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闘病記

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記事一覧

闘病記その9

闘病記その9

長い連休ではあった。しかし台風のように過ぎ去っていった。そこらには折れた木の枝や草花が散らかっている。大半の建造物の一部が壊れて、まちは水に浸かっている。まるで谷底に堕ちたような気分ではあったが、今朝は平然を装うことができた。だから彼らは何も知らない。ゴールデンウィーク明けの私でしかないのだ。
いくらか前、少なくとも絶望を絶望として感じることができなかった時期は、外部刺激によってどうにかなっていた

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闘病記その8

ただ時間が流れている。特段見たくもない光景を眺めている。過ぎているのではなく流れている。全てはひとの流れだ。自転車も車も飛行機も。何かに急かされるようにして通りを歩く人でありたい。少なくとも休日にすべきことなんてなにもない。出かける時は不安にならないように、ノートとペンと数冊の本をカバンに詰めて持ち歩いているがそれら全てさえ余計に感じる時がある。都市の中でそうして持て余すことがよくある。対策は誰か

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闘病記その7

闘病記その7

大震災が起こった。ながいながい大震災であった。またいろいろなものが崩れ落ちてしまった。
揺れ動く精神とともに今日という日がまたきてしまった。眠りにつくことさえ億劫になる。空腹と共に迎える朝。しかしろくに食べるものがない。リュックサックには小さなロールパンが2つ残ったままであることを思い出す。僅かな労力でコーヒーを淹れる。ギターを抱え、弾き飽きたフレーズとともにテレビの画面を見つめる。笑えるシーンが

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闘病記その6

私にとっての闘病記とは自○願望との闘いのことである。なぜこのような状況に陥ることになったのか、そしてどのようにして改善されるのかといった自分にとっては壮大な冒険でもあるのだ。
ことの始まりはいつの事か詳しくは覚えていないが何かに際してハッとなったあの瞬間からであった。自分自身に対する問いが次から次へと出るようになり、答えの出ないものばかりで溢れ返るようになった。
少年時代はフットボールの時代であっ

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闘病記その5

闘病記その5

不安な感情が煮つまってきた。世界はそんなこと知るはずもなくめまぐるしく動いている。世界は止まることを知らないようだ。それぞれが皆、それぞれの人生を歩んでいるから。そうして、それぞれの人々が生きている事実によって世界はまるで進んでいるかのように感じてしまう。
車や飛行機、電車やバスはわたしの意思の外で動いているだけだ。それがどうした。ただそれだけだ。不安な日々があまりにも続いたせいで世の中の動きを知

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闘病記その4

言葉は映る。しかし書物は遠ざかる。音は聞こえる。しかし音楽は遠ざかる。言葉が遠ざかってゆく。時間に押され続ける。
そうやって目の前を、あるいは私の知らないところであらゆる物事が消費され過ぎ去っていく。デスクの前でも時間は流れるようだ。吐き出すようにしてノートに言葉を書き出す日々。嫌でも太陽は決められた運動を続けている。それに翻弄されるように蠢く私たち。
少年のお前がここにいる。教室の窓を眺めては考

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闘病記その3

「僕は大人が大嫌いだ。経験を持ってでしか私たちに対しての言葉がない。今の私たちに対して投げかける言葉を持たない大人たちが。」

彼彼女らの人生がどうした。憂鬱なんて概念がそもそもないのだろう。仕事の素晴らしさを悠々と語る彼らの目に私は何も感じることはできない。ただその凝り固まったまとわりついた思考に飲み込まれそうになるばかりだ。生きるのさえ面倒だ。せいぜい食事排泄睡眠に時間を費やしたところで目の前

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闘病記その2

結局は後付けに過ぎない。何もかも過ぎ去ってしまう。その時にはただ過ぎ去る時間を感じるのみ。それを認めようとしない悪魔が棲みついている。それなしには私の行動全てに対して肯定ができない悪魔が。
目の前のリンゴは見つめる限りリンゴのままだ。しかし世界は絶えず変化している。私はこれを許すことができない。それに反してドライブという行為はなかなか頼もしい。私の目の前にうつる世界は時間とともに絶えず変化してくれ

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闘病記その1

闘病記その1

大事なのは全て言葉が生まれるその瞬間であった。私は常日頃、それを探し求めては彷徨っていた。あのくすぐったい言葉が欲しかったのだ。私はそれらを生み出すことを欲し、またそれらにすがりつきたかった。ただそれだけであったのだ。
あの道を意味もなく颯爽と過ぎ去っていったのも、これはどんな言葉で言い表せられるのだろうという好奇心があったに過ぎなかった。だから私は多忙な青年を演じて両手に荷物を抱えたし、哀しい表

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