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詩の世界

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詩のエチュード(練習曲)を書いています。
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記事一覧

【詩作】壁の向こうに

【詩作】壁の向こうに

嘆きの壁に向かって 嘆くがいい

噴火する憤怒も 刹那の報復も
力だけで 正義が勝つ
かつての被害者が いま加害者になる
絶えることのない 憎しみの連鎖

そんなに 力が欲しいのか
そんなに 悲しみが欲しいのか

歴史の流れを 追わなければ
到達し得ない 真実がある
民草の視座で 語らなければ
見えない世界がある

遠くで 涙を枯らす人々よ
見えざる友よ
新たな憎しみに 加担しないことが
非戦とい

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【詩作】海へ

【詩作】海へ

寄せては返すさざ波で
静かに私を満たす海

少しばかり恥じらうように
水面を小刻みに揺らしながら
淡く囁く波の音は
次第に熱を帯びてゆく

やがて最も高みに達した波濤は
荒々しく私の洞穴を貫き
迸る真白な飛沫は
未知なる宇宙の奥へ――

悶え叫ぶ呼吸が尽き果て
再び碧い静けさが訪れた時
大理石のような煌めきで
あなたの水面は光り輝く

ああ 海よ
私の愛しき海よ

あなたの歓喜の汗と
愛に溢れた接

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【訳詩】マクベスのTomorrow Speech

【訳詩】マクベスのTomorrow Speech

明日も、明日も、また明日も
人生最後に記録されるその瞬間を目指して
のろのろと日ごと歩みを進めてゆく。
我々が生きたあらゆる日々は
愚か者が塵芥に帰すまでの道を照らしただけだ。
消えろ、消えてしまえ、そんな短い蝋燭など!
人生は歩く影法師、惨めな役者だ。
舞台の上で見得を切ったり、おろおろしたり
やがては見向きもされなくなる。
所詮はバカの話さ、怒り狂って騒がしいだけで
あとは何の意味もない。

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【詩作】忘れな草 -Forget-me-not-

【詩作】忘れな草 -Forget-me-not-

悲しめる母なる大地の子守歌を聴け

雛鳥たちは 虚空を舞う翼を求めて
春の訪れを 心待ちにさえずり
夏には 蒼穹の天を仰ぎながら
向日葵が お日さまと笑っている

やがて 麦の穂の実る秋は過ぎ
真白に広がる雪の絨毯を 橇が走る頃
調子のよい 勇ましい軍靴の音は
地響きを立てて やって来た

踏みしめられた 黒い土の下に
まことを知る 春の蕾は
かたく口を閉ざされて
とうとう 涙も枯れてしまった

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【詩作】止まった季節

【詩作】止まった季節

詩作の集まりに積極的に顔を出すようになって約1年。職業柄、日頃は無味乾燥なお役所文書やら商業用の文章ばかり扱っているので、「言葉に対する感覚を麻痺させないために」という、いささか不純な動機から(?)せっせと通っているわけですが。

もちろん、詩は小さい頃から、手の届かない憧れの世界でした。「詩人になるか、そうでなければ、何にもならない」と言って神学校を脱走したヘッセの人生、かっこいいですねえ……。

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【詩作】名前たちの歌

【詩作】名前たちの歌

紙とペンがないので
歌にして 彼らは記憶した
一つひとつの名前に
刻まれる 生きた証を

在りし日の想い出を
忘れ去ることのないように
かの地で 奪われた尊厳を
取り戻すために

看守の目を欺き
人知れず 唇を震わせ
嗚咽にかすれた声で
亡き人の名を呼ぶとき

その旋律は
祖(おや)から授かりし
幾世紀もの歴史を流れて
永遠(とわ)へと響く

― dedicated to the film "Th

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【詩作】小さき苗木 ―アッシジの聖クララに捧ぐ―

【詩作】小さき苗木 ―アッシジの聖クララに捧ぐ―

  一

サン・ダミアーノの小さな園に
兄弟の手で植えられた
一本の苗木

いつしか
慎ましやかに
大地に根を張り

いくつも伸びた枝の先には
美しい花が咲いて
数多の実を結びました

  二

貧しい食卓の周りには
豊かに燃えている心の
奇跡の火

パンの上に
刻まれた十字は
献身のしるし

降誕日に響きわたった
歌とオルガンの調べは
深き慰め

  三

あなたは
大いなる光

この世の軛(く

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【詩作】愛の証

【詩作】愛の証

畢竟、人は一人でこの世に生まれ、一人で去る。
この偉大なる命の理(ことわり)。

今、私がこの世に在るのは、愛したことを確かに証しするため。

だからこそ私は謳おう、
人生は素晴らしく、生きるに値するのだと。

【詩作】邂逅 ―reprise―

【詩作】邂逅 ―reprise―

異国の空を舞う鳥は
淋しさの尽きるまで
西へ 西へと
飛ぶという

愛の喪章を胸に
地の果てへ旅立ち
孤島の切り立つ崖に
降り立てば

春の波濤は千々に砕けて
泡沫(うたかた)に消えゆき
悠久の空の下には
碧(あお)く光る海

寄せては返す
愛おしさの記憶を
海鳥たちよ
運んでおくれ

一度でも愛した心は
愛を知らないよりも
海がこんなにも碧い訳を
知るだろう

ああ 海よ
大いなる腕に抱かれて

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【詩作】邂逅

【詩作】邂逅

愛と別れて
一人旅立ち
最果ての孤島に
降り立てば

異国の海は
果てしなく
碧(あお)い光で
私を抱(いだ)く

大いなる腕(かいな)の中で
海からの囁きを
私の胸は
確かに聴いた

一度でも
愛を知ったことを
印章に深く
刻みつけて

愛した時間(とき)が
決して
泡沫(うたかた)の夢では
ないように

体中をめぐる
歓(よろこ)びに
打ち震えた魂を
海へ返す――

【詩作】月下

【詩作】月下

月明かりに照らされて
まばゆく煌めく
淡雪の上に
残された
孤独な黒き足跡

【詩作】夜想

【詩作】夜想

淋しみの結晶を
こころの底に沈めて
見上げれば
凍て空に浮かぶ
オリオンの淡き星影

【詩作】行進

【詩作】行進

灰色の街に谺(こだま)する
無言の呻き

透明な鉄鎖に繋がれた兵隊達が
無伴奏の葬送曲に合わせて
崩れかけた均整(シンメトリー)を保つ

課せられた自らの軛(くびき)を
一途に愛おしみながら

【詩作】この軽き私に

【詩作】この軽き私に

思い出させてください
日頃 身にまとう
傲岸さゆえに
気づかない 命の重みを

自らの手で
紅に染めた糸を
幾度となく
断ち切ろうとした

それでも 決して届かない
彼方の深く
偉大なる魂の
居る所まで

私に赦された
贖(あがな)いは
ただひとつ
命を生き切ること