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【詩作】忘れな草 -Forget-me-not-
悲しめる母なる大地の子守歌を聴け
雛鳥たちは 虚空を舞う翼を求めて
春の訪れを 心待ちにさえずり
夏には 蒼穹の天を仰ぎながら
向日葵が お日さまと笑っている
やがて 麦の穂の実る秋は過ぎ
真白に広がる雪の絨毯を 橇が走る頃
調子のよい 勇ましい軍靴の音は
地響きを立てて やって来た
踏みしめられた 黒い土の下に
まことを知る 春の蕾は
かたく口を閉ざされて
とうとう 涙も枯れてしまった
【詩作】名前たちの歌
紙とペンがないので
歌にして 彼らは記憶した
一つひとつの名前に
刻まれる 生きた証を
在りし日の想い出を
忘れ去ることのないように
かの地で 奪われた尊厳を
取り戻すために
看守の目を欺き
人知れず 唇を震わせ
嗚咽にかすれた声で
亡き人の名を呼ぶとき
その旋律は
祖(おや)から授かりし
幾世紀もの歴史を流れて
永遠(とわ)へと響く
― dedicated to the film "Th
【詩作】この軽き私に
思い出させてください
日頃 身にまとう
傲岸さゆえに
気づかない 命の重みを
自らの手で
紅に染めた糸を
幾度となく
断ち切ろうとした
それでも 決して届かない
彼方の深く
偉大なる魂の
居る所まで
私に赦された
贖(あがな)いは
ただひとつ
命を生き切ること