ氣づいてない」





窓の向こう側にぶら下がり、
今度は踏み台はないので

思いっきってそのまま降りた。

というか、落ちた。





足に衝撃が走り、
一瞬動けなかった。



痛いけど、
骨折はしていないらしい。



「あ、靴わすれた」



靴は靴箱にきちんと並べていた。




一瞬、アリバイに関して不安はよぎったが今さらもう仕方がない。



私は、とぼとぼ歩き出した。






とても氣持ちのいい日だった。


緑は風になびき
雲は少しだけ
ゆっくりと流れていた。




裸足であるくアスファルト

途中、緑の芋虫が
同じ方向へ移動していた。




私は仲間のように
その芋虫とあるいた。



しばらくお供していたが、
その芋虫の道草の食いっぷりに
ついていけず

「またね」と言って先を急いだ。





6歳児が裸足で歩いているのに
誰一人と会わなかったのは
裏道をスタスタと歩いていたからだろう。





太陽がいちばん高く昇る時間帯、
暑かった。


汗びっしょりになったころ、
私の祖母の家に着いた。







母はいない。

分かっていた。



母はここにはいない。
遠くにいる。




でも、私は保育園を脱走した。







どこに行けば会えるかなんて
分からなかった。


インターホンを鳴らし
出てきた祖母は
心臓発作を起こしたかのように
驚いていた。


どうにか、平静を保とうと
「とりあえず、シャワーを浴びなさい」と
お風呂に連れていかれ
服を脱いでいると


隣の部屋から祖母が保育園に電話している声が聞こえた。




シャワーを浴び、スイカを食べていると先生が申し訳なさそうな顔で祖母の家にきた。




私の冒険はこれで終わった。







母にも会っていない。


でも、母に会いたかった。






母はいない、


分かっていた。


でも、

お母さん、

私はあなたに会いたくて保育園を脱走した。



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