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うたかたではない日々(短編集)

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noteにポツリポツリと載せている短編を集めたものです。他のサイトに載せているものもあります。舞台は現代で10代~20代が主人公のものが多いです。
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記事一覧

【短編小説】ハレルヤが聴こえる夜(2)

【短編小説】ハレルヤが聴こえる夜(2)

📚一昨年書いた、『ハレルヤが聴こえる夜』の続編になりますが、そちらを既読でなくても大丈夫だと思います。ストーリィは架空です。

♪🎶

 新宿駅を出たところにライオンがいるというので、私は東口を出てからずいぶんうろうろと探し回った。どうやら逆方向に歩いてしまったらしく、南口の方へ行ってまた引き返そうとしたときにスマホが「ブーン、ブーン」と唸り声をあげた。
 ハラダからだった。
「ヨネダーっ、遭

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【短編小説をひとひら】当世女子高生的東京ガイド

【短編小説をひとひら】当世女子高生的東京ガイド


 受験する大学の下見を兼ねて、東京に行くことになった。
 いや、はっきり言って下見はおまけですって。岡山の女子高生が東京に2泊3日で、バス泊加えて4泊5日で、しかも親公認で行ける機会なんてそうそうあるわけない。

 神戸でも、大阪でもなく……東京だよ!

 SNSでつながってる友達にさっそく連絡した。神奈川の川崎に住んでいる野々と東京の品川区に住んでいる芙美だ。彼女たちは大喜びで、
「うちに泊

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【短編小説】ハレルヤが聴こえる夜

【短編小説】ハレルヤが聴こえる夜

※このお話はフィクションです。写真はイメージで、本文とは関係ありません。

◆ライブハウスの悲劇

ライティングは百花繚乱、色が目まぐるしく背伸びしては縮んでいく作業を繰り返す。もうラストナンバーだ。花火大会と同じ。最後にいちばん派手にするの。

ピアノの音がどんどん圧力を上げて、空気をぎゅっと握りしめていく。ステージの上の人は枯れた声をこれでもかとばかりにぎゅっと絞り出す。

「この曲にはスポッ

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【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ5(最終話)

【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ5(最終話)

 ひかりは現像された写真を見て、まず十河岳人(そごうがくと)に電話をかけた。十河はひかりが話を始める前に、いきなり核心に触れる。

「二人が写っていたのでしょう」
「そうです!どうして分かったのですか?」

「カメラがあると聞いたときから、そう思っていました」と十河は冷静な口調を変えない。

 ひかりは写真の内容を早口で知らせる。全て室内で撮られていること。枚数は10枚。萌世が被写体のものが5枚、

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【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ4

【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ4

 新宿駅から歌舞伎町を通り抜け、新宿区役所を見ながら進むと、「新宿ゴールデン街」という看板を見つけることができる。昔ながらの、こじんまりとしたスナックやバーが並ぶエリアである。ここは歌舞伎町とは趣が異なり、落ち着いて飲みたい大人が足を向ける場所だ。

 十河岳人(そごうがくと)はひかりに、「ゴールデン街脇の花園神社で待ち合わせよう」と告げた。ひかりはさっそくスマホの地図を見ながら、花園神社を目指し

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【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ3

【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ3

 鈴原萌世の死と十河(そごう)寿人の失踪、ふたつのできごとは本当につながっているのだろうか。

 ひかりは十河岳人、寿人兄弟の実家に行く前に萌世のことももう少し知っておかなければならないと思い、久しぶりに彼女の家族に連絡を取ることにした。携帯を手に電話帳のデータを検索する。そして、ふと手を止める。

 萌世が行方不明になったとき、彼女の母や姉と何度も電話で話したことをひかりは思い出す。あの夜の、切

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【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ2

【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ2

 翌日、ひかりが出社してドアを開けようとすると、ワイヤの入った不透明なガラスの向こうに中年の女性の顔がうっすらと透けて見えた。
 ひかりはドアをノックする。
 するとドアが思い切り開く。
 向こう側には経理の萩元葉子が立っていた。手にはウェットシートが握られている。
「おはよう、ひかりさん。きのうは午後も天気がよくてよかったわね」と萩元がにこやかに言う。
「はい、ありがとうございました。お掃除、替

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【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ1

【短編小説をひとひら】カメラカメラカメラ1

 浦添ひかりはその日、珍しく午後一番に会社を早退した。社長からパートまで入れても7人しかいない小さい会社なので、休みの調整がなかなかできないのだ。

 もう70に手が届こうかという社長はいつもの通り、年代物の応接ソファに腰かけて、これまた年代物で黒く艶のある応接テーブルを目一杯使って作業をしている。大伸ばしにプリントした写真(四切サイズという)がバサバサと山になっていて、そこから来月の入賞作品を選

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【短編小説をひとひら】カサブランカ

【短編小説をひとひら】カサブランカ

※こちらは人の死をテーマに書いています。気になる方は閲覧をお控えください。

 萌世(もえよ)から最後のLINEが来たのは3日前のことだった。

 あ、順番がさかさまだけど、彼女とは、その前に会って食事をしていた。そのときのことからはじめたほうがいいかな。

 彼女は仕事で悩んでいるみたいで、「もう、辞めようかな」とうつむいていた。そのときはもうとっくに彼氏とも別れていた。いろいろなことに疲れてい

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【短編小説をひとひら】運命の人

【短編小説をひとひら】運命の人

 高見沢慶子は朝の4時に夢を見た。

 あまりに不思議な夢だったので、がばっと起きてしばらくは動悸が止まらないほどだった。再び眠る気にはならなかったので、起き出して資源ごみの始末に取りかかる。ビールのアルミ缶をすすぎ、ペットボトルのラベルをはがしキャップを分けて、そちらもすすいで水を切る。

「いやだ、ゆうべビール3缶も飲んだのね。洗う身にもなってよ」

 慶子のため息まじりのつぶやきを聞く者はい

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【短編小説をひとひら】夕暮れの海岸に花の香り

【短編小説をひとひら】夕暮れの海岸に花の香り

 学校の帰り、僕は海辺で寄り道をしていた。

 まだ少し寒い春の夕暮れで、人はいない。それをいいことに、僕は力まかせに砂を蹴散らして歩いていた。
 海からの風がぶわっと通りすぎる。僕は砂が入らないように、とっさに目を閉じた。

 目を開けると、まぶしいほど白いワンピースを着た女の人が見えた。
「コータロくん?」と彼女が僕に聞く。
 目を見開いて、呆然としたような顔だった。僕はその女の人に少しも見覚

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【短編小説をひとひら】理系男子による恋愛講座

【短編小説をひとひら】理系男子による恋愛講座

 夜の10時、児童公園で僕はまたマナミと話していた。指定席はブランコだ。3つ並んでいるブランコのうちの2つがまた、人力でゆっくりと振り子運動をはじめる。

「私もう、これ以上は無理かも……」

 最近、マナミはどんどんThe Endの方向に向かっているようだ。誤解しないでもらいたい。僕とじゃない。ユウスケとのことだ。僕はそれを聞いているだけ。

 ブランコは互い違いにゆれている。キシ、キシと音を立

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