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最近の5冊

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5冊読んだら感想を書くマガジンです。ジャンルはバラバラ、そのときに読んだもので。
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記事一覧

大佛次郎『冬の紳士』を読んだ

大佛次郎『冬の紳士』を読んだ

先日、大佛次郎記念館へ行った。猫とカメラが好きな作家で、横浜を舞台にした小説も多く書いている。大正・昭和の時期に活躍、『鞍馬天狗』の名前は知っているけれどちゃんと読んだことはない。

昭和中期の作家の本はよく読んでいたけれど、もう2世代くらい前の人のはあまり手に取ってなかったな。そう思って帰り道にAmazonで本を探して、時代物ではない『冬の紳士』というタイトルに惹かれて読んでみた。

舞台は戦後

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スージー鈴木『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)を読む

スージー鈴木『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)を読む

スージー鈴木さんという音楽評論家の存在を知ったのはNHKBSの『球辞苑』だった。「マウンド」や「流し打ち」など野球のマニアックな1テーマで1時間というコアな番組で、その日のテーマは「応援」だった。

始まりはNHKBS『球辞苑』自身も千葉ロッテマリーンズファンのスージーさんは推し球団の話題をちりばめつつ、各球団のいろんな選手の応援歌について音楽的見地からいろんな切り口を教えてくれる。試合中のBGM

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最近の5冊+3冊:昔のことをもっと知りたい欲

最近の5冊+3冊:昔のことをもっと知りたい欲

5冊読んだら感想を書こう、という個人企画の一環。今回はこんなラインナップ。前回は4月か! と思って確認したら5冊+3冊でした。

織田武雄『地図の歴史 世界篇・日本篇』(講談社学術文庫)ちょっと前の「講談社学術文庫セール」で買った1冊。文字通り「地図史」についての超基本的な内容。開いてすぐ面白かったのは、地図は最初紙や皮のようなところに「書き付ける」ものとは限らなかったこと。石や木の実などを使って

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最近の5冊:珠玉のエッセイと重厚小説

最近の5冊:珠玉のエッセイと重厚小説

5冊読んだら感想を書こう、という個人企画の一環。今回はこんなラインナップ。

向田和子編『向田邦子ベスト・エッセイ』(ちくま文庫)親が好きで単行本を買っていたので、昔から読んではいた。NHKドラマも観ていたせいで向田さんのお父さん像は勝手に杉浦直樹さんになっている。

ただ、それは二十歳前の話。あれから時間と経験を経て、仕事でもいくらか動いて実績が残り始めて、身体的にも「ピークは過ぎたな」と感じ始

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最近の5冊:ある1冊から参考文献つながり

最近の5冊:ある1冊から参考文献つながり

5冊読んだら感想を書こう、という個人企画の一環。今回はこんなラインナップ。5冊の情報は無料、読んだ小説のネタバレを含む部分だけ有料にしています。

武田徹『「隔離」という病い 近代日本の医療空間』(中公文庫)もとは2010年刊行の本で、筆者は日本という共同体の「質」に関する議論を隔離という医療行為を通して描くとしている。隔離には単なる感染予防という実効性だけではなく差別や排除のメカニズムも潜んでい

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最近の5冊:いつもの当たり前が、全然当たり前ではない世界

最近の5冊:いつもの当たり前が、全然当たり前ではない世界

5冊読んだら感想を書こう、という個人企画の一環。今回はこんなラインナップ。

開高健『青い月曜日』(集英社文庫)一言で表すなら「禍々しいまでの生と死と性がごった煮になっている」。開高健はどちらかというとサントリー宣伝部のような洒落た広告業界の人、というイメージでいた。『オーパ!』のような冒険ルポタージュを書く人だとも知っている。でもあまり小説家のイメージがなかった。

ちゃんと読んでみよう、と手に

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最近の5冊:つい開きたくなる写真集

最近の5冊:つい開きたくなる写真集

家には「読み物」としての本と「眺め物」としての本がある。写真集は代表的な後者だ。その中でも好きな5冊を挙げてみようと思う。

コロナ・ブックス『植田正治の世界』(平凡社)手頃な価格でアート・ビジュアル系の作品を楽しめるシリーズの1冊。植田正治は1913年生まれ、2000年に亡くなった写真家。1930年代から報道写真でもポートレートでもない「構図を演出した芸術的な写真」を撮影して「植田調」といわれる

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最近の5冊:日本語の運用が気になっている

最近の5冊:日本語の運用が気になっている

90年代後半、ニフティのホームページ用ドメインでテキスト主体のサイトを開設していた。そのときしばらく続けていたのが「最近の10冊」というコンテンツ。10冊読んだら感想を書く。10冊読まないと書けない。

コンパクトにポンポンと並べる構成。自分の履歴と「受け取ったもの」がすぐ分かるので便利だった。じゃあ、今度は5冊でやってみよう。

石牟礼道子『苦界浄土』(講談社文庫)何について書かれているか知って

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