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若きサムライのために (6)

(中高時代の恩師に依頼されて書いた文書をnoteでも公開しています。各話1,200字/全7回)

さて、ここで少し僕自身について話をさせてください。

外資に勤めているのだから英語はペラペラでしょう、と判で押したように聞かれますが、答えはノーです。

先に述べた通り、僕は●●学園という中高一貫校の出身なのですが、この学校はフランス人の宣教師がつくったので、フランス語教育が義務づけられています。

フランスには、文化で世界侵略するという明確な国家戦略があります。我々がフランス料理やワインをお洒落だと思ったり、パリが特別な都市であるかのように思ってしまうのは、まんまと彼らの計略にはめられているということでもあるのですが、それはそれとして、僕は中学に入る時に、第1外国語として英語かフランス語を選択しなければなりませんでした。1外は週6時間、2外は週2時間、つまりは2外はオマケでしかありません。

大学受験を考えた時、英語を選んだ方が選択肢が広がりますし、反対に、フランス語を受験科目として認める大学は限られますから、1外を英語にしたほうが無難ということになります。

ところが、この僕は昔からひねくれていたというべきか、
「今フランス語を選んで、あとから英語を学ぶことはできるかもしれないけど、その逆はない」
と主張して、親の反対も押し切ってフランス語を選びました。

自分で選んだことなので、それなりに頑張りましたし、大学でもフランス語の勉強を続けようと思うに至り、上智大学外国語学部に進学してフランス語の勉強を続けました。

新卒で入った会社は商社だったのですが、ちょうどアルジェリアで大きな仕事があり、同国の公用語であるフランス語が必須になることから、いきなり即戦力として様々な業務に携わることになりました。

しかし、海外営業をしていたらフランス語だけで済むはずもなく、英語から逃げる訳にゆきません。
文法が滅茶苦茶だろうと、語彙が足りなかろうと、電話やメールでやりとりしなければ仕事になりませんから、毎日格闘しました。

僕は今でも英語が旨く話せませんが、習うより慣れろとはよく言ったもので、人間は必要に迫られれば、好きだの嫌いだの得意だの苦手だのと言っているヒマなどなく、大抵のことは身につく生き物なのだと思います。

今の僕はフランス語のみならず、英語もある程度理解できますが、外国語を操るために最も必要なものは、実は日本語だと気づきました。

英語がペラペラで格好良い自分を夢見たとしても、何を話して何を分かってもらうのかを自分で理解していなければ、英語を話す以前のコミュニケーションが成立しないのではないかと思います。

自分の思考を整理して、それを相手に伝えるには、自分の日本語を鍛えることが何より大事で、それが出来てはじめて、外国語として発話できるのだと思います。

思考を整理する過程で、訳語や表現、構文を知らないという自分にないものに気づきます。そして、自分にないものを埋めてゆくことが、本来あるべき勉強なのだと思うのです。

(1,200字)

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